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「敵だって???どういうことだ???」

 アイントフォーヘン様は当然気が付いていなかった。

「ああ、なんとなくそんな気がしたんですよ。ええ、大丈夫です。じきに犯人は捕まるでしょう」

「捕まるって……どうしてわかるんだ???」

 ああ、もう。いちいち説明するのがめんどくさい。だって……これがゲームのシナリオ通りだから。私はシナリオを把握しているわけだから。

「怪しき者どもを見つけました!!!」

 兵隊がたくさんやって来た。その一部から声が聞こえて……予想通りの光景だった。

「どうして……こんなはずじゃなかった……」

 アンナとスカーレットの姿……予想通りだった。スカーレットは狼狽えていた。まあ、このまま暗殺が成功してしまうパターンも一応あるのだ。もちろん、私にとってはバッドエンドということになるわけだが。その場合、スカーレットがアイントフォーヘン様を恐喝して、アンナが新しい婚約者になるわけだ。

 だが、今回は当然失敗に終わってしまった。私は止めを刺す。

「スカーレット!!!その銃はなんなの???」

 私は大声で名指しした。スカーレットはますます慌てていた。

「まさか……たった今、私たちに向けて発砲したわけじゃないでしょうね???」

「まさか……そんなことはありません!!!」

 そう答えるよりなかっただろう。

「あら、それではその銃はなんなの???」

「これは……エカテリーナ様を狙う怪しい男からお守りするために……」

 そんな男はいない……まあ、そういう設定もあるのだが、現状の設定ではいないのだ。イージーモードの場合、変なストーカーは登場しないのだ。 

「そんな言い訳は聞きたくない……あなたは明確にいま、この瞬間……私を殺そうとした!!!」

 スカーレットはこれ以上反論できなかった。

「さあ……覚悟はできているかしら???それとも、いっそのことこの場で殺して差し上げようかしら???」

 私の口から、殺す、という言葉が出て来たのに、さすがのアイントフォーヘン様も驚いたようだった。誰よりも平和主義者であることを、私はすっかり忘れていたのだ。

「君は……そんな物騒なことを言うのか……」

「物騒ですって???ええ、それで結構ですわ。でもね、王子様。それくらいじゃないと国家は守れませんから」

 私は気にすることなく、スカーレットの方に向かった。

「さて……主人を殺そうと考えるとは、随分と良い度胸をしているじゃない?」

 さすがのスカーレットでも、動揺するようだった。どうして私が気付いてしまったのか、結局のところはそこが一番問題だろう。

「まあ……あなたの御主人様に免じて、今回の一件は許してあげる……」

 スカーレットはぱあっと一瞬表情が明るくなった。


 次の瞬間、「ああああああああああっ」と悲鳴が聞こえた。


「汚い血ね…………」


 私はアンナに語りかけた。聞こえていたのか、びっくりしていた。

「さあ、行きましょう。アイントフォーヘン様……」


 勝利を得る……現実世界では困難でも、ゲームの中では簡単だ。うん、全てのプログラムを把握しているからね。そう思っていた。アイントフォーヘン様の手に触れようとした瞬間。


「どうして?」


 私は自身に問い返した。寒い銀色の空……神様が私をすっかり見放してしまったように。


「また終わってしまうの?」


 もはや泣く気力もなかった。もう終わった……。
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