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「スカーレット……ありがとう」

「私にお礼を言われても困ります。さあ、頑張りましょう……」

「ええっ……ああ、あそこにいらっしゃるのはアイントフォーヘン様かしら……」

 私は視線を感じた。アイントフォーヘン様は勿論気が付いていない。1キロも離れているのだから、気付けと言う方がそもそも無理のある話だろうが。

「もうどうにでもなってしまえばいいわ……」

「アンナ様、そんな投げやりにならないでください。この私が、しっかりと息の根を止めてごらんにいれましょう……」

「……でも、それはあなたにとって死を意味することになるのよ???」

 この時代、主君に対する裏切りは叛逆罪に問われて処刑される可能性が高かった。

「ええ、心得ております。ですがね、あの女が私の仕業だと気が付く可能性は低いでしょう。それに……万が一気付かれたとしても、それはそれで結構でございます。あなた様に命を捧げると申し上げたはずですよ、アンナ様」

「でも……そこまでしなくても……」

「ええ、いいのです。私に希望を下さったのは紛れもなくあなた様なのですから。私はアンナ様のためにこの命を使いたいと思います……」

 私はアンナとスカーレットがいるだろう方角に目を向けながら、アイントフォーヘン様の鼓動を楽しんでいた。卑怯だよね……よくよく考えてみれば。シナリオを把握している以上、誰も邪魔をすることは出来ない。予想外の行動をしたら、ゲーム上にしか存在しない登場人物たちはパニックになるだろう。この場面…………スカーレットは私に銃口を向けている。一般的にこれほど距離が離れていると、よほどのスナイパーでなければ射止めることは出来ない。でも、ここはゲームの世界。そのあたりは全てご都合主義なのだ。

 この後、スカーレットの放った銃弾は私の腕を射止めて倒れる。アイントフォーヘン様が駆け寄り、段々と辺りが騒がしくなる。犯人は行方知らず……このまま迷宮入りになってしまうのだ。

 私が介入できること……それは、犯罪者であるスカーレットを正式に犯罪者として告発すること。スカーレットは証拠がないと騒ぎ立てるだろう。目撃者はアンナを除いて存在しないのだから。でもね、私の立場であれば、それが真実だろうが虚偽だろうが関係ないんだ。全てが真実になってしまう……それがこの世界の理なのだ。


「危ない!!!」

 私は咄嗟に叫んだ。アイントフォーヘン様を煽り建てることと、お二人さんの動揺を誘うためだった。


「ええええええっ?????どうして…………」

 予想通りだった。スカーレットは銃口を引いた。弾丸は全く見当違いな方向に飛んでいったのだ。発砲の音を聞き、アイントフォーヘン様は怖気づいた。何も知らないので当然のことだ。

「敵襲だ!!!」

 全ての民に伝わる勢いで……私は叫んだ。お二人さんが捕獲されるのは、時間の問題だった。
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