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第九話「舞踏会の招待状」
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朝露のきらめく中庭で、リディアは書物を手にしていた。
読み進めていたのはアランザール王国の近代外交史
日々の試練に追われながらも、彼女の視線は書の隅々まで抜かりがなかった。
「リディア様、お届け物がございます」
扉の向こうから声をかけたのは、侍女のマーニャ。
手にしていたのは、白地に金の封蝋が施された分厚い封筒――王室主催の正式な外交行事への招待状だった。
「……ありがとうございます。置いておいて」
リディアは顔を上げずにそう告げたが、マーニャは躊躇いがちに声を続けた。
「差出人が……王太子殿下のお名前でございました」
その瞬間、リディアの指がわずかに止まった。
ページを閉じ、彼女はゆっくりと視線を封筒に落とす。
封蝋にはアランザール王室の印。そして差出人――
“レティオス王国王太子 ユリウス・フェルナンド”
「……来るのですね」
リディアの声は静かだった。だが、そこには確かな確信があった。
晩餐会は、アランザール王の戴冠一周年と隣国使節の友好を祝す場。
リディアが王妃候補として、初めて“公の場”で紹介される場でもある。
そこに、かつての婚約者が使節団の一員として参加する
それは偶然ではなく、むしろ“意図的な配置”とすら思えた。
「マーニャ。ドレスの仕立て直しをお願いできるかしら」
「は、はい。どのような……?」
「“後悔している男”に、ふさわしい後ろ姿を見せられるものを」
微笑とともに、リディアはゆっくりと立ち上がった。
その姿には、もう過去に囚われた少女の影はなかった。
一方その頃、王都グラン・エレメア。
晩餐会の出席を控えたユリウスは、王宮の書庫で一通の報告を手にしていた。
「アランザール王妃候補、リディア・エルグレイン嬢。王命により正式に宮廷入り。現在、王妃課題において全項目を順調に消化中――」
報告書を読みながら、ユリウスの眉間がわずかに寄る。
「本当に……行ったのか、あの子は」
傍らにいたミレイナは、読みかけの本を胸に抱きしめたまま、顔を伏せた。
「ユリウス様……本当に行かれるのですか? 晩餐会に」
「当然だ。国家間の儀礼を欠くわけにはいかない。……何より、“確かめたい”」
その言葉に、ミレイナはかすかに震えた。
その震えは、冷気のせいではなかった。
「……“確かめる”? なにを、ですか」
ユリウスは答えない。
答えたところで、それが“誰にとっての真実”かなど、自分でも分からないからだ。
晩餐会の準備は着々と進んでいた。
王宮の調度品が磨き上げられ、王妃候補の名のもとに、あらゆる視線が集まり始める。
そして、ある老貴族がつぶやいた。
「面白い……この舞踏会は、“王妃候補の真価”を問う場になるぞ」
そこに集うのは、各国の使節、アランザールの旧貴族、そして
かつてリディアを捨てた者たち。
試されるのは“耐える強さ”ではない。
“堂々と、笑って立つことのできる女”であるかどうか。
読み進めていたのはアランザール王国の近代外交史
日々の試練に追われながらも、彼女の視線は書の隅々まで抜かりがなかった。
「リディア様、お届け物がございます」
扉の向こうから声をかけたのは、侍女のマーニャ。
手にしていたのは、白地に金の封蝋が施された分厚い封筒――王室主催の正式な外交行事への招待状だった。
「……ありがとうございます。置いておいて」
リディアは顔を上げずにそう告げたが、マーニャは躊躇いがちに声を続けた。
「差出人が……王太子殿下のお名前でございました」
その瞬間、リディアの指がわずかに止まった。
ページを閉じ、彼女はゆっくりと視線を封筒に落とす。
封蝋にはアランザール王室の印。そして差出人――
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「……来るのですね」
リディアの声は静かだった。だが、そこには確かな確信があった。
晩餐会は、アランザール王の戴冠一周年と隣国使節の友好を祝す場。
リディアが王妃候補として、初めて“公の場”で紹介される場でもある。
そこに、かつての婚約者が使節団の一員として参加する
それは偶然ではなく、むしろ“意図的な配置”とすら思えた。
「マーニャ。ドレスの仕立て直しをお願いできるかしら」
「は、はい。どのような……?」
「“後悔している男”に、ふさわしい後ろ姿を見せられるものを」
微笑とともに、リディアはゆっくりと立ち上がった。
その姿には、もう過去に囚われた少女の影はなかった。
一方その頃、王都グラン・エレメア。
晩餐会の出席を控えたユリウスは、王宮の書庫で一通の報告を手にしていた。
「アランザール王妃候補、リディア・エルグレイン嬢。王命により正式に宮廷入り。現在、王妃課題において全項目を順調に消化中――」
報告書を読みながら、ユリウスの眉間がわずかに寄る。
「本当に……行ったのか、あの子は」
傍らにいたミレイナは、読みかけの本を胸に抱きしめたまま、顔を伏せた。
「ユリウス様……本当に行かれるのですか? 晩餐会に」
「当然だ。国家間の儀礼を欠くわけにはいかない。……何より、“確かめたい”」
その言葉に、ミレイナはかすかに震えた。
その震えは、冷気のせいではなかった。
「……“確かめる”? なにを、ですか」
ユリウスは答えない。
答えたところで、それが“誰にとっての真実”かなど、自分でも分からないからだ。
晩餐会の準備は着々と進んでいた。
王宮の調度品が磨き上げられ、王妃候補の名のもとに、あらゆる視線が集まり始める。
そして、ある老貴族がつぶやいた。
「面白い……この舞踏会は、“王妃候補の真価”を問う場になるぞ」
そこに集うのは、各国の使節、アランザールの旧貴族、そして
かつてリディアを捨てた者たち。
試されるのは“耐える強さ”ではない。
“堂々と、笑って立つことのできる女”であるかどうか。
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