【完結】それでも僕は貴方だけを愛してる 〜大手企業副社長秘書α×不憫訳あり美人子持ちΩの純愛ー

愛おしいということは、愛しているということは 〜内藤昴 スピンオフ〜

愛しいということは、愛おしいということは ②

　圭太と結ばれ、一緒に暮らすようになって一年と半年。
　俺たちは今まで住んでいたマンションから、ペットが飼える別のマンションに引っ越した。

　そして我が家に新しい家族、ビーグル犬の『小豆』がやって来て四ヶ月。
　先月ドッグランデビューを済ませ、顔馴染みのわんちゃん友達もできたみたいだ。

「小豆～、帰るよ～」
　我が家の可愛い小豆は頭がよく言葉がわかるので、俺が「帰るよ～」と言えば、たとえ先ほどまで目が合っていても視線をぷいっと避けて聞こえないふりをする。
　なのに、圭太が「帰るよ～」と言えば、この上なく嬉しそうな顔をしながら、圭太めがけてまっしぐら。
　圭太の言うことなら聞くのに、俺のことは知らんぷり。
　世のお父さんは、いつもこんな気持ちなのだろうか……。

　ドッグランから帰って来てからも室内で小豆は元気よく遊び、ご飯を食べたら、そのままソファーに座る圭太の膝の上でお昼寝にはいった。
　今日も可愛い小豆の寝顔を見ながら、圭太はブラックコーヒー、俺はカフェオレを飲むのが俺たちの楽しみの一つだ。
　だが、いくら可愛い小豆でもずっと圭太を独り占めはされるも、ちょっと……いや、だいぶ妬ける。
　しかも圭太は圭太で愛おしそうに、膝の上で眠る小豆の頭を撫でていて、淋しい。
　圭太とは仕事場では上司と部下、仕事場で愛する人が目の前にいるのに、触れられないのを我慢してるのに、家に帰って来ても小豆に圭太を取られたら、俺は一体いつ圭太とイチャイチャできるのだ？
　ま、小豆も可愛いから許すけど……。
「なぁ圭太」
「なんですか？」
「俺と小豆、どっちが好き？」
「え……？」
　圭太の気を引きたくて、あえてめんどくさい質問をしてみる。圭太は少し考えてから、
「そうですね～、同じぐらいです」
　と微笑む。
　答えはわかっていたのに、圭太に言われてしまうと、やっぱり淋しい。
　肩を落としてしょんぼりしていると、圭太は熟睡している小豆を、そっと小豆専用ベッドに寝かせる。
　そして俺の隣りに座り恋人繋ぎをすると、
「さっきは小豆が聞いていたので言えませんでしたが、昴さんに対しては小豆とは違う感情で大好きです」
　耳元で囁く。
「博識で仕事は完璧にこなし、でも他の人のミスにはちゃんと相手のやる気が出るようなアドバイスと指摘をしてる昴さんが、俺の前では甘えたで、涙もろくて、本当は妬きもち妬いてるのに一生懸命隠してたり、俺が作った料理を何でも『美味しい』と食べて、苦手な茄子も頑張って食べてたり、かっこいいと思われたくてホラー映画が怖いけど、怖がって見せないようにしてるところとか、愛しくてたまらないですよ」
「！」
　圭太に俺の全てを知られていて、びっくりしたやら恥ずかしいやら。
　でも愛おしくてたまらないと言われて、嬉しくて涙が出そうだ。
「俺のことを本当に大切にしてくれて、愛してくれているって、いつも感じています」
「……」
「俺は気持ちを言葉にするのが苦手です。だからこう思ってください。俺が昴を見ている時、昴さんに触れている時、昴さんのために料理をしている時、昴さんに甘えている時、その時、俺は心の中で『愛しています』と何度も言っていると」
　甘えるように圭太が俺に抱きつき、下から見上げる。
「今、俺がどう思っているか、わかりますか？」
「ああ、わかる」
　そう言うと圭太は俺の胸に顔を埋め、俺は圭太の髪にキスをする。
　ふと視線を感じてそちらを見ると、ドックベッドで丸くうずくまっている小豆と目が合った。
　そして『やれやれ、僕の両親は子供のいる前で……』とでも言いたげに、横目でチラリと俺を見て、その後、何事もなかったかのようにまた身体を丸くして目を閉じる。
　小豆の粋な気遣いに苦笑しながら、もう一度、圭太をしっかりと抱きしめる。

　大きな窓から差し込む西陽が、幸せな家族を照らす。
　愛しいということは、愛しているがいということは、ささやかな幸せの中に隠れていると思う。
　これからも、このささやかな幸せが、いつまで続きますようにと祈って……。
　俺は圭太と小豆に誓う。
　いつまでも圭太と小豆の笑顔が光り輝いていくことを……。



ーー終わりーー