29 / 141
【7章・兆しを宿す者/弘人SIDE】
『7-3・Evolution』
しおりを挟む
香苗に一言言い聞かせ、弘人は車を降りた。
鷹橋と桜を二人きりにするのが、正直なところ不安でもあった。桜はまだ中学生でありながら、その立ち振る舞いには危ういものを感じた。鷹橋が容赦なく切り捨てると言い切ったのも、弘人の背中を押すのを手伝った。
前を行く桜が、件のチェーンソーを抱えていて、本当にあれで身を守るつもりなのかと弘人は訝しむ。
コンビニの自動ドアの前で鷹橋は足を止めた。店内を覗き込む。弘人も違和感に気が付いた。店内に人影がない。駐車場に乱暴に止まっている車にも、誰も乗っていなかった。ゾンビから逃げるのに、車を置いていくとは思えない。
入り口の自動ドアはガラスが割れていた。三人は顔を見合わせてから足を踏み入れる。耳を澄ませても物音はせず、やはり人の姿は無かった。
店内は乱雑としている様子であった。スチールの棚が床に倒れていて、通路を一部塞いでいた。押し寄せた人波で倒されたのだろうか。棚が倒れた事で商品は周囲に散乱し、一部は潰れ中身が床に散乱している。一部は踏みつぶされているが、食料品の類は十分に残っていた。
「外見張っといてくれ」
鷹橋が桜にそう言った。弘人は、コンビニのレジの向こう側にあるバックヤードの入り口が気になっていた。店内に人もゾンビもいない。車があることから、このコンビニに誰かが来ていたのは確かである。隠れているとすれば、バックヤードしかないと睨んだ。
そこで弘人は気が付いた事があった。
「これ、やばくないですか」
店内の床からバックヤードの扉の向こうまで、血の跡があった。何かを引きずった様な擦れた跡になって残っている。血の出る何かを引きずり、引っ張って行ったような。
そもそも、何故、これだけの物資が残っているのだろうか。人が来た気配はあるのだ。桜が店内に戻ってきて言う。
「外は何ともないわ」
「二人とも、カゴに詰め込めるだけ詰め込んで、ずらかるぞ」
気になる点はあったがしかし、ゾンビが現れる気配はない。床に散乱している缶詰やペットボトルを、カゴに詰め込んだ。
「もっと荒れてるかと思っていたが、思ったより食料残ってるな」
鷹橋の言葉に、弘人はやはりバックヤードについ目をやってしまう。あの車に乗っていた人々は、何故これだけの食料を放置して姿を消したのか。
弘人はどうしても、引きずったような血の跡が気になっていた。そもそもあの跡が示しているものは、本当にゾンビなのであろうか、と。
引きずった何かが死体だとすれば、何故死体をバックヤードまで引きずっていったのか。ゾンビの挙動に、今までそんな動きはなかった。彼等は、人を襲ったその場で貪っていた。
だが、これではまるで、と弘人は連想する。死体を隠しているような、もしくは肉食獣が縄張りまで持ち帰っている様なものに通じる気がする。
店内に突然現れる可能性を危惧しながら、弘人達はゆっくりと店の外へ向かった。店内に変化はない。
「まぁ、ゾンビの動きなんて大した事無いからな。1体くらいなら何とかなる」
鷹橋がそう言って、先を行こうとした瞬間。店の外を黒い影が過った。鈍い音と共に、弘人の脇を物凄い勢いで通った何かが、吹き飛ばされた鷹橋だと遅れて気が付く。盛大に音を立てて、床に缶詰が散らばった。
「鷹橋さん!」
「こいつが……まさか」
床に倒れた鷹橋がそう声を絞り出す。入り口の外に居たのは、一体の異様なゾンビだった。大柄な鷹橋を突き飛ばした程の力があるということになる。
その男性型のゾンビは、今まで見てきた姿とは大分様子が違った。身長は2m近く、筋肉が激しく隆起した巨大な体躯をしている。衣類は著しく破れて、ほぼ全身が露出しているが、肌は青白くその下に太い血管が巡っているのがハッキリと見えた。
左胸に巨大化した心房が露出していて、大きく脈打っている。丸太の様に太く隆起した腕と、それを難なく支える肉体と姿勢。
ゾンビと呼ぶにはあまりにも異質な存在。だが、その眼はゾンビ達と同様に白く濁り、その表情には意思のようなものが見えなかった。
今まで何処にも居なかった。その姿を見落とす筈が無かった。突然現れた異形の存在に、弘人は辿り着いた結論を口にする。
「待ち伏せされたってことかよ」
屋根の上から、タイミングを合わせて飛び降りてきた。店内の血の跡の事を思い出す。もし仮に、あれが死体を引きずった跡だとして。裏にまで死体を引きずっていったのは、死体を隠す為ではないだろうか。
何のために、か。店内に入れる為だ。
それは何故か。今の様に待ち伏せをする為だ。
出入り口は一か所。その袋小路に追い込むため。それはつまり。
