最強の薬師、婚約破棄される〜王子様の命は私の懐の中〜

岡暁舟

文字の大きさ
17 / 34

その17

しおりを挟む
「だからといって、薬師の権限を大幅に逸脱するような行為が許されるとは思わないだろう?」

「今さら何を言うか。このような状態の中、正義とかそういうものはどうでもいいんじゃないか?」

「わかってないな……」

「わからなくて結構だよ。君は人の親になったことがないだろう。だから、わかるはずがないんだ。子供の未来を踏みにじられた親の気持ちがわかるのか?」

ボアジエ公爵はジャックに近寄った。

「そんなものはわからないな。ただ私は、神様みたいに大層な視点に立って、物事がいいのか悪いのかを判断するだけだ」

「だとすれば、私がこれからしようとすることに、君はケチをつけることができるのか?」

「さあね、まぁいいや。私が何を言っても君は聞く耳をもたないだろう。さよなら、私の古い友達……」

再び、ジャックの声が聞こえなくなった。

「おーい、ジャック。いないのか?」

ボアジエ公爵は不審がった。

「お父様。さっきもそうだったんですよ。消えたかと思えばまた現れたりして。ずいぶんと不思議なお方ですね」

ボアジエ公爵は一言、

「ああ、そうだな」

と答えた。

「ところで、お父様?私には何か、お父様が悪いことを企てているように思えてならないのですが……。気のせいでしょうか?」

ボアジエ公爵は言うべきか、それとも言わないべきか迷った。しかし、リンプルの顔を見ていると、必ずしも無言を貫くことが得策ではないと思った。

「リンプル……私たちが薬師である由縁はなんだ?」

「それは……神の司る薬理を広く人々に浸透させ、実際に人の傷を癒すためです」

「その通りだ。リンプル、君は薬師としてたくさんの人々を救ってきた。そしていま、自らを傷つけているわけだ……」

ボアジエ公爵の顔色が少しずつ変わってきた。それは、子供を見守る父親ではなく、憎しみに魂を燃やす神のようだった。

「薬理とは、一種の神との契約だ。それを誤った方向に用いれば、災いを起こすことだってできるのだ……。そう、例えば人を殺めることもできるのだ……」

「お父様?もしかして……」

「リンプル。これは独り言だ。ただ、これだけは伝えておく。私がこれ以上生きている理由と言えば、それは君の幸せが確約されるのを見届けることだろうな……」

ボアジエ公爵はそう言い残して、上の世界に帰っていった。

「愚かな父親だよ……」

リンプルは、ジャックの独り言を、確かに聞いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

いいえ、ただ私は婚約破棄されたいだけなんです!

鏡おもち
恋愛
伯爵令嬢ロニエ・エヴァンズには、ささやかな野望があった。それは、ハイスペックすぎて重すぎる愛を持つ婚約者、第一王子アレンから「婚約破棄」を突きつけられ、実家の離れで一生ダラダラと昼寝をして過ごすこと。 ロニエは学園入学を機に、あの手この手で「嫌われる努力」を開始する。

婚約破棄されたら、多方面から溺愛されていたことを知りました

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
卒業パーティーの当日、王太子に婚約破棄された公爵令嬢フルール。 それをあっさり受け入れた瞬間から、彼女のモテ期が始まった。 才色兼備で資産家の娘である彼女は、超優良物件にも拘らず、生まれた時から王太子の婚約者ということで今まで男性から敬遠されていたのだ。 思ってもみなかった人達にアプローチされて戸惑うフルールだが……。 ※タイトル変更しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

婚約破棄された私は彼に囚われる

青葉めいこ
恋愛
「エリザベス・テューダ! 俺は、お前との婚約破棄を宣言する!」 卒業パーティーで顔だけの皇子は、私、ベスことエリザベス・テューダに指を突きつけると、そう宣言した。 私の新たな婚約者となったのは、皇子の叔父である皇弟イヴァンだ。 私を手に入れるために馬鹿皇子に婚約破棄するように仕向けたというイヴァンは、異世界(日本)からの転生者である私の前世に大きく係わっていた。 主人公のベスは「妾は、お前との婚約破棄を宣言する!」の主人公リズの娘で、日本からの転生者です。 「妾は~」のネタバレがあります。 小説家になろうにも投稿しています。

【短編】婚約解消を望もうとも、婚約者から言葉を聞かない限りは応じませんわ

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 伯爵令嬢のディアナ・アルヴィエは実家と絶縁し、婚約者であるアーレントの実家である辺境領の屋敷で暮らしていた。魔物討伐や結界の管理などを担う即戦力としていたディアナは、アーレンが成人したら結婚する。  はずだった。  王都に突如現れた黒竜討伐へと赴いた婚約者アーレンと様の部下だと名乗る使いから婚約解消の知らせが届く。それと同時に辺境地の結界に亀裂が入り、答え合わせは後回しとなるのだが、同時にカルト集団の奇襲を受けてしまい──!?  両親に愛されなかった令嬢が幸せを受け入れるまでのお話。  年下情緒不安定ヤンデレ騎士×自尊心の低い年上大魔法使いのお話。

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない

aihara
恋愛
私は聖女だった…聖女だったはずだった。   「偽聖女マリア!  貴様との婚約を破棄する!!」  目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される  あまりの急な出来事にその場から逃げた私、マリア・フリージアだったが…  なぜかいつの間にか懐かしい実家の子爵家にいた…。    婚約破棄された、聖女の力を持つ子爵令嬢はもう間違えない…

宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。

処理中です...