『婚約破棄された悪役令嬢ですが、隣国の冷徹王太子に拾われて溺愛されています』

みなこん。@イラストレーター

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第十二話「ユリウスの暴走と陰謀」

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 祝賀の宴が明けた翌朝、王宮の空気にはどこか張り詰めたものがあった。
 夜空を彩った花火の余韻はすでに消え、代わりに残っていたのは――静かな“ざわめき”だった。

 王が、異国の令嬢を婚約者として正式に指名した。
 それは宮廷全体にとっても、外交関係者にとっても、想定を超えた出来事だった。

 一方、使節団に与えられた離宮の一室で、ユリウス・フェルナンドは焦燥を隠しきれずにいた。

「どうして……」

 昨夜の宣言、リディアの毅然とした態度、そして――自分の内に渦巻く、説明のつかない“感情”。

「リディアが、あんな顔で笑うなんて……あのときは、俺の前では……あんなふうに笑ったことは、一度だって……」

 机に拳を叩きつけた。
 だが、それで何かが戻るわけでもない。

「……“あの夜”を、選び間違えたのか?」

 背後から、遠慮がちな声がかかった。

「ユリウス様」

 ミレイナだった。昨夜の舞踏会でも、終始、彼の傍に控えていた彼女。
 けれど、会話はなかった。視線も交わされなかった。

 彼女の中に積もり続けた“何か”は、静かに形を持ちはじめていた。

「どうして……リディア様ばかり、誰もが認めるのですか?
 私のほうが、ずっと――」

「ミレイナ」

 ユリウスの声が、低く遮る。

「……お前は、あの場に立てなかった」

 ミレイナの表情が、音もなく崩れる。

「でも……私、あなたの“真実の愛”だったはずじゃ……!」

「それは……お前が“昔のリディア”に見えたからだ。
 けれど、もう……彼女は前を向いていた。俺だけが、止まっていたんだ」

 言いながら、ユリウスは自嘲気味に笑った。

 そしてそのとき、脳裏に浮かんだのは、王城の回廊でリディアと交わした最後の言葉。

 《どうぞ、お気をつけて》

 あれは優しさではない。
 “もう二度と交わることはない”という、最後の別れだった。

 その夜、ユリウスは一人の男と密かに接触していた。

「……リディア・エルグレイン嬢の行動を、常時監視してほしい。正式な命ではない。……個人的な“観察”だ」

 男は静かに頷き、言った。

「陛下には知られたくない、ということで?」

「……そうだ。王の耳には入れるな」

 その命が、“王妃候補への非公式な諜報行為”であることは承知していた。
 だが、それでも彼は止まれなかった。いや、止まることを“許されない”と思っていた。

 彼女が、完全に“自分の世界から消えてしまう”前に。

 そしてその頃、王宮の一角。
 ミレイナは誰もいない中庭で、壊れた花瓶を見つめていた。

 その手には、小さな金細工のブローチ。
 それはかつて、ユリウスが彼女に贈ったもので――
 リディアの退場の夜に、無理やり“勝者の証”として手渡されたものだった。

「……私が、勝ったはずだったのに」

 その囁きは、夜風に溶けて消えていった。

 王宮という美しき劇場の舞台裏に、
 今、ひとつ、またひとつ、歪んだ影が広がりはじめていた。
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