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転生してました
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最近、少しそっけない婚約者に呼び出されたリコリスは、期待に胸を膨らませていた。
ようやく目を覚ましてくれたのね。
平民上がりの男爵令嬢、アイリーンと婚約者のジェリドが一緒にいる姿をリコリスはかなりの頻度でよく見かけていた。
帰り道でのデートもなくなり、優しかったジェリドが少しずつ冷淡な態度になっていく日々を不安で過ごしていた。
そんなジェリドが急に話があると呼び出してくれたのだ。きっと、心を入れ替えてくれたのだとリコリスは思っていた。
「リコリス、君には呆れたよ」
しかし、婚約者であるジェリドのその一言でリコリスの淡い期待は打ち砕かれた。
「アイリーン嬢とは何もないのに、勘繰るのはやめてくれないか?彼女はただの友人だ。君に、僕の交友関係に口出しする権利はないなずだと思うが?」
ジェリドの口から畳み掛けるように吐き出される冷たい言葉。
エメラルドグリーンの瞳は冷たくリコリスを見据えている。
「君の頭の中には恋愛しか詰まっていないのか?浅はかだな」
リコリスを馬鹿にするような暴言はまだまだ続く。
確かにリコリスは、単身でアイリーンのところに行き婚約者のいる相手にその態度はいけない。と物申したことは何度かあった。
その度に、ジェリドから注意されリコリスは悔しかった。
ただ、貴族として何も知らないアイリーンに八つ当たりする事はしなかった。
「君は少しアイリーン嬢を見習ったらどうだい?まあ、無理だと思うけど。君が婚約者だなんて本当に嫌になるよ」
何をどう見習えばいいというのだ。
「アイリーンが婚約者だったらよかった」
その瞬間だった。リコリスの頭にずっこーんと衝撃が走った。
殴られたわけじゃない。それでも、札束で往復ビンタをされたような衝撃に、リコリスは頭を押さえた。
(何これ……)
何かが頭の中に流れ込んでいく。
それは、自分ではない。別人の記憶だ。
ソウダ、コノセカイハ、オトメゲームノセカイダ。
もう一人のリコリスがカタコトの日本語でリコリスに語りかけている。
ワタシハ、このセカイを、知っている。
(ここは、乙女ゲームの世界だ!)
リコリスは瞬時にそれを理解した。そして、どの乙女ゲームの世界に転生したのかもすぐにわかった。
薄茶色の髪の毛にエメラルドグリーンの瞳。「ジェリド」という名前。そのゲームの攻略対象の一人だ。
ヒロインにはある特徴がある。
ジェリドがアイリーンを見習えと言った理由はただひとつだ。
前世のリコリスは恐ろしいほどに沸点が低く。頭も悪く。そして……、ある大きなコンプレックスを抱えていた。
ジェリドはリコリスの地雷を思いっきり踏み抜いたのだ。
……と、リコリスは思い込んでいた。
「……と?」
ジェリドには、リコリスがなんと言っているのか聞こえなかったようで、冷たく見据えながら聞き返した。
「は?」
「誰が貧乳だと!?」
リコリスの声が今度ははっきりと聞こえたようで、ジェリドは驚いた様子で目を見開いた。
ちなみに、ジェリドは一度たりとも貧乳だなんてリコリスに言ったことはない。
「いや、一言も言ってないけど!?」
ジェリドは慌ててそれを否定する。
しかし、リコリスは否定を否定した。
「オメーが私とアイリーンを比べたんだろうが!」
「僕がアイリーン嬢と君の胸の大きさをいつくらべたんだ!」
「見習えって言ったじゃないか!」
「いやいやいや、そんな事一言も言ってないけど!」
見習え。とは言ったが、胸の大きさをどうにかしろだなんて、酷すぎる拡大解釈なのだが。
リコリスにとって貧乳はステータスではなくて、コンプレックスそのものだった。
そのため、巨乳のアイリーンを見習えという事は、巨乳になれ。と言われているようにしかリコリスには受け取る事ができなかったのだ。
