新入り令嬢の結婚前夜

岡暁舟

文字の大きさ
上 下
6 / 6

その6

しおりを挟む
「チェスでもしようじゃないか?」

「はい。喜んで」

スミスとキャロルの日課はチェスだった。そして、必ずと言っていいほどキャロルが勝つ。

「相変わらず強いなあっ……」

「スミス様が弱すぎるのですよ」

「……そうなのかい?」

「ええっ……私の直感ですが……」

「そうか。それにしても、君は本当に頭がいいんだな。今回の一件も見事だったじゃないか?」

「……今回の一件とは何でございましょうか?」

「君は人を欺くことに秀でているね。しかしね、私をそこらのアホな貴族たちと一緒にされては困るんだね。あれは……最初から全て演技だったね?君は最初から美しく、最初から優秀で、最初から人を操ることに長けていた……」

「ほう……見抜いていましたか?スミス様、あなたも十分優秀でございますね!」

「君の狙いは……一々聞く必要はないかな?」

「ご推察にお任せいたします」

「そうか……」

スミスは少し考えてから、

「しかし、私は君と婚約したことを全く後悔していない」

と言った。

「ありがとうございます」

キャロルは礼を言った。

「そうだ、君がこれほど優秀な魔法使いであるのだから、早く子供が欲しいものだな!」

スミスは調子に乗って、キャロルの唇にキスをした。すると、頭脳明晰なキャロルはたちまち破綻した。

「スミス様!そんなことをおっしゃられましても!いきなりは無理なのでございます!!!」

「ははははっ!そうやって照れる君を見ているのが、一番好きなのだ!」

「もうっ、スミス様ったら!」

「君もあながち嫌ではないだろう?」

「スミス様の……イジワル……」

「何とでも言え!さあ、仕事をしよう。君の魔法で全て片付けてくれ!」

「こういう時だけ都合いいんですから!」

スミスが王子としてこなしてきた仕事を、キャロルの魔法ですぐに片付けることができた。

「よしよし……えらいぞ」

褒めて育つ……子供を育てる親のようにも聞こえるが、実際は夫婦だった。

スミスとキャロル……この二人が力を合わせて築き上げた世界は、後の世に受け継がれるほど、豊かな桃源郷だった。


終わり



 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...