聖女に恋をした青年

岡暁舟

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聖女

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「私はあなたのことを愛しているわけです」

複雑な人間関係にすっかりと疲れ切ってしまった、ある若い貴族の少年が見つけたのは、この世界の人間とは思えないほどの美しさを持った女性でした。

「私は人間ではありません。ですから、あなたのことを愛することができません」

少年は、それでも決してあきらめませんでした。

「いつか、必ず私のことを好きになってもらいたいと思います」

少年には新しい夢ができました。これほど美しい女性と将来婚約すると言うことでした。


「お前も早く婚約者を見つけたらどうだ」

青年の両親は、なかなか婚約者が見つからない青年に対して、不安を抱いておりました。やはり、家を継ぐためには子供が必要なわけでございます。そのためには、より早く攻略することが必要なわけでございます。

「気になっている人はいないのかね????」

父親が青年によく質問しました。青年はもちろん、そのまま答えることが出来ませんでした。

「いつか、それがいつになるか分かりませんが、必ず私のことを愛してくれる女性が見つかるはずなのです」

青年はいつも、このように答えて、両親の期待をはぐらかしているようにも見えました。

「あと1年だ。私たちが待てるのは、それが限度だ。それでも見つからなかったら、私たちが探した相手と婚約してもらうことにしよう」

父親はこのように言いました。もちろん、両親の期待を裏切ることもできませんので、青年はうなずきました。そして、何とかして1年内にあの女性と婚約しようと心に決めたわけでございました。

青年は、何度も何度も、その女性のところへ通いました。

ですが、その答えはいつも決まっておりました。でも、青年はいつか、本当に婚約できるものだと信じていたわけでございます。


いつの日か、女性の姿はありませんでした。それでも、青年は通い続けました。

後に分かったことでございますが、この地に現れていた女性と言うのは、いわゆる聖女でして、人間のことを監視していたわけでございます。

「もう会えませんかね……」

そんな話を知ることになるのは、おそらく何十年も先のことなのでしょう。青年は何も知らず、今日も女性のいないその場所に通い続けております。
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