「黙れ!少しも胸の大きさを見比べたことがないって言い切れるのか!?」
「それはっ……!」
リコリスの核心をつく一言にジェットは言葉に詰まった。
そのためリコリスは無言でジェットの顔をぶん殴った。
「……ぅ!何するんだ!」
「だけど、拳が出ちゃう。女の子だもん」
リコリスは瞬きをしながら、可愛らしく拳を作ってみせた。
「女の子関係ないだろう!」
無茶苦茶な言い訳にジェリドは声を荒らげる。
リコリスは今がチャンスだと思った。
「お前とは婚約破棄だ。そっちの有責な!」
リコリスは一方的な婚約破棄宣言をジェリドに突きつけた。
「は?」
「理由はお前のお友達と私の胸の大きさを比べたことによる精神的苦痛だ」
捏造にも近い破婚理由に、流石にジェリドもまずいと思ったのか慌て出す。
「ち、ちょっと待って」
「お前とは、婚約破棄だ!決めたもんね!絶対だもんね!」
「しませんけどぉ!?」
決定事項のように叫ぶリコリスに、ジェリドは「婚約破棄を破棄する」と騒ぎ出す。
「するもん!絶対に!」
「リコリス、落ち着いて、そんな一方的に婚約破棄なんて無理だよ」
地団駄を踏むリコリスをジェリドは必死に宥める。
リコリスは、プンスコと腹を立てながらある事を思いつく。
「……じゃあ、お前が豊胸手術したら婚約続行な!」
「意味がわからない!僕が巨乳になって何の意味がある!」
ジェリドの的確なツッコミに、リコリスは、フンスッっと鼻息を荒くさせた。
「とにかく婚約破棄だ!今すぐに!」
言うなりリコリスは、ジェリドに回し蹴りをぶちかました。
綺麗に吹っ飛ぶジェリド。
それを見たリコリスは、「やばい」と思った。
「はっ!今日はこのくらいで勘弁してやるよ」
どう考えても悪役のセリフを残してリコリスは、猛ダッシュで帰って行った。
「り、リコリス……リコリス……」
ジェリドはゆっくりと起き上がりニタリと笑った。
不吉な様子にリコリスは気がつくはずもなかった。
ようやく目を覚ましてくれたのね。
平民上がりの男爵令嬢、アイリーンと婚約者のジェリドが一緒にいる姿をリコリスはかなりの頻度でよく見かけていた。
帰り道でのデートもなくなり、優しかったジェリドが少しずつ冷淡な態度になっていく日々を不安で過ごしていた。
そんなジェリドが急に話があると呼び出してくれたのだ。きっと、心を入れ替えてくれたのだとリコリスは思っていた。
「リコリス、君には呆れたよ」
しかし、婚約者であるジェリドのその一言でリコリスの淡い期待は打ち砕かれた。
「アイリーン嬢とは何もないのに、勘繰るのはやめてくれないか?彼女はただの友人だ。君に、僕の交友関係に口出しする権利はないなずだと思うが?」
ジェリドの口から畳み掛けるように吐き出される冷たい言葉。
エメラルドグリーンの瞳は冷たくリコリスを見据えている。
「君の頭の中には恋愛しか詰まっていないのか?浅はかだな」
リコリスを馬鹿にするような暴言はまだまだ続く。
確かにリコリスは、単身でアイリーンのところに行き婚約者のいる相手にその態度はいけない。と物申したことは何度かあった。
その度に、ジェリドから注意されリコリスは悔しかった。
ただ、貴族として何も知らないアイリーンに八つ当たりする事はしなかった。
「君は少しアイリーン嬢を見習ったらどうだい?まあ、無理だと思うけど。君が婚約者だなんて本当に嫌になるよ」
何をどう見習えばいいというのだ。
「アイリーンが婚約者だったらよかった」
その瞬間だった。リコリスの頭にずっこーんと衝撃が走った。
殴られたわけじゃない。それでも、札束で往復ビンタをされたような衝撃に、リコリスは頭を押さえた。
(何これ……)
何かが頭の中に流れ込んでいく。
それは、自分ではない。別人の記憶だ。
ソウダ、コノセカイハ、オトメゲームノセカイダ。
もう一人のリコリスがカタコトの日本語でリコリスに語りかけている。
ワタシハ、このセカイを、知っている。
(ここは、乙女ゲームの世界だ!)
