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スレード5
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「貴女が、カルイセンの婚約者さん?」
アリスは、初対面だというのに僕たちに名乗ることすらせずに声をかけてきた。
礼儀も知らないのかこの女は。
僕は面食らって固まってしまう。
アンジェラも同じで、数秒ほど硬直してすぐに返事をした。
「はい、そうですが」
無表情だが、戸惑っているのはすぐにわかった。
本来なら、失礼な態度を咎めるべきなのだが、親に溺愛されるアリスに楯突くとアイネス公爵が黙っているはずがない。
家に抗議される可能性が高い。それに、コリー公爵は僕たちを守ってくれるはずがない。
「とても綺麗な方ですね。人形みたい」
アリスは、太陽のような微笑みを浮かべてそう言った。
人形と表現したのは人らしさを感じられない。と、アンジェラに暗に言いたいのだろう。
アンジェラは、表情を硬くさせて「ありがとうございます」とだけ返した。
アリスは笑顔のまま頷いて、みるみる表情を曇らせた。
そして、とうとう目から一筋の涙を流して「ごめんなさい」とわざとらしく謝った。
「……っ、申し訳ありません。私、こういった場に慣れなくて、だからカルイセンに付き添ってもらったんです」
親しげにカルイセンを呼び捨てにするアリス。
自分が誰よりもカルイセンと親しいのだと言っているように僕には見えた。
「……そうなんですね」
アンジェラは、ショックを受けたように言葉に詰まりながらも返事をした。
「嫌な思いをさせてしまいましたよね。ご、ごめんさい」
言いながら、アリスはアンジェラの手を握りしめた。
アンジェラは、アリスの突発的な行動に驚いた様子で思わず手を振り払った。
「っ、痛い」
強く振り払ったのだろう。アリスが顔を顰めて振り解かれた手を摩っていた。
「あっ、……そうですよね。嫌われても仕方ないことをしてしまいました。本当に申し訳ありません」
アリスは、ポロポロと涙を溢し出し、過剰なほどにアンジェラに謝罪をはじめた。
アリスの唯ならぬ様子に、周囲が気がつき始めた。
ヒソヒソと声が聞こえる。
『アンジェラ様が何かしたのかしら』
『冷たい人ですものね。きっと、アリス様に何か酷い事を言ったのよ』
アリスにもその声が聞こえているはずなのに、何度も「ごめんなさい」と、わざとらしく怯えてアンジェラに謝り続けた。
そして、ひとしきり謝った後に、涙を拭ってアンジェラに手を差し出した。
「……私、貴族になったばかりだから、何も知らなくて、だから、仲良くしてもらえますよね?」
絶対に断られない自信があるかのような口ぶり。
おそらく、今までの人生で拒絶された事なんてないのだろう。
彼女は誰からも愛されたのだろう。
自分を愛さない人などいないと言わんばかりの傲慢さが透けて見えてくる。
「……」
アンジェラは、何も返せないでアリスの手をただ見つめていた。
このままだとまたアンジェラの事を悪く言われる。
僕はそう思って、無理やり話を終わらせた。
「行こう。姉さん」
「スレード……」
アンジェラが、こくりと頷いた。
僕は、この状況で何も言わずに黙り込んでいる。アンジェラの婚約者に釘を刺す事にした。
「カルイセンさん、自分が常識知らずなことをしている自覚はありますか?」
平民と貴族の常識に差はあるかもしれないが、人としての最低限の道義というものは同じだと僕は思っている。
カルイセンのしていることは、道徳的にあり得ないことだ。
「……アリスが可哀想だから。君なら彼女の気持ちもよくわかるだろう?」
きっと、彼女が貴族に受け入れられるまでの苦労のことを言いたいのだろう。
僕も彼女と同じ愛人の子供だから。
だからといって、彼女の行動が常識的で受け入れられて当然なのかと言われたら、絶対にそんな事はあり得ない。
「僕にはわかりませんね。こんな常識知らずなこと、まともな神経の持ち主ならしないと思いますよ」
僕はカルイセンを睨みつけてそれだけ返した。
アンジェラの手を握ると、信じられないくらい冷たかった。
きっと、大好きなカルイセンが他の異性のエスコートをしたからだろう。
アリスがこれから何をするのかわからない。
アンジェラのことが僕は心配で仕方なかった。
