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深夜のカフェ ③
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「はい…、わかってました」
そう梶野の言葉を受け止めたが、締め付けらた胸元の服を、智樹はキュッと握った。
「副社長は家族思いで、聡明で優しくて、社員の名前を全て覚えて、社員が困っていたらすぐに手を差し出す、素晴らしい人。普通のアルファのように横暴でも、ベータやオメガを蔑んだりしなかった。次期経営者としても人間としても尊敬できる方です」
智樹を見つめたまま、梶野の顔は曇る。
「だが智樹くんの事になると、人が変わったようになる」
「…」
「どんなに重要な会議があっても、約束があってもキャンセルして、君との時間を優先した。あんなに大切にしている奥様やお子さん、家族に秘密を作り、何より君を優先したんだ」
「…」
「私がどんなに説得しようとしても『智樹は特別なんだ』と悲しい顔で言われるばかりで…。私はその時の副社長は尊敬できない。副社長をそんな事にしてしまう智樹くんが嫌いだった。だから副社長に君の身辺調査を頼まれた時、これで『智樹くんの素行の悪さが露呈して、副社長も目を覚ましてくれる』、そう思ったのに…」
そこまで言った梶野は、先程までの曇った表情のまま、智樹から視線を少し逸らしたが、すぐに智樹の瞳を見る。
「君は素行が悪いどころか、素直で友達思いで優しい…、人一倍傷つきやすくて、人一倍相手の事を考え、周りを優しく包み込む人だとわかったんだ」
「…」
「環くんと出会い、妹の桜ちゃんのために忙しい時間を割き、高校生らしく友達と戯れる。今しかできない事を、精一杯していたんだ」
「…」
「この調査結果を報告したら、智樹くんの事を大切に思っている副社長も、智樹くんの事を手放し、智樹くんの幸せを望むと思っていたのに、副社長は…」
そこで梶野は少し黙る。その沈黙の示す本当の意味を智樹はわからなかったが、何かに後悔する様子は窺い知れた。
「なのに副社長は怒ったんだ。『俺を放っておいて、友達ごっこを優先するなんて!!』と。以前より智樹くんに執着して、環くん達家族を徹底的に調べさせた。副社長は智樹くんの弱点を見つけてしまったんだ。長所で弱点…『優しい』ところだよ」
「そんな…」
そんな理由で環たち家族を調べてたなんで…。
「副社長は今日、智樹くんを呼び出して、そこに漬け込んで智樹くんを自分の言いなりにさせようと…。もっと智樹くんの周りを調べ上げ、弱みを握って軟禁しようとまで思ってたんだよ。だけど俺はそれを阻止したかった。だから智樹くんのスマホに社長の名前で俺の電話番号を登録して、食事が終わる時間を見計らって電話したんだ。副社長も社長には逆らえない…、だから…」
そこまで一気に梶野が話、
「すまなかった。俺のせいで…」
智樹に頭を下げる。
「そんな、梶野さんが悪い訳じゃありません!頭を上げてください!」
智樹は立ち上がり、梶野の肩に手をかけ、持ち上げた。机にくっつかと思うほど頭を下げた梶野が頭を上げると、自分のしてしまったことへの悔しさでいっぱいだ。
俺のせいだ。
兄さんに俺が1番だとけしかけて、兄さんをおかしくしてしまった。
無関係の環家族を…、見ず知らずの人に家庭の事を調べられ、俺の問題に巻き込んでしまった。
梶野さんにもこんな思いをさせてしまった。
「悪いのは俺です…」
ストンと智樹は席に腰を落とすと、話が終わるのを見計らったかのように注文していたカフェオレが運ばれてくる。
「熱いうちにどうぞ」
それだけ言うと、涼はキッチンに戻っていった。言われた通り、智樹はカフェオレに口を運ぶと蒸気の下から細かいミルクの気泡が顔を出し、一口飲むと甘さの中に少しの苦さがあった。智樹は先程聞いた話を思うと、消えてなくなりたくなる。
俺のせいで…。
もう一口カフェオレを飲むと、そんな智樹の気持ちを優しく包んでくれるようだったが、今の智樹はその優しさが受け止めきれない。
