クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

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【6章・荒天、または豪雨の魔女/祷SIDE】

『6-1・盲目』

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 私がふと目を覚ますと、明瀬ちゃんの姿が見えた。教室の壁に、もたれかかって静かに寝息を立てている。教室の壁に掛かっている時計を見た。
 時間は20時近い。教室の中は真っ暗で、窓の外からの月明りだけが頼りだった。
 気が付かない内に眠ってしまっていたらしい。ひどい頭痛がして、口の中が乾ききっていた。疲労感が指先まで達していて、目眩がする度に吐き気がこみ上げる。這う様にして私は明瀬ちゃんの側に近寄った。
 明瀬ちゃんは眉をひそめたまま眠っていて、その頬には涙の跡が見えた。規則的な寝息で、葉山君の言っていた様に、明瀬ちゃんの容態が急変するような兆しは見えない。
 良かった、という言葉を呑み込んで。私は胸元で手を握り締める。
「明瀬ちゃん、ごめん……。私、もっと強くなるから」
 目が覚めても、全てが夢だったと片付けられなくて。矢野ちゃんの最期の表情が、私に向かって泣き叫んだ明瀬ちゃんの姿が、何度消し去ろうとしても脳裏を過る。
 もしも、あの時。私が杖を取りに行くことを決めなかったら。
 もしも、あの時。私にもっと力があれば。
 矢野ちゃんは死ななかったのだろうか。明瀬ちゃんは泣かなかったのだろうか。
「もう、明瀬ちゃんを泣かせない。悲しい思いなんてさせない」
 明瀬ちゃんを起こさないようにそっと、立ち上がる。教室を見渡すと、葉山君と小野間君も、床に座り込み眠っていた。
 この状況下でも、ひとまずの安寧を得られた事が私達を眠りに引き込んだのだろう。外の様子を見ようと、窓の方を向く。
 水面を叩くような水音がした。見ると、佳東さんが、バケツに水を運ぶ作業を今も行っていた。外は暗く、魔法で運んでくる空中の水球も良く見えていない筈だ。彼女の手は震えていて、立っているのも辛そうに見える。
「佳東さん? 大丈夫?」
「!?」
 私が声をかけると、佳東さんは飛び上がる程に驚いた。怯える様にしてゆっくりと私の方を振り返る。目元には隈が出来ていて、疲労の色が見えた。
「へ……平気、です」
「佳東さんも休んだ方が良いよ。辛そうだよ」
「でも、みんなが夜までにバケツ一杯にしとけって……」
 私が覗きこむと、バケツの半分くらいまで水が溜まっている。
「で、でも、途中で、何度も割れて、落としちゃって……」
 私にも経験があるが、集中力が途切れると魔法は失敗する。疲労していると尚更だった。
 佳東さんは魔法初心者、しかも今日発現したばかりだ。体系立てて魔法を学んでいないし、直感で魔法を使っている状態にある。それだと疲労も激しくなるだろう、と私は思う。
 佳東さんの魔法については、彼女の為にも詳しく調べる必要があった。
「とりあえず、これだけあれば十分だと思うよ。休んだ方が良いよ。魔法は体力を消耗するから」
「魔法……?」
 口を滑らせた、と私は言ってから後悔する。私が魔法使いであることを明かすのは時期尚早だと思った。
 どう誤魔化すべきか言い淀んでいると、私達の会話の声で目を覚ましたのか小野間君が起き出してきた。彼は佳東さんの足元に置いてあったバケツを覗きこむと、怒鳴りだす。
「全然足りないじゃねぇかよ!」
「ご、ごめ、……めんなさい」
「佳東さんは、もう休ませてあげるべきだよ」
 小野間君の剣幕に怯えた佳東さんを庇う様に、私は二人の間に割って入った。私の顔を見て彼は怒鳴る。
「てめぇなに偉そうに、関係ねぇだろ!」
「疲れていれば失敗しやすくなる。それに、佳東ちゃんに助けて貰ってるのは私達の方だよ」
 私と小野間君のやり取りに葉山君も目を覚ましてきた。
「何の騒ぎだ、小野間」
「何でもねぇ」
「佳東さん、進捗が悪いようだが」
 佳東さんに休息を取らせるように、私は再度言った。葉山君が何か言おうとしたのを、私は目で制する。彼が溜め息を吐いた。
「この量では足りないが、仕方がない。佳東さんには休息を取ってもらってから再開しよう」
「分かってくれて、ありがとう」
「ですが、祷先輩。今は非常事態だという事を忘れないでください」
 私は自分以外の魔女に会ったことがない。祖母から魔法の手ほどきを受けて私は魔法を習得した。佳東さんの様な、魔法が偶発的に発現した例を私は知らない。佳東さんが魔法を自分でコントロールし切れているとは思えず、何処かで不調をきたす可能性が高い。
 小野間君がバケツの水に手を突っ込んで口を付ける。
「まっず」
「仕方がないだろう」
「なぁ、トイレはどうするんだよ」
「バケツがもう一つある。それを使う」
 小野間君が露骨に嫌そうな顔をした。正直、私も表情に出ていたと思う。
「窓から捨てていくしかないだろう。他にどんな方法がある」
 葉山君の言葉に、対案を探すも反論できなかった。途切れた私達の会話に、割り込む別の声。
「地震じゃないから、水道はまだ動いてる筈じゃん?」
 私は慌てて振り向く。明瀬ちゃんが、私達の後ろに立っていた。
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