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1章
5.
しおりを挟む「そう、これとこれを足すと・・・正解よ!すごいわ!」
「リズお姉ちゃん!こっちも教えてー!」
「ずるいぞアリム、俺が先に聞いてるんだぞ!」
「ふふ。順番に行くからちょっと待っててね。」
今は私の手作りのテキストを使って、皆で勉強会をしているところだ。
これこそが今日私がここにやって来た1番の理由。
勉強会が受け入れられるか心配だったけど、皆の反応の良さに思わず笑顔になる。どの子も意欲的で、理解も早い。夜な夜なテキストを作った甲斐があった。それに没頭しすぎて、教会に寄付するドレスを選ぶのを忘れてしまったりもしたけど。
今日は初日なので、簡単な計算のみだ。
最初にテキストの説明をした時は不思議そうにしていたが、いざ勉強会を始めるとこちらの予想を遥かに上回る勢いで問題を解いていく。
この子達、本当に今まで勉強したことなかったのよね?IQ私より高いんじゃないかしら。
先に全て問題を解いた年長組の子達が、分からない子に教えたり、自分達で復習をし始めた。
この子達はこんなにも教育を必要としている。
それなのに、学びたくても学べないのだ。
数年前の私は、自ら学ぶ機会を手放していた。
きっと他の貴族の子息子女にも同じような子はいるだろう。恵まれた環境ゆえの怠惰。
しかもそれが許されてしまう。
「何を難しい顔してるんだよ。こんな問題も分からないのかと呆れたか?」
レガスが茶化すように問いかけてきた。
「違うわ。自分に腹が立っているのよ。」
「自分に?」
「私は本当に愚かな人間だったの。気に入らない事があれば侍女に当たり散らしたり、家庭教師をクビにしたり。他にも挙げれば切りがないくらい、どうしようもない奴だった。この子達を見ていると、過去の自分が心底情けなくて・・・。」
正直に告白すると、レガスが真面目な顔をする。
「人はいつだって変われる。現状に満足して立ち止まってる奴より、過去の自分を反省して変わろうとしているリザベルは立派だと思う。今日だって俺達の為にテキストを作ってくれて、時間を割いて勉強を教えてくれてる。貴族なんて自分の利益になるかどうかで物事を判断して、庶民のことなんかまるで考えない奴らばかりなのに。過去のリザベルを俺は知らないけど、今のリザベルはもっと自分を誇ってもいいと思うぜ。」
そうレガスが微笑んだ瞬間、頭の中で言葉が響いた。
──リザベル王妃は幼い頃に孤児院で暮らしていた俺のことを嫌い、騎士団では散々不当な扱いをされたよ。戦の度に最前線に行けと命令されたり、あの頃は常に死と隣り合わせだったな──
今のは前世の記憶だ。
騎士団長がヒロインに自分の過去を語る場面。
レガスの未来の姿・・・。
「おい、急に黙り込んでどうしたんだよ。気分でも悪いのか?」
「・・・いいえ。ごめんなさい、何でもないの。」
「そうか?ならチビ達の所に戻るか。ほら、さっそく呼ばれてるぞ。」
くるりと私に背を向けて歩いて行くレガスを見つめながら、彼の本当の名を呟く。
「レイド・アーガス」
私の言葉は、子ども達の声に掻き消された。
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