俺は優しくされる資格なんてないんだ…。
そう梶野の言葉を受け止めたが、締め付けらた胸元の服を、智樹はキュッと握った。
「副社長は家族思いで、聡明で優しくて、社員の名前を全て覚えて、社員が困っていたらすぐに手を差し出す、素晴らしい人。普通のアルファのように横暴でも、ベータやオメガを蔑んだりしなかった。次期経営者としても人間としても尊敬できる方です」
智樹を見つめたまま、梶野の顔は曇る。
「だが智樹くんの事になると、人が変わったようになる」
「…」
「どんなに重要な会議があっても、約束があってもキャンセルして、君との時間を優先した。あんなに大切にしている奥様やお子さん、家族に秘密を作り、何より君を優先したんだ」
「…」
「私がどんなに説得しようとしても『智樹は特別なんだ』と悲しい顔で言われるばかりで…。私はその時の副社長は尊敬できない。副社長をそんな事にしてしまう智樹くんが嫌いだった。だから副社長に君の身辺調査を頼まれた時、これで『智樹くんの素行の悪さが露呈して、副社長も目を覚ましてくれる』、そう思ったのに…」
そこまで言った梶野は、先程までの曇った表情のまま、智樹から視線を少し逸らしたが、すぐに智樹の瞳を見る。
「君は素行が悪いどころか、素直で友達思いで優しい…、人一倍傷つきやすくて、人一倍相手の事を考え、周りを優しく包み込む人だとわかったんだ」
「…」
「環くんと出会い、妹の桜ちゃんのために忙しい時間を割き、高校生らしく友達と戯れる。今しかできない事を、精一杯していたんだ」
「…」
「この調査結果を報告したら、智樹くんの事を大切に思っている副社長も、智樹くんの事を手放し、智樹くんの幸せを望むと思っていたのに、副社長は…」
そこで梶野は少し黙る。その沈黙の示す本当の意味を智樹はわからなかったが、何かに後悔する様子は窺い知れた。
「なのに副社長は怒ったんだ。『俺を放っておいて、友達ごっこを優先するなんて!!』と。以前より智樹くんに執着して、環くん達家族を徹底的に調べさせた。副社長は智樹くんの弱点を見つけてしまったんだ。長所で弱点…『優しい』ところだよ」
「そんな…」
そんな理由で環たち家族を調べてたなんで…。
「副社長は今日、智樹くんを呼び出して、そこに漬け込んで智樹くんを自分の言いなりにさせようと…。もっと智樹くんの周りを調べ上げ、弱みを握って軟禁しようとまで思ってたんだよ。だけど俺はそれを阻止したかった。だから智樹くんのスマホに社長の名前で俺の電話番号を登録して、食事が終わる時間を見計らって電話したんだ。副社長も社長には逆らえない…、だから…」
そこまで一気に梶野が話、
「すまなかった。俺のせいで…」
智樹に頭を下げる。
「そんな、梶野さんが悪い訳じゃありません!頭を上げてください!」
智樹は立ち上がり、梶野の肩に手をかけ、持ち上げた。机にくっつかと思うほど頭を下げた梶野が頭を上げると、自分のしてしまったことへの悔しさでいっぱいだ。
俺のせいだ。
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無関係の環家族を…、見ず知らずの人に家庭の事を調べられ、俺の問題に巻き込んでしまった。
梶野さんにもこんな思いをさせてしまった。
「悪いのは俺です…」
ストンと智樹は席に腰を落とすと、話が終わるのを見計らったかのように注文していたカフェオレが運ばれてくる。
「熱いうちにどうぞ」
それだけ言うと、涼はキッチンに戻っていった。言われた通り、智樹はカフェオレに口を運ぶと蒸気の下から細かいミルクの気泡が顔を出し、一口飲むと甘さの中に少しの苦さがあった。智樹は先程聞いた話を思うと、消えてなくなりたくなる。
俺のせいで…。
もう一口カフェオレを飲むと、そんな智樹の気持ちを優しく包んでくれるようだったが、今の智樹はその優しさが受け止めきれない。
俺は優しくされる資格なんてないんだ…。
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