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第14話:ロゼリア、選択のはじまり。そしてすれ違い
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「アレクシス様、今日はお客様対応をお願いできますか?」
「ああ。……何時からだ」
「開店からずっとですわ」
「……つまり、ずっとか」
「そうですわ」
朝の薬草店。
わたくしロゼリア=グレイスは、5人の求婚候補たちを“全員まとめて働かせる”という荒業に打って出ておりました。
王子には荷運び。
元婚約者には接客。
魔法少年には棚整理。
新参の薬学研究員には裏の調合手伝い。
そして、アレクシスには……“店の顔”。
静かで、無口で、でも一番頼れる――
誰が見ても「彼が一番様になっている」と思える立ち位置に、彼を据えましたの。
でも、その日のアレクシスは――ほんの少しだけ、いつもと違って見えました。
「……ロゼリア。お前、今日は何をする?」
「え? わたくし? わたくしは……ちょっと、村の診療所へ。新しい薬草の在庫確認ですわ」
「誰と?」
「え? いえ、ひとりで――」
「……本当に?」
「……ええ。ええ、そうですわよ?」
そのとき、なぜか少しだけ、胸が痛んだのです。
村の診療所の帰り道。
並んで歩いていたのは――ハロルド。
「偶然ですね。ちょうど僕も、この辺で調べものをしていたところで」
「偶然というには、あまりにタイミングが良すぎませんこと?」
「ふふ。運命って、そういうものですよ」
「……あのですね、ハロルド様。貴方はわたくしに、何を期待しておられますの?」
ふと、足を止めて問いかけた。
彼は、少しだけ目を細めて言った。
「――選んでほしいとは思っていない。ただ、君が“ひとりで抱えすぎて”しまうなら……」
「……?」
「僕は、君の“避難所”になってもいいと思ってる」
その言葉は、優しすぎて。
けれど、それが逆に苦しくて。
「……わたくし、決められませんわ。まだ、誰のことも」
「それでいいよ。焦らなくて。でも、君の時間は“無限”じゃない」
彼の声が、夕暮れの風に溶けて消えた。
***
夜。薬草店に戻ったとき、アレクシスは黙って棚を整理していた。
「……戻ったか」
「ええ。ただいまですわ」
「……一人じゃなかったな」
「…………」
言葉にできない沈黙。
でも確かに伝わってしまう空気。
(……何か、すれ違った気がしますわ)
(でも、それを正面から見てしまったら――もう、逃げ場がなくなる気がして)
だからわたくしは、少しだけ視線を逸らして、いつものように言いました。
「お茶を淹れますわ。アレクシス様も、少し休んでくださいませ」
「……ああ」
その返事が、いつもより少しだけ、遠く感じたのは――
きっと、気のせいではなかったのでしょう。
「ああ。……何時からだ」
「開店からずっとですわ」
「……つまり、ずっとか」
「そうですわ」
朝の薬草店。
わたくしロゼリア=グレイスは、5人の求婚候補たちを“全員まとめて働かせる”という荒業に打って出ておりました。
王子には荷運び。
元婚約者には接客。
魔法少年には棚整理。
新参の薬学研究員には裏の調合手伝い。
そして、アレクシスには……“店の顔”。
静かで、無口で、でも一番頼れる――
誰が見ても「彼が一番様になっている」と思える立ち位置に、彼を据えましたの。
でも、その日のアレクシスは――ほんの少しだけ、いつもと違って見えました。
「……ロゼリア。お前、今日は何をする?」
「え? わたくし? わたくしは……ちょっと、村の診療所へ。新しい薬草の在庫確認ですわ」
「誰と?」
「え? いえ、ひとりで――」
「……本当に?」
「……ええ。ええ、そうですわよ?」
そのとき、なぜか少しだけ、胸が痛んだのです。
村の診療所の帰り道。
並んで歩いていたのは――ハロルド。
「偶然ですね。ちょうど僕も、この辺で調べものをしていたところで」
「偶然というには、あまりにタイミングが良すぎませんこと?」
「ふふ。運命って、そういうものですよ」
「……あのですね、ハロルド様。貴方はわたくしに、何を期待しておられますの?」
ふと、足を止めて問いかけた。
彼は、少しだけ目を細めて言った。
「――選んでほしいとは思っていない。ただ、君が“ひとりで抱えすぎて”しまうなら……」
「……?」
「僕は、君の“避難所”になってもいいと思ってる」
その言葉は、優しすぎて。
けれど、それが逆に苦しくて。
「……わたくし、決められませんわ。まだ、誰のことも」
「それでいいよ。焦らなくて。でも、君の時間は“無限”じゃない」
彼の声が、夕暮れの風に溶けて消えた。
***
夜。薬草店に戻ったとき、アレクシスは黙って棚を整理していた。
「……戻ったか」
「ええ。ただいまですわ」
「……一人じゃなかったな」
「…………」
言葉にできない沈黙。
でも確かに伝わってしまう空気。
(……何か、すれ違った気がしますわ)
(でも、それを正面から見てしまったら――もう、逃げ場がなくなる気がして)
だからわたくしは、少しだけ視線を逸らして、いつものように言いました。
「お茶を淹れますわ。アレクシス様も、少し休んでくださいませ」
「……ああ」
その返事が、いつもより少しだけ、遠く感じたのは――
きっと、気のせいではなかったのでしょう。
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