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その11

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「私が薬師になったのは、武器を持つためだった。結果として皇太子を殺すことになってしまったがなあ……」

「最初から、そのつもりだったのですか?」

リンプルは質問した。

「最初は純粋に人助けをしたいと思った。だが、この世界は人助けを許容しなかった。知り合いの子供が病気で、何人死んだか分からないな。皇太子も病気があった。だが、それは少し血圧が高いとか、そのレベルの問題だった。専属の薬師がいる必要なんてなかったんだ。君のおじいさんのように優れた薬師は、もっともっとたくさんの人を救うことができたんだ……。あいつは魂から腐りきっていたからな。結局は保身しか考えていなかったんだ。そんな人間が皇帝になるのを、許すわけにはいかなかった。神様気取りだったんだな、私は。悪を成敗する、みたいな感じだったんだ」

スペンサー伯爵が後悔しても意味がないと、リンプルは思った。結果として、人命を軽んじたことには変わりないのだから。

「今では後悔している。だから、私は40年もここで暮らしているんだ。さすがにそろそろ楽になりたいと思うがな……どうだね、私に一つ毒を与えてくれないかい?君だって優秀な薬師なんだろうから、人を死に至らしめる方法も心得ているはずだ。私が一々教授することはあるまい……」

「そんなこと、できるわけないじゃないですか。私は薬師としてのプライドが高いんです。人殺しなんてしませんよ」

「ああ、そうだよな。うん、それでいいんだ。君は何も罪を犯していない。それで十分だ。しかし……さっきのお嬢さんは君の知り合いなのかい?」

「どうしてそう思うんですか?」

「いや、彼女の眼差しを見れば分かるんだ。あれでは公正な捜査なんてできないね。彼女はあからさまに君のことを憎んでいた。違うかね?」

「あなたは、全てお見通しなんですね?」

「人殺しから盗みまで、私は隣で色々な犯罪者を見てきた。あの世送りになった奴も見てきた。だから、人間が何を考えるのか、大体見当がつく。そして、私に言わせれば、君はまだ犯罪に手を染めるほど落ちぶれていないんだ。いつか、君は名誉を回復し、薬師として……ファンコニー様と婚約することになるんだろうな……」

ジャックが余りにもたくさんの情報を知っていたので、リンプルは驚愕した。

「おやじの戯言だよ。それじゃ、またいつか会う日までさようなら……」

しばらくして、ジャックの声は聞こえなくなった。夢を見ている心地だった。
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