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第十話「再会、王太子と令嬢」
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楽の音が、王宮の大広間を満たしていた。
豪奢なシャンデリアに照らされた晩餐会の会場では、各国の使節団と貴族たちが華やかな衣装に身を包み、賑わいを見せている。
アランザール王の戴冠一周年を祝す、公式晩餐会。
その中央に座すのは、若き王――カイ・アランザール。
その傍らに並ぶのは、深紅のドレスを纏った王妃候補、リディア・エルグレイン。
今宵、彼女は“正式に公の場へ姿を現す”ことを求められていた。
無数の視線が注がれるなかでも、リディアは微塵も動じない。
緩やかに編み込まれた黒髪、背筋を伸ばした姿勢、その瞳に宿る静かな威厳。
まさに“王妃の風格”だった。
そして、会場の扉が開く。
「レティオス王国王太子、ユリウス・フェルナンド殿下。並びに、その随行使節の皆様――御到着です!」
声高な報せに、会場の空気が一瞬揺れる。
その名を知る者も、知らぬ者も、“何かが始まる”予感に背筋を伸ばした。
入場したユリウスは、金と紺を基調とした礼装に身を包み、堂々とした足取りで進んでくる。
だがその目は、まっすぐに――リディアを捉えていた。
「……変わったな」
誰にともなく呟いたその声は、自分の内側に向けられたものだった。
かつての“忠実な婚約者”ではない。
今や、隣国の王妃候補として燦然と輝く姿。
それは、彼が一度も真正面から見ようとしなかった“本物の彼女”だった。
リディアは、彼を見ていた。
その視線は、過去への憎しみでも、哀れみでもない。
ただ、“終わった人間”を見下ろすような静かな目だった。
「ご機嫌よう、ユリウス殿下。お変わりありませんか?」
その声音は、完璧な礼儀と、淡い皮肉に彩られていた。
「……ああ。君こそ、まるで別人のようだ」
「“別人”ではございません。私はただ、自分の居場所に戻っただけですわ」
さらりと返され、ユリウスは言葉を失う。
その後ろで、控えるミレイナが、緊張した面持ちでリディアを見つめていた。
その瞳には、恐れと、羨望と、そして理解できぬ怒りが混ざっていた。
なぜ、あなたはそんなに美しく、堂々としていられるの?
かつては“平民の星”だったミレイナが、今はまるで“付き添い”のようにしか見えない。
その事実だけが、彼女の心を締めつけた。
「本日は、ご招待いただき光栄です。陛下にも、感謝を申し上げたい」
ユリウスの言葉に、カイは一歩も引かぬまなざしを向けた。
「王妃候補の紹介に、君が間に合ったことは幸運だったな。……“見る目がある”とは、必ずしも一度で成されるものではないから」
ユリウスの目がわずかに揺れた。
それは、彼の人生で初めて“言葉に敗北した”瞬間だった。
その夜、舞踏会の喧騒のなかで
リディアはただ、一度だけカイに微笑んだ。
「今夜は、少しだけ気が晴れましたわ」
「それはよかった。……だが、私はもう少し、君の“戦う顔”も見てみたかったな」
「戦わずとも、勝つ方が優雅でしょう?」
ふたりの間に流れたその会話に、真意を知る者は少ない。
けれど、ただ一つだけは誰もが感じていた。
“王妃とは、こういう女だと。
豪奢なシャンデリアに照らされた晩餐会の会場では、各国の使節団と貴族たちが華やかな衣装に身を包み、賑わいを見せている。
アランザール王の戴冠一周年を祝す、公式晩餐会。
その中央に座すのは、若き王――カイ・アランザール。
その傍らに並ぶのは、深紅のドレスを纏った王妃候補、リディア・エルグレイン。
今宵、彼女は“正式に公の場へ姿を現す”ことを求められていた。
無数の視線が注がれるなかでも、リディアは微塵も動じない。
緩やかに編み込まれた黒髪、背筋を伸ばした姿勢、その瞳に宿る静かな威厳。
まさに“王妃の風格”だった。
そして、会場の扉が開く。
「レティオス王国王太子、ユリウス・フェルナンド殿下。並びに、その随行使節の皆様――御到着です!」
声高な報せに、会場の空気が一瞬揺れる。
その名を知る者も、知らぬ者も、“何かが始まる”予感に背筋を伸ばした。
入場したユリウスは、金と紺を基調とした礼装に身を包み、堂々とした足取りで進んでくる。
だがその目は、まっすぐに――リディアを捉えていた。
「……変わったな」
誰にともなく呟いたその声は、自分の内側に向けられたものだった。
かつての“忠実な婚約者”ではない。
今や、隣国の王妃候補として燦然と輝く姿。
それは、彼が一度も真正面から見ようとしなかった“本物の彼女”だった。
リディアは、彼を見ていた。
その視線は、過去への憎しみでも、哀れみでもない。
ただ、“終わった人間”を見下ろすような静かな目だった。
「ご機嫌よう、ユリウス殿下。お変わりありませんか?」
その声音は、完璧な礼儀と、淡い皮肉に彩られていた。
「……ああ。君こそ、まるで別人のようだ」
「“別人”ではございません。私はただ、自分の居場所に戻っただけですわ」
さらりと返され、ユリウスは言葉を失う。
その後ろで、控えるミレイナが、緊張した面持ちでリディアを見つめていた。
その瞳には、恐れと、羨望と、そして理解できぬ怒りが混ざっていた。
なぜ、あなたはそんなに美しく、堂々としていられるの?
かつては“平民の星”だったミレイナが、今はまるで“付き添い”のようにしか見えない。
その事実だけが、彼女の心を締めつけた。
「本日は、ご招待いただき光栄です。陛下にも、感謝を申し上げたい」
ユリウスの言葉に、カイは一歩も引かぬまなざしを向けた。
「王妃候補の紹介に、君が間に合ったことは幸運だったな。……“見る目がある”とは、必ずしも一度で成されるものではないから」
ユリウスの目がわずかに揺れた。
それは、彼の人生で初めて“言葉に敗北した”瞬間だった。
その夜、舞踏会の喧騒のなかで
リディアはただ、一度だけカイに微笑んだ。
「今夜は、少しだけ気が晴れましたわ」
「それはよかった。……だが、私はもう少し、君の“戦う顔”も見てみたかったな」
「戦わずとも、勝つ方が優雅でしょう?」
ふたりの間に流れたその会話に、真意を知る者は少ない。
けれど、ただ一つだけは誰もが感じていた。
“王妃とは、こういう女だと。
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