「知性があるのか……!」
鷹橋と桜を二人きりにするのが、正直なところ不安でもあった。桜はまだ中学生でありながら、その立ち振る舞いには危ういものを感じた。鷹橋が容赦なく切り捨てると言い切ったのも、弘人の背中を押すのを手伝った。
前を行く桜が、件のチェーンソーを抱えていて、本当にあれで身を守るつもりなのかと弘人は訝しむ。
コンビニの自動ドアの前で鷹橋は足を止めた。店内を覗き込む。弘人も違和感に気が付いた。店内に人影がない。駐車場に乱暴に止まっている車にも、誰も乗っていなかった。ゾンビから逃げるのに、車を置いていくとは思えない。
入り口の自動ドアはガラスが割れていた。三人は顔を見合わせてから足を踏み入れる。耳を澄ませても物音はせず、やはり人の姿は無かった。
店内は乱雑としている様子であった。スチールの棚が床に倒れていて、通路を一部塞いでいた。押し寄せた人波で倒されたのだろうか。棚が倒れた事で商品は周囲に散乱し、一部は潰れ中身が床に散乱している。一部は踏みつぶされているが、食料品の類は十分に残っていた。
「外見張っといてくれ」
鷹橋が桜にそう言った。弘人は、コンビニのレジの向こう側にあるバックヤードの入り口が気になっていた。店内に人もゾンビもいない。車があることから、このコンビニに誰かが来ていたのは確かである。隠れているとすれば、バックヤードしかないと睨んだ。
そこで弘人は気が付いた事があった。
「これ、やばくないですか」
店内の床からバックヤードの扉の向こうまで、血の跡があった。何かを引きずった様な擦れた跡になって残っている。血の出る何かを引きずり、引っ張って行ったような。
そもそも、何故、これだけの物資が残っているのだろうか。人が来た気配はあるのだ。桜が店内に戻ってきて言う。
「外は何ともないわ」
「二人とも、カゴに詰め込めるだけ詰め込んで、ずらかるぞ」
気になる点はあったがしかし、ゾンビが現れる気配はない。床に散乱している缶詰やペットボトルを、カゴに詰め込んだ。
「もっと荒れてるかと思っていたが、思ったより食料残ってるな」
鷹橋の言葉に、弘人はやはりバックヤードについ目をやってしまう。あの車に乗っていた人々は、何故これだけの食料を放置して姿を消したのか。
弘人はどうしても、引きずったような血の跡が気になっていた。そもそもあの跡が示しているものは、本当にゾンビなのであろうか、と。
引きずった何かが死体だとすれば、何故死体をバックヤードまで引きずっていったのか。ゾンビの挙動に、今までそんな動きはなかった。彼等は、人を襲ったその場で貪っていた。
だが、これではまるで、と弘人は連想する。死体を隠しているような、もしくは肉食獣が縄張りまで持ち帰っている様なものに通じる気がする。
店内に突然現れる可能性を危惧しながら、弘人達はゆっくりと店の外へ向かった。店内に変化はない。
「まぁ、ゾンビの動きなんて大した事無いからな。1体くらいなら何とかなる」
鷹橋がそう言って、先を行こうとした瞬間。店の外を黒い影が過った。鈍い音と共に、弘人の脇を物凄い勢いで通った何かが、吹き飛ばされた鷹橋だと遅れて気が付く。盛大に音を立てて、床に缶詰が散らばった。
「鷹橋さん!」
「こいつが……まさか」
床に倒れた鷹橋がそう声を絞り出す。入り口の外に居たのは、一体の異様なゾンビだった。大柄な鷹橋を突き飛ばした程の力があるということになる。
その男性型のゾンビは、今まで見てきた姿とは大分様子が違った。身長は2m近く、筋肉が激しく隆起した巨大な体躯をしている。衣類は著しく破れて、ほぼ全身が露出しているが、肌は青白くその下に太い血管が巡っているのがハッキリと見えた。
左胸に巨大化した心房が露出していて、大きく脈打っている。丸太の様に太く隆起した腕と、それを難なく支える肉体と姿勢。
ゾンビと呼ぶにはあまりにも異質な存在。だが、その眼はゾンビ達と同様に白く濁り、その表情には意思のようなものが見えなかった。
今まで何処にも居なかった。その姿を見落とす筈が無かった。突然現れた異形の存在に、弘人は辿り着いた結論を口にする。
「待ち伏せされたってことかよ」
屋根の上から、タイミングを合わせて飛び降りてきた。店内の血の跡の事を思い出す。もし仮に、あれが死体を引きずった跡だとして。裏にまで死体を引きずっていったのは、死体を隠す為ではないだろうか。
何のために、か。店内に入れる為だ。
それは何故か。今の様に待ち伏せをする為だ。
出入り口は一か所。その袋小路に追い込むため。それはつまり。
「知性があるのか……!」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる