年下くんは三十路の私より経験が豊富でした。

オリゴ糖

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11.研修1日目 夜1

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 皆足早にホテルへ戻っていった。

「なぁ、茜。中身なんだと思う?」

「うーん。何だろう。パリで有名なお菓子とか?」

「そんなに重くないから、かもな。しかし、男でも惚れるわ。茜、今日の夜、食事にいかない?」

「同性でもそう思うんだね!完璧すぎて、びっくりしちゃうくらいだね。食事…、行こうっか!立花くんの奢りで!」

「よっしゃ!んじゃ部屋まで迎えに行くから!」

 なるべく、不自然にならないように会話を心がける。ロビーで別れた後、部屋に入り真っ先に紙袋を開ける。

「香水…?」

 中には2種類の小さな香水ボトルと小さな紙も入っている。

「勉強熱心な君へ。2種類の香水を送るよ。今度、答え聞かせて。近くにいる人には気をつけて。また、会おう。」

 ——近くにいる人…?まさか…

 ーコンコン—

「茜。迎えに来たよ。」

 頂いた物を紙袋へしまいドアを開けた。

「お待たせ!どんな夕飯がいいかなー。立花君は何が食べたい?」

 さっきの疑問が残ったまま、消化不良の様な感覚だった。

「そうだなぁ…まだ、日本食は恋しくないから、レストランみたいな所へ行こう!」

 立花君と食事を終え、ビールバーに向かった。昨日、香原と行ったバーとは違い、馴染みやすい雰囲気のお店。

「茜ごめん!ビールが飲みたくて、来ちゃった!」

「ううん。大丈夫だよ!私も一杯飲もうかな!」

 陽気な店内に各々自由にお酒を楽しんでいる人達。

「「1日目お疲れ様ー!」」

 疲れた体と満腹の胃袋に注がれるビールはなんとも生き返るようだった。

「んまい!」

「美味しい!」

 眼を合わせて、笑う2人。騒がしい店内に自然と距離が近くなる。

「俺ら、付き合ってるように見えるかな?」

「えぇ?!そんな事ないよ!」

 思わずそんな事を口走ってしまう。
 突然の立花君とキスして以降、気まずくなるのは避けたい。

「立花君、私は同僚でありたい。立花君の仕事ぶりはいつ見ても気持ちがいいし、信頼してる。私の仕事の良き理解者でいて欲しい。」

「うん。知ってる。今まで、茜に信用してもらう為に頑張ってきたし、茜の仕事ぶりは、時々無茶をする。だから、守りたいって思った。あの時、キスしたのは悪いと思ってる。でも、忘れたいとは思ってないよ。」

 真っ直ぐとした視線。あの時と同じで、体が強張ってしまう。

「あ、あの時、やっぱり違うって思ったの。」

「手強いなぁ…。」

 茜の頭をくしゃくしゃと撫でて一気にビールを飲み干した。茜もつられてグラスを空にする。
 少し飲んだあとホテルへ戻るひと気の少ない通りを2人で歩く。

「立花君は、彼女いないの?」

「それを俺に聞くかよ。茜ちょっと酔ってるだろ。…いたけど、随分前に別れたよ。」

「酔ってないよ。なんで別れたの?」

 どうやら別れた理由は、私が原因だったらしい。
 私の仕事ぶりを心配した立花君は、連日帰宅が遅く、当時の彼女に振られてしまったようだった。そんなことを初めて聞いた茜は、申し訳ない気持ちで一杯になった。

「ごめんね…。彼女さん…。」

「いいんだよ。結局は彼女に次の男が出来て、俺は仕事を理由に茜と一緒に居たかったから、お互い様だったな。今も昔も茜が気になってたんだなぁ…。」

 歩く足を急に止めて、腕を掴まれ抱きしめられる。

「こういうの、やめようよ…立花君。」

「こういうふうになるかもしれないって考えなかった?ここ最近フラれてばっかりだから、少しは責任感じてくれよ。触れたくて、仕方がない。」

 抱きしめられた腕にチカラがこもり、掠れた声で話す。

「考えた事あったけど、同僚として信じてるから。」

「……っ。もう、同僚、同僚聞き飽きたよ!」

 —ドンッ—

 街灯がない少し暗い場所の壁に押しつけられる。

「立花君!ヤダって…!」

「どうせ俺は、何もしてこない男って思ってるんだろ?あの時の事忘れたのか?」

 両足をこじ開けて、足で捕えられる。顎を掴まれキスをされそうになる。

「し、信じてるから!立花君は、いい人だもん!お願いだから、もうやめて…。」  

 涙が出てくる。それに気づいた立花は、ごめんと一言残して、フラフラと1人で歩き始めた。

 ——怖くて、手が震える…。香原さんがいう近くの人って立花君の事だったのかな。

「あれ?茜さん、どうしてこんなところにいるのかな?」

 声がする方を振り返ると、香原が窓から手を振っている。

「…?!ちょっと待ってて、すぐ降りるから!」

 かなり急いで降りてきたのだろう、足元はサンダルで、髪の毛は下ろしていて、会社にいた時よりもずっと若く見えた。
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