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「貴女が、カルイセンの婚約者さん?」
アリスは、初対面だというのに僕たちに名乗ることすらせずに声をかけてきた。
礼儀も知らないのかこの女は。
僕は面食らって固まってしまう。
アンジェラも同じで、数秒ほど硬直してすぐに返事をした。
「はい、そうですが」
無表情だが、戸惑っているのはすぐにわかった。
本来なら、失礼な態度を咎めるべきなのだが、親に溺愛されるアリスに楯突くとアイネス公爵が黙っているはずがない。
家に抗議される可能性が高い。それに、コリー公爵は僕たちを守ってくれるはずがない。
「とても綺麗な方ですね。人形みたい」
アリスは、太陽のような微笑みを浮かべてそう言った。
人形と表現したのは人らしさを感じられない。と、アンジェラに暗に言いたいのだろう。
アンジェラは、表情を硬くさせて「ありがとうございます」とだけ返した。
アリスは笑顔のまま頷いて、みるみる表情を曇らせた。
そして、とうとう目から一筋の涙を流して「ごめんなさい」とわざとらしく謝った。
「……っ、申し訳ありません。私、こういった場に慣れなくて、だからカルイセンに付き添ってもらったんです」
親しげにカルイセンを呼び捨てにするアリス。
自分が誰よりもカルイセンと親しいのだと言っているように僕には見えた。
「……そうなんですね」
アンジェラは、ショックを受けたように言葉に詰まりながらも返事をした。
「嫌な思いをさせてしまいましたよね。ご、ごめんさい」
言いながら、アリスはアンジェラの手を握りしめた。
アンジェラは、アリスの突発的な行動に驚いた様子で思わず手を振り払った。
「っ、痛い」
強く振り払ったのだろう。アリスが顔を顰めて振り解かれた手を摩っていた。
「あっ、……そうですよね。嫌われても仕方ないことをしてしまいました。本当に申し訳ありません」
アリスは、ポロポロと涙を溢し出し、過剰なほどにアンジェラに謝罪をはじめた。
アリスの唯ならぬ様子に、周囲が気がつき始めた。
ヒソヒソと声が聞こえる。
『アンジェラ様が何かしたのかしら』
『冷たい人ですものね。きっと、アリス様に何か酷い事を言ったのよ』
アリスにもその声が聞こえているはずなのに、何度も「ごめんなさい」と、わざとらしく怯えてアンジェラに謝り続けた。
そして、ひとしきり謝った後に、涙を拭ってアンジェラに手を差し出した。
「……私、貴族になったばかりだから、何も知らなくて、だから、仲良くしてもらえますよね?」
絶対に断られない自信があるかのような口ぶり。
おそらく、今までの人生で拒絶された事なんてないのだろう。
彼女は誰からも愛されたのだろう。
自分を愛さない人などいないと言わんばかりの傲慢さが透けて見えてくる。
「……」
アンジェラは、何も返せないでアリスの手をただ見つめていた。
このままだとまたアンジェラの事を悪く言われる。
僕はそう思って、無理やり話を終わらせた。
「行こう。姉さん」
「スレード……」
アンジェラが、こくりと頷いた。
僕は、この状況で何も言わずに黙り込んでいる。アンジェラの婚約者に釘を刺す事にした。
「カルイセンさん、自分が常識知らずなことをしている自覚はありますか?」
平民と貴族の常識に差はあるかもしれないが、人としての最低限の道義というものは同じだと僕は思っている。
カルイセンのしていることは、道徳的にあり得ないことだ。
「……アリスが可哀想だから。君なら彼女の気持ちもよくわかるだろう?」
きっと、彼女が貴族に受け入れられるまでの苦労のことを言いたいのだろう。
僕も彼女と同じ愛人の子供だから。
だからといって、彼女の行動が常識的で受け入れられて当然なのかと言われたら、絶対にそんな事はあり得ない。
「僕にはわかりませんね。こんな常識知らずなこと、まともな神経の持ち主ならしないと思いますよ」
僕はカルイセンを睨みつけてそれだけ返した。
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きっと、大好きなカルイセンが他の異性のエスコートをしたからだろう。
アリスがこれから何をするのかわからない。
アンジェラのことが僕は心配で仕方なかった。
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