異世界で「ダンジョン」をやっております。

犬雑炊

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2話 リロティエ【SIDE】

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 私は「リロティエ・シュミッコ」。シュミッコ辺境領主の娘ですの。領地から遠く離れた女学院から久しぶりに帰省しようと、馬車を走らせていた時に事件が起こりました。大きく馬車が揺れて止まると、外から御者の怒号が聞こえてきた。

「何だ貴様らは!! この馬車がシュミッコ家の物と知っての狼藉か!!」

「ククッ・・・もちろん知ってるさ。それに乗ってるシュミッコ伯の一人娘だろ。
 迎えに来てやったのさ。まぁ帰っても以前のシュミッコじゃないけどな」

『それは一体どういう意味です!?』

私は従者のメイドの制止を振り切って馬車から降りた。するとそこには馬に乗ったならず者たちがいた。

「よう、嬢ちゃん。どういう意味かって? そりゃ俺たちバトライズ傭兵団が
 嬢ちゃんトコのシュミッコ領を頂いちまったてことさ」

 最近大陸全土で様々な不穏な事が起こっていると聞いていましたが、大陸の端にある小さな私たちの領地にまでその影響が及ぶなんて・・・。

「ん~? その顔は信じてないな。じゃあ証拠を見せてやるよ」

そう言って男が懐から出して見せつけてきた血の付いた柄に家紋入りのナイフに私はハッとしました。

『そ、それは父上が肌身離さず持っていた物!! そんな・・・それでは
 本当に・・・』

「へへへ。俺たちの役目は嬢ちゃんが逃げ出さない様に、ちゃんと
 元シュミッコまで送り届けることさ」

『くっ・・・私をどうしようというのです?』

「さぁな、細けぇ事はしらねぇよ。俺たちは団長の命令に従がってる
 だけよ」

 そう言って男たちは馬から降りてニヤニヤとこちらに向かってくる。そこに御者とメイドが私を守る様に前に出た。二人は私が生まれる前から屋敷で働いていて、私にも良くしてくれた家族同然の人たちだ。

「お嬢様!! ここは私たちに任せて逃げてください!!」

『ホスさん!! メイ!! 二人を置いて私だけ逃げるなんて
 そんな事出来ない!!』

「お嬢様を守るのが自分たちの使命です!! 奴らの言葉の真偽は
 分かりませんが、お嬢様がいればシュミッコは滅びません!! 
 だから今は逃げて下さい!! そしてどうか生き延びて下さい!!」

そう言うと二人は賊たちを睨みつけ、武器を構えた。

『・・・く・・・ううっ!! わ、分かりました、せめてこれだけでも!!』

私は両手を前に出して詠唱した。

『カキュー!!』

私は火の玉を賊たちに叩き込んだ。賊たちは慌てて火の玉を避けようと散った。

「うおっ!! 魔法か!? ちっ、寵愛者か。おい!! 早く
 あのガキを捕まえろ!!」

「そうはさせるか!! ・・・さぁ、お嬢様今の内に!!」

『・・・・!!』

 賊に向かっていく二人に背を向けて街道横の森に入った。あふれる涙をこらえる為に、唇を血が滲むほど噛み締める。おそらく二人にはもう生きて合うことは出来ない。その悲しさと何も出来なかった不甲斐なさに叫びたくなる。でも捕まるわけにはいかない。二人の決死の行動を無駄にしない。どうにかしてここから村か街に辿り着いて然るべき所に報告しなければ・・・。そうすれば国が動いてくれるはず。

 と、その時ポツリと頬に水滴が落ちる。上を見上げると、ザーと雨が降り始めた。私は苦笑した。どうやら私は神に呪われているようだ。だが素直にこの運命を受け入れるつもりはない。私は無我夢中で森の奥へと分け入っていった。

 ――それからどれくらい経っただろうか。鬱蒼と茂る森の中、時間も方向も分からなくなってしまった。両親に褒めて貰おうと、向こうで取り寄せた流行りのドレスは所々破けて泥まみれ、全身も濡れて寒いし、お腹も空いてきた。唯一幸いなのは、雨で匂いが消えて獣に襲われにくくなっているということだろうか。

「遭難なんかしている場合じゃないわ・・・」

 疲労困憊でクタクタな体に今一度活を入れて歩き出した。しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。靄で視界が霞んでいたが、目を凝らすと洞窟の様なものが見えた。

『や、やったわ・・・。あそこで少し休みましょう』

 最後の力を振り絞って洞窟に駆け込けこむ。警戒しながら進むとすぐに最奥に着いた。どうや洞窟というよりは洞穴のようだ。まぁ今はそんなことより体を休めよう。

 ――膝を抱えて座り込み、大きく息を吐いた。雨で冷えて震える身体をぎゅっと固める。そして段々と緊張が解けてくると、脳裏にあの賊の言葉と、私の為に命を懸けてくれた御者とメイドの姿がよぎった。

『うう・・・グスッ・・・お父様・・・お母様・・・皆・・・』

 もしかしたら私は、森を抜け出せずに行き倒れてしまうかもしれない。そうなれば皆の仇を取ることも・・・。そう考えると今まで我慢していた涙がとめどなく溢れてくるのだった。

「・・・君、大丈夫?」

突然の声に私はドキリと心臓を躍らせて周囲を見渡す。

『!! だ、誰!? 隠れているなら姿を見せなさい!!』

 追っ手が来たのかとビクビクしながら声を荒げた。だが、他の人の気配は全くない。

「あ・・・あの~、こんにちは。僕はさっきから君の前に居るんだけど・・・」

それでも声は聞こえてくる。

『は? ええっ!? で、でも周りは岩肌しかないけど・・・』

「ええ、そうです。その岩肌が僕です。というか、この洞窟が僕なんです」

『・・・は? 私を謀ってます?』

色々な事が起こりすぎて、私はいよいよおかしくなったのだろうか?

「いや、嘘じゃないよ。ガチで、トゥルーです」

『ガ・・・トル? なんです?』

こうして私は、世にも珍しい喋る洞窟に出会ったのだった。
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