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せめてもの償いとして、元婚約者が修道院までの旅を手配してくれた。

「ああ、他に準備はいらないのか???」

「ええ、そんなものは一切必要ありませんわ……」

「そうかそうか……」

元婚約者がどことなく不安そうな顔をしていた。恐らく、ここまで簡単に婚約破棄が実現してしまって、心配になったのだろう。普通は私が大声で怒るだろう。これほどの屈辱はないのだから。

「それじゃ……本当にさようならでいいのかな???」

「あの……他に何か気になることでもあるんですか???」

「いや……まあいいさ。さようなら……」

「ねえ、一度でも私のことを愛して下さいましたか???」

「そうだな。一度は君のことを愛した……これは事実かな……」

「なるほど、ありがとうございます……」

「ああっ…………」

この時、元婚約者が全く愛したことなんてないと言ったなら、ひょっとして、私はこの男を一発ぶん殴っていたかもしれない。でも、それは非常にはしたないと思ったのだ。私は最後にもう一度さようならを伝えて、すぐさま修道院への旅を始めることにした。困惑なんてなにもなかった。
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