リコリスは瞬時にそれを理解した。そして、どの乙女ゲームの世界に転生したのかもすぐにわかった。
薄茶色の髪の毛にエメラルドグリーンの瞳。「ジェリド」という名前。そのゲームの攻略対象の一人だ。
ヒロインにはある特徴がある。
ジェリドがアイリーンを見習えと言った理由はただひとつだ。
前世のリコリスは恐ろしいほどに沸点が低く。頭も悪く。そして……、ある大きなコンプレックスを抱えていた。
ジェリドはリコリスの地雷を思いっきり踏み抜いたのだ。
……と、リコリスは思い込んでいた。
「……と?」
ジェリドには、リコリスがなんと言っているのか聞こえなかったようで、冷たく見据えながら聞き返した。
「は?」
「誰が貧乳だと!?」
リコリスの声が今度ははっきりと聞こえたようで、ジェリドは驚いた様子で目を見開いた。
ちなみに、ジェリドは一度たりとも貧乳だなんてリコリスに言ったことはない。
「いや、一言も言ってないけど!?」
ジェリドは慌ててそれを否定する。
しかし、リコリスは否定を否定した。
「オメーが私とアイリーンを比べたんだろうが!」
「僕がアイリーン嬢と君の胸の大きさをいつくらべたんだ!」
「見習えって言ったじゃないか!」
「いやいやいや、そんな事一言も言ってないけど!」
見習え。とは言ったが、胸の大きさをどうにかしろだなんて、酷すぎる拡大解釈なのだが。
リコリスにとって貧乳はステータスではなくて、コンプレックスそのものだった。
そのため、巨乳のアイリーンを見習えという事は、巨乳になれ。と言われているようにしかリコリスには受け取る事ができなかったのだ。
「黙れ!少しも胸の大きさを見比べたことがないって言い切れるのか!?」
「それはっ……!」
リコリスの核心をつく一言にジェットは言葉に詰まった。
そのためリコリスは無言でジェットの顔をぶん殴った。
「……ぅ!何するんだ!」
「だけど、拳が出ちゃう。女の子だもん」
リコリスは瞬きをしながら、可愛らしく拳を作ってみせた。
「女の子関係ないだろう!」
無茶苦茶な言い訳にジェリドは声を荒らげる。
リコリスは今がチャンスだと思った。
「お前とは婚約破棄だ。そっちの有責な!」
リコリスは一方的な婚約破棄宣言をジェリドに突きつけた。
「は?」
「理由はお前のお友達と私の胸の大きさを比べたことによる精神的苦痛だ」
捏造にも近い破婚理由に、流石にジェリドもまずいと思ったのか慌て出す。
「ち、ちょっと待って」
「お前とは、婚約破棄だ!決めたもんね!絶対だもんね!」
「しませんけどぉ!?」
決定事項のように叫ぶリコリスに、ジェリドは「婚約破棄を破棄する」と騒ぎ出す。
「するもん!絶対に!」
「リコリス、落ち着いて、そんな一方的に婚約破棄なんて無理だよ」
地団駄を踏むリコリスをジェリドは必死に宥める。
リコリスは、プンスコと腹を立てながらある事を思いつく。
「……じゃあ、お前が豊胸手術したら婚約続行な!」
「意味がわからない!僕が巨乳になって何の意味がある!」
ジェリドの的確なツッコミに、リコリスは、フンスッっと鼻息を荒くさせた。
「とにかく婚約破棄だ!今すぐに!」
言うなりリコリスは、ジェリドに回し蹴りをぶちかました。
綺麗に吹っ飛ぶジェリド。
それを見たリコリスは、「やばい」と思った。
「はっ!今日はこのくらいで勘弁してやるよ」
どう考えても悪役のセリフを残してリコリスは、猛ダッシュで帰って行った。
「り、リコリス……リコリス……」
ジェリドはゆっくりと起き上がりニタリと笑った。
不吉な様子にリコリスは気がつくはずもなかった。
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