死霊術士ですが、信仰系魔法も習得したことは内緒です

珠來

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第一章 グレリア教国

第5話

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 朝食の後、同室の三人と一緒にナタリアは、教室へと向かっていた。

  魔法学校の新学期が始まってから、早いもので、もうすぐ三カ月が経つ。それまでにいろいろと事件はあったのだが、気が付けば三人とも上手く付き合えるようになっていた。
 なんとかなるもんなんだな……と変に感心する。

 一年生の授業は午前と午後で分かれている。午前中、専攻に関係なく、全員が同じ教室に集まり、語学や数学、そしてエミレイ大陸の歴史といった雑学を勉強し、午後から各研究室に行って、それぞれの専攻を勉強するのだ。

 ということで、授業のため教室に入ると、中がなにやら盛り上がっている。
「何? どうしたの?」
 物怖じしないニーナが、近くの生徒を捕まえて尋ねると——
「ロメオが今年の学校対抗試合代表に選ばれたんだ!」
 毎年、五大国の魔法学校が集まり、魔法や剣技を競う大会がある。
 勿論、学年別でなく、各校一人が代表となるので、大概は上級者が代表になる。一年生が選ばれるのは異例中の異例だった。

「ロメオなら優勝できるかもな!」
「なにせギフト持ちギフテッドだものな!」

 ——今年の新入生には「ギフト持ち」が三人いる。

 グレリアの魔法学校にギフト持ちが入学するのは実に十年ぶりであった。しかも三人も同じ学年で入学したということで、グレリア国内だけでなく、他国でも話題になっていたのだ。

 その一人が、ロメオ・トラパットーニ。
 グロリア騎士団、赤のアイギス団長、ジャン・トラパットーニの息子で、彼が八歳の時、以下の剣術競技会を優勝した神童である。
 十五歳の今では、騎士団員でも習得が難しい上位剣技を七つ使いこなし、騎士課程の先輩達でも相手になる者はいない。
 父ジャンでも到達出来ない、「剣聖」の名を受け継ぐのでは? と噂されている若者だ。
 火属性のギフト持ちなのだが、風、水、土、そして光属性の技まで使いこなす。

 そして二人目が——
 
「コーネリア様よ!」
「コーネリア様がいらっしゃいましたわ!」
「なんと美しい……」
 そういった囁きの中を悠然と歩く、修道服姿の少女。
 コーネリア・エウロパ——
 光属性のギフト持ちギフテッドである彼女は、教皇エウロパの孫であった。
 灰色の修道服という地味な身なりなのに、まるで光を纏ったような神々しさを十三歳で身に付けている。
「さすが、聖女に一番近いお方だわ……」
 そう呟く声にも、ニッコリとお辞儀するだけで、特に反応しない。

 そのまま、ロメオの前まで進むと——
「ロメオ様。この度は対抗試合の代表選出、おめでとうございます。是非、応援させていただきます」
 深々と頭を下げるコーネリアにロメオが「ありがとう」と笑みを返した。

「うわぁ! 私たちはなんて幸運なのでしょう! ギフト持ちお二人の会話に立ち会えるなんて!」
 女子たちがうっとりとしながら二人に見とれる。ちょっと、大袈裟だろう……と思うのだが、ギフト持ちというのはそのくらい威厳を持つのだ。

「ギフト持ちは能力ばかりでなく、品性も外見も私達とは違いますわ!」
 確かに、二人は絵のモデルでも不思議でないくらい、絶世の美男美女である。
「まあ……もう一人のギフト持ちは、品性も外見も劣りますけどね」
「比較するだけ失礼よ。闇属性のギフト持ちなんて、気持ち悪いだけでしょ?」
 ひそひそと話しながらにやける女子達。もう一人のギフト持ち……勿論、ナタリアのことだ。

 一般学生にとって、ロメオやコーネリアは家柄も上の存在。それに引き換え、ナタリアは平民出身である。しかも、忌み嫌われる死霊術士。
 ギフト持ちに対するは全てナタリアに向けられるのだ。

 ああ、またか……とナタリアは内心思った。いまさら、特に気にしていないが……これを三年聞き続けるのかと思うとちょっとうんざりする。
「ちょっと! ナタリアちゃんの悪口を言うのは止めてと言ったでしょ!」
 ニーナである。悪口を言った女子達に言い寄る。
「ニーナ、いいから……」
 ナタリアのことになると、ニーナはいつもムキになる。引き止めようとするのだが——
(——あっ!)
 急に走ろうとして躓いてしまう。
 自慢できるほど運動神経のないナタリアである。手を伸ばすという基本的な防御動作もできず、そのまま、上半身が床に向かって急降下する!
 ナタリアは目を瞑った。

 バンッ!

