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「あの、助けてもらえませんか」
デネブが一人で私の屋敷へやって来た時、その顔色の悪さに驚いた。
「大丈夫?」
「すみません。いつものことなのですが、アルビレオが数日ほど留守にしていて……、本当に申し訳ないのですが、人手を借りたいのです」
デネブは申し訳なさそうに謝って来た。
定期的に体調を崩すようで、アルビレオの不在のタイミングでそれが起きたようだ。
使用人はいるらしいが通いで数日置きに来るらしく、私に助けを求めたそうだ。
「そんなこと言わず、しばらくこちらで休んだらどうかしら?」
「でも、それは申し訳ないので」
「体調を崩すなら何が起きるかわからないし、人目がある方がいいわよ」
放っておく事もできなくて、半ば強引にこちらで滞在するように言うと渋々といった様子で頷いてくれた。
「とにかく元気になる事が貴女の一番の仕事よ。貴女に何かあったら旦那様が悲しむわよ」
「旦那様?」
デネブは、なぜかぽかんとした顔をしていた。
「ええ、アルビレオさんでしたかしら」
「そう、夫なの、新婚だから忘れてしまっていたわ」
ふふふ、と幸せそうな顔で微笑むデネブが羨ましかった。
デネブとは、すぐに打ち解けた。
「前々から、お話ししたいと思っていたの」
デネブは天真爛漫で、腹の中の探り合いというものを考えている様子はなく、話しやすかった。
なんでも、病弱で療養のためにこちらに来たそうだ。
「海が見えるところに住みたかったの」
うっとりと微笑むデネブに、可愛らしいと純粋に思えた。
アルビレオが彼女を好きになった理由もなんとなくわかった気がする。
「挨拶の時、アルビレオの態度が悪かったでしょう?ごめんなさいね」
デネブは謝りながら、なぜ、アルビレオの態度があまり良くなかったのか、理由を話してくれた。
「以前、貴女のように親切に声をかけてくれた人がいて、……アルビレオに懸想してしまって、警戒してしまったのだと思うの」
とても大変だったのだろうと、容易に想像ができた。
アルビレオが、年齢の近い私を見て警戒してしまった理由もよくわかった。
「そうだったのね。大変だったのね。私は、その、そういうことはないから、不安だったら無理して私と接する必要もないわ。ここには他に人もいるのだし」
そう返すと、デネブは「貴女って優しいのね」と微笑んだ。
それから少しずつお互いの事を話すようになっていった。
パトロンをしているとは言えなくて、亡くなった両親の事業から収入を得ている。と、簡単に説明した。
「へぇ、アデラインさんって恵まれているのね。幸せで羨ましい」
デネブは何の気も無しに、そう言った。
悪気はなかったのだと思うけれど、近くで聞いていたマーサの顔が引き攣るのが見えた。
「デネブさんは、素敵な旦那さんがいるじゃない。羨ましいわ」
デネブがはにかむ。
「誰にも頼らず自立しているアデラインさんが羨ましい。私は一人で生きていけないから」
誰からも愛されない。誰も愛していない私のどこが羨ましいというのだろう。
金銭的には恵まれているのかもしれないが、自立しているかと言われたら違うとしか答えられない。
「ふふふ、お互いを羨ましがるなんて変ね」
私が笑うと、デネブが驚いた顔をした。
隣の芝生は青く見えると言うらしいけれど、その通りだ。
だけど、私の芝生は歪で不揃いで穴だらけだ。
数日後、慌てた様子で私の屋敷へとアルビレオがやって来た。
デネブが一人で私の屋敷へやって来た時、その顔色の悪さに驚いた。
「大丈夫?」
「すみません。いつものことなのですが、アルビレオが数日ほど留守にしていて……、本当に申し訳ないのですが、人手を借りたいのです」
デネブは申し訳なさそうに謝って来た。
定期的に体調を崩すようで、アルビレオの不在のタイミングでそれが起きたようだ。
使用人はいるらしいが通いで数日置きに来るらしく、私に助けを求めたそうだ。
「そんなこと言わず、しばらくこちらで休んだらどうかしら?」
「でも、それは申し訳ないので」
「体調を崩すなら何が起きるかわからないし、人目がある方がいいわよ」
放っておく事もできなくて、半ば強引にこちらで滞在するように言うと渋々といった様子で頷いてくれた。
「とにかく元気になる事が貴女の一番の仕事よ。貴女に何かあったら旦那様が悲しむわよ」
「旦那様?」
デネブは、なぜかぽかんとした顔をしていた。
「ええ、アルビレオさんでしたかしら」
「そう、夫なの、新婚だから忘れてしまっていたわ」
ふふふ、と幸せそうな顔で微笑むデネブが羨ましかった。
デネブとは、すぐに打ち解けた。
「前々から、お話ししたいと思っていたの」
デネブは天真爛漫で、腹の中の探り合いというものを考えている様子はなく、話しやすかった。
なんでも、病弱で療養のためにこちらに来たそうだ。
「海が見えるところに住みたかったの」
うっとりと微笑むデネブに、可愛らしいと純粋に思えた。
アルビレオが彼女を好きになった理由もなんとなくわかった気がする。
「挨拶の時、アルビレオの態度が悪かったでしょう?ごめんなさいね」
デネブは謝りながら、なぜ、アルビレオの態度があまり良くなかったのか、理由を話してくれた。
「以前、貴女のように親切に声をかけてくれた人がいて、……アルビレオに懸想してしまって、警戒してしまったのだと思うの」
とても大変だったのだろうと、容易に想像ができた。
アルビレオが、年齢の近い私を見て警戒してしまった理由もよくわかった。
「そうだったのね。大変だったのね。私は、その、そういうことはないから、不安だったら無理して私と接する必要もないわ。ここには他に人もいるのだし」
そう返すと、デネブは「貴女って優しいのね」と微笑んだ。
それから少しずつお互いの事を話すようになっていった。
パトロンをしているとは言えなくて、亡くなった両親の事業から収入を得ている。と、簡単に説明した。
「へぇ、アデラインさんって恵まれているのね。幸せで羨ましい」
デネブは何の気も無しに、そう言った。
悪気はなかったのだと思うけれど、近くで聞いていたマーサの顔が引き攣るのが見えた。
「デネブさんは、素敵な旦那さんがいるじゃない。羨ましいわ」
デネブがはにかむ。
「誰にも頼らず自立しているアデラインさんが羨ましい。私は一人で生きていけないから」
誰からも愛されない。誰も愛していない私のどこが羨ましいというのだろう。
金銭的には恵まれているのかもしれないが、自立しているかと言われたら違うとしか答えられない。
「ふふふ、お互いを羨ましがるなんて変ね」
私が笑うと、デネブが驚いた顔をした。
隣の芝生は青く見えると言うらしいけれど、その通りだ。
だけど、私の芝生は歪で不揃いで穴だらけだ。
数日後、慌てた様子で私の屋敷へとアルビレオがやって来た。
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