職業:「スパダリ」ってのを授かったんだけど、なにコレ?!

犬雑炊

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1話 異世界に転生してた。

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 ――そうだ、僕は転生者だ。前世の容姿とか名前は思い出せないが、僕は幼い頃に家族とは死別して、親戚をたらい回しにされた。生きて行く為に中学生から新聞配達に清掃や接客に工場、警備に内職と手当たり次第に働きまくった。

 それからようやく人並みの生活が出来るようになったが、友人と呼べる者は一人もなく、結婚はおろか、女性と交際もしたことがないおっさんが一人出来上がっていた。そして最後は今までの無理がたたってポックリと逝ってしまったんだよなぁ・・・。

――と、いうのを頭を打った拍子に、たった今思い出した。

「・・・おい、いつまで寝ているつもりだ。さっさと起きろ」

「・・・す、すみません教官。次、お願いします」

 ここは修練場。教官の声に僕は強打した後頭部を擦りながらフラフラと立ち上がって得物を持って構え直した。

「やれやれ、ちょっと小突いただけで転倒するとは・・・。フン、相変わらずの弱さだな。346番」

対戦相手の整った顔をした金髪男子が、前髪をフッァサ~と掻き揚がながら見下す様に僕の「名前」を呼ぶ。

「はぁ。あ~・・・はいはい、そうですか」(ボソリ)

 この顔はいいのに性格が嫌な奴は215番。何かにつけて僕に絡んでこういった嫌がらせをしてくる。異世界でもこういう奴ってのはいるんだなぁ。

 ――さて、さっきか何で「番号」で呼ばれてるのか? それはにはまずこの世界の説明からしなくてはいけない。

 僕が転生した・・・いやしてしまったこの世界は「アムルツワント」。文明の程度は西洋の中世~近世。そこで僕は15歳の人間の男子として生きている。

 実はこの世界の人間の人口はとても少ない。原因は過去の人間たちが起こした大戦だった。そのせいで多くの人間と国が滅んだ。だが大戦の末期、異変が起こる。なんと「女性」が一人も生まれて来なくなってしまったのだ。原因は今でも分からずじまいだが、このままでは人間は滅んでしまう。人類絶滅の危機を恐れた生き残った人間たちは戦いを止めて集まり新たに建国した。それが現在僕たちが住む人間の唯一の国、「ヤロヴァツカ」なのだ。

 そして次に人類は子孫を作る為に「人間の女性の代替」を用意することにした。僕は教官をチラリと横目に見る。教官の少し後方に「女性」が一人佇んでいる。彼女は教官の「妻」だ。でも彼女は人間ではない。獣の耳に首から肩と背中にかけての体毛。腕や足は獣のそれだ。彼女は「ニヤン族」、獣人だ。この世界には人間の他にもエルフやドワーフ、獣人に鳥人に爬虫人の様な、まさにファンタジーな人種が数多くいる。総称してその者たちを「亜人」と呼んでいるが、人間は彼らの「雌」に目を付けた。

 そう、異種族との交配で子孫を残そうとしたのだ。低い出産率と、何故か人間の男子しか生まれないことが欠点だが、他に方法がなかった。・・・だが、それをお互いの合意の下で行っているわけではない。僕はもう一度、教官の妻を見る。無表情でまるで人形の様な彼女の左の薬指には鈍く光る指輪が嵌められていた。

 アレは「屈魂指輪(けっこんゆびわ)」という魔道具で、はめられた者は強力な洗脳効果で自我を押さえられ、はめた者への絶対服従をしてしまう代物だ。つまり無理やり手籠めにしているわけで、「妻」と呼んでいるが、それは比喩で実質奴隷である。なので亜人たちからの人間の印象は最悪なはずだ。いや、たぶん抹殺対象だろう。かくいう僕も前世の記憶が蘇った今では、違和感と嫌悪感で「妻」を娶ることはないだろう。やれやれ、今世も女っ気のない人生になってしまったな・・・。

 で、やっと本題。そういう事情もあって人類は効率よく人口を増やす為に「育成棟」というものを作った。その施設は生まれた子供たちを集めて育てると共に、知識と技術を教える場所だ。この施設のおかげで大人たちは自分で子供を育てる必要がなく、しかも子供を預ける金や物資が貰えるので、大人たちは競うように人口増加に励むという仕組みだ。そんな集められた多くの子供たちは当然出生とかも曖昧になってしまう。そこで差別なく区別する為に一人一人に番号をつけて呼ばれているという訳だ。

「――おい、考え事をしながら俺の相手をするとか、随分余裕じゃないか。
 ええ?!」

「っ、うわっ!」

 215番が僕の隙をついて木刀を力任せに弾き飛ばす。その勢いで僕は尻もちをつき、手から離れた木刀はクルクルと回転しながら宙を舞ってカランカランと音を立てて床に落ちる。その様子を修練場に集まっている他の者たちがクスクスと笑う。その中から二人の男子が僕の傍に歩み出た。一人は坊主頭のでっぷり体形の108番。もう一人は少し変わった笑い方をする吊り目で出っ歯の421番。こいつらは215番の取り巻きというやつだ。毎回こういう感じで3人で僕を弄って悦に浸っている。

「おいおい、346番。ヒョロガリのお前を、わざわざ鍛えてくれている
 215番さんの厚意を上の空とか生意気すぎねえか?」

(・・・悪かったな。どんなに鍛えても筋肉が付かないんだよ。ていうかお前は
 太りすぎだろ。なら、お前も痩せられるように鍛えてもらえよ)

「お前なんかが、今まで育成棟で生き残れたのが不思議でしょうがないぜ。
 キシュシュ・・・」

(お前だってそんな強くないだろ。てかその笑い方、クセが強すぎじゃね?)

 二人が僕をいびる中、215番がカッコつけてまた前髪をファッサ~っとかきあげながら近づいてきた。

「ふん、まぁここでの生活も今日までだ。なんせ明日はいよいよ「成人の儀」
 だからだ。俺たちもようやく国に貢献できるという訳だ」

215番の言葉に僕はハッとする。そうだ、明日はいよいよ成人の儀だ。

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