「——えっ?」
 転ぶことはいつものことなので、多少の痛みは覚悟していたのだが、全く痛みを感じない——代わりにやさしく抱きかかえられた感触が……
 恐る恐る目を開けると、ロメオが間一髪のところを受け止めていたのだ!
「ナタリア、大丈夫かい?」
 心配そうに顔を近づけるロメオ。
 確かナタリアとの間には五メートル程の距離があった。それを一瞬で詰めたのだ。
 これが、ギフト持ちの身体能力なのである。
 ロメオと目が合う。その整った顔立ちを間近に見て、ナタリアは顔を赤らめた。
「えーと……大丈夫です……ありがとうございます」
 何が起きたのか、正直良くわからなかったのだが、とりあえずお礼を言う。
「間に合って良かった……」
 ロメオは胸を撫でおろし、ナタリアを起こた。

「ナタリアさん、本当に大丈夫ですか? 痛いところがあれば、治癒しますよ」
 心配そうにコーネリアも近寄ってきたので、「本当に大丈夫です」と慌てて立ち上がる。
 この二人、今日だけでなく、いつもナタリアに対して何故か優しい。
 同級生でナタリアと好意的に接してくれるのは、同室の三人とこの二人だけだった。
「えーと、心配させてスミマセン」
 ナタリアが深々と頭を下げると、コーネリアは安堵の笑みを見せる。
「むしろ謝るのは私達の方よ、お騒がせしてゴメンナサイね」
 その微笑は、聖女というより、聖母のようだ。

「なんですか? 騒がしいですね。さあ、ホームルームを始めます。席に付いて!」
 ロッシーニ先生が教室へ入るなり、生徒達は蜘蛛の子を散らすように自分の席へ向かう。
 ナタリア達も慌てて席に座った。

「フ、フ、フ——ロメオ様に助けられて良かったね」
 ニーナが悪戯っぽい笑みを見せながら、ナタリアの耳元で囁く。
「うーん……また、いじめが増えそうでで嫌なんだけど……」
 ナタリアの本心である。ロメオとコーネリアにやさしくされる度に、嫌がらせが増えるのだ。
 近くにいるだけで、「ゾンビ臭い」と言われたりするような幼稚な嫌がらせから、ナタリアの持ち物を隠してしまうような陰湿なモノもある。
 ある意味、有名税的な部分なのだが、勉強の邪魔だけはして欲しくないな……と思う……
「そうね、コーネリア様にも声を掛けてもらったし、また、嫌がらせが増えるわよ」
 なんとかならないかなぁ……とナタリアは心底悩んだ。

「そう言えば、アリシアはコーネリア様と一緒の研究メンバーになったんでしょ? いいなあ。もう、今年の成績上位は決まったようなものよね!」
 ナタリアを挟んで、反対の席にいるアリシアに話しかけるニーナ。
 専攻にもよるが、だいたい魔法の研究はグループで行う。成績順に組み分けされるのだが、コーネリアと同じ組ということは、アリシアの成績も上位なのである。
「別に……成績なんてどうでもいいし……」
 アリシアが面倒くさそうに応える。

 実のところ、アリシアも同級生から評判が悪い。他人と協調するのが苦手で、いつも勝手なことをしている。
 そもそも器用で、誰よりもやることが早いのだが、だからといって、遅れている者を手伝ったりはしない。それで良く同級生と喧嘩しているのだ。
 その度にコーネリアが仲裁に入るのだが、アリシアがコーネリアにお礼を言ったことはない。それを注意されると、「面倒なヤツら」と呟く。それでまた口論になる……といった具合である。
 口数の少ないテレサはそんな三人の会話に参加することなく、黙っているだけだった。
 つまるところ、四人とも学校で浮いた存在なのだが、それが上手く付き合うコツなのかもしれない……

 アリシアは髪の纏まりが悪い部分を気にするように撫でながら、言葉を続ける。
「それに私、あの人が苦手なのよね。なんか、裏で何考えているのかわからない気がするのよ」
「またまた! コーネリア様に限って、裏の顔なってないわよ!」

「そこ! 私語は止めなさい!」
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