年下くんは三十路の私より経験が豊富でした。

オリゴ糖

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3.試作品と同僚 その2

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 街灯が次から次へと後ろへ流れていく。こうやって立花君の車で送ってもらうのは何回目だろう。兄妹…いや、保護者?そんな安心感のある同僚なんて、このさき出会えないだろう。

「茜?聞いてる?」

「ん?なんだっけ?考え事してた。」

「随分、安心しきってるな。まぁいいや。今回の商品開発、香料のベースは変わらないけど…イメージは、男性なんだ?」

「立花君って本当にすごい!表向きは、ユニセックスって設定だけど、イメージして作ってる男性がいるんだ。私の思考を読む特技でもあるの?!」

 わかる人に伝わると嬉しくて、ついはしゃいでしまう。

「特技か…。読みたいと思って、茜とは接してるよ。茜は今、付き合ってる人いるの?」

 まさかの返答と質問に驚きを隠せない。

「い、いないよ!1年前に別れたっきりかなっ!それに…」

 なんだか声が上擦ってしまい、余計なことまで話してしまいそうになる。

「それに…何?まだ、元彼を引きずってるとか?」

「…それはないかな。…ふったのは私だから。やっぱりダメだったの。においが…。」

「あぁ…。茜においフェチだもんね。」

 またまた、ずばりと言い当てられてしまう。

「う…そういう捉え方もあると思います…。」

 私は、この人にはこの香りを纏ってほしいと思い描ける人が恋愛対象になる。その理想の香りを身につけて、香りが美しく変化していく人がとても魅力的にみえてしまうのだ。

「俺は、茜の調香好きだよ。」

「ありがとう!調香したものを褒められると我が子を褒めてもらってる気分だよ!」

「そっか。」

 やけにそっけない返事。テンションの差を感じてしまう。少し気まずい空気の中、自宅が見えてきた。
 いつものように自宅マンションのパーキングに停車、大量の荷物を立花が持ってくれ車から降りる。エントランスまで向かう最中、気まずさと沈黙が怖くてベラベラと話してしまう。

「今日は、ありがとう!いつもごめんね!今度、何かお礼させて!何がいいかなぁー!」

「茜さ、わかりやすすぎるよ。俺も大人げなかった。悪い。お礼は…そうだな。」

 グイっと茜の身を引き寄せ、無防備な身体はすっぽり腕の中へ入ってしまう。

「た、立花君?!なにして……んっ…。」

 腰と頬を掴まれ一瞬何が起きたのか思考が追いつかなかった。腕に力を入れて身体の距離をとろうとするがびくともしない。唇が離れたかと思うと、また触れ、どんどんキスは深くなっていく。

「ふっ……んんんっ!」

 息継ぎをするたびに、自分が作った試作品の香水の香りがする。体温が上がると匂いも香ってくる。

 でも、何か違う。

 -ドンっ!-

 そう思った時には、強く身体を押しのけていた。

「た、ちばな君…。なんで…。」

「俺は、茜の事いつもこうしたいって思ってたよ。前から好きだったんだ。」

 真っ直ぐでぎらぎらした視線を向けられると困ってしまう。なぜなら、彼は恋愛対象ではないから。

「ご、ごめん。立花君、ちょっとそこまでは考えてなかったから…。」

「うん。分かってるよ。茜に伝えるつもりなかったんだけど、言いたくなったんだ。障害があれば燃えるタイプなんでね。チャンスがあればっていつも思ってるから、忘れないで。ちなみに明日は、土曜日だから会社休みだよ。間違えないようにね。」

 いつもの彼の表情へと戻った事、明日が休日な事を伝えられ、少しホッとしたが、週明けからは会社でどんな顔して会えばいいのか…それだけが頭のなかで渦巻く。
 立花は、何事もなかったようにお疲れ様と挨拶をして、車へ戻っていった。
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