クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

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【15章・煉獄で、焔と雷を/祷SIDE】

『15-6・投擲』

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 彼が慌てて、ヘリの中へと怒鳴った。ヘリのローターが回転を始め、轟音を立て始める。周囲を薙ぐ風圧に、私は咄嗟に帽子を抑えた。コンクリートの塊が私達の数メートル近くに落下して、その音はまるで衝撃波の様で。私は身を屈めた。巻き上げられた土塊と土埃が、ヘリの起こした旋風に流されて視界を汚す。
 爆発か崩壊の影響で飛んできたのだろうか。いや、それにしては、と私の思考がその予測を否定する。
「待ちなさいよ!」
 加賀野さんが叫ぶも、その声はヘリの立てる轟音にかき消されて。ヘリが地面から浮き上がる。徐々に空中へと昇っていくヘリに、加賀野さんが悔し気に声を上げた。もう既に、十数メートルまで飛び上がっている。
 その一瞬、鈍い音がした。何かが空を切る音。黒い影が私達を塗りつぶす。
 ヘリに巨大なコンクリートの塊が直撃する様子が、スロウモーションになって見えた。ぶつかった機体の胴体部がひしゃげ、表面の塗装が剥がれ、穿ち曲がった箇所から金属の銀色の断面が見えて。
 私は咄嗟に加賀野さんの肩を叩く。
「走って!」
 鈍くも高い音が響き渡って、瓦礫の直撃によってそのボディに大きく穴を開けたヘリが、空中で踊る様にバランスを崩していた。尾翼部分が折れて無数の残骸と共に落下していて。空中で崩壊を始めたヘリは横滑りと回転を繰り返しながら、勢いよく落ちていく。大小様々で、空へと一斉にばら撒かれた金属質の残骸が、太陽光を返して眩く光る。
 その残骸の嵐を突っ切って、黒い何かが勢いよく飛び出した。人の形に見えたそれは、空中で残骸とすれ違う瞬間に、空中に液体を噴出して。真っ二つに千切れて勢いよく回転しながら飛んで行く。金属の破片と違って直ぐに細かくなっていった。尾翼のパーツが落ちていき、そしてそれよりも早く、辛うじてヘリだと分かる胴体部分が地面へと落下する。その直前に、私は地面を蹴った。
 
 私は加賀野さんを背中から押し倒しながら、地面へとうつぶせに滑り込む。土の味が口の中に広がって、手を勢いよく擦りむいた。思い切り顎を地面にぶつけて、舌を噛む。生柔らかく、小さい何かを噛みちぎる感触がして。
 一拍置いて、背後からは炎が一気に燃え上がる音と衝撃波が轟いてくる。地面に落下したヘリが炎を上げ、爆風が空気を押し退け。地面にぶつかり跳ね上がったヘリは、一瞬で崩壊する。衝突の反動で散った無数の鈍色の残骸が、爆風に押し出されて弾丸と見紛う程の速度で空を切る。空気を叩き斬る低い音が耳元を過っていって。私達の直ぐ上を残骸が通り過ぎていく。
「何が」
 加賀野さんが苦し気に言う。頬の辺りが切れて血が流れ出している。私は腕を動かそうとして、左肩に激痛が走った。右手をそっとやると、粘り気のある液体が手について。赤く濁った液体が、手の平にべったりと付着していた。残骸の一部が刺さった様で、遅れて痛みが暴れ出す。鼓動が早くなり、血が溢れ出しつつあるのが見なくとも感覚で分かる。焼けつくように左肩が熱くてたまらなかった。
 バックパックをひっくり返して、中身を地面にぶちまける。鎮痛剤の瓶をこじ開け、手の平に勢いよく引っくり返す。鷲掴みにした大量の錠剤を指の隙間から零しながらも、それを口元へと運んだ。貪るようにそれを?み砕いて無理矢理飲み込む。
「祷、血が!」
「大丈夫……、それより、此処を……離れないと」
 私は声を絞り出す。
 人間の身体的特徴において、他の霊長類と一線を画す物は幾つかある。人間はとある行動が得意だ。数百年前、人類が未だ人らしからぬ動物であった頃。その進化の過程において、約200万年前に獲得した身体構造。可動域の広い腰と、幅広の肩と横向きの肩関節、伸びる手首等の身体構造によってとある能力を発揮した。
 
 それは、投擲能力だった。他の霊長類と比較して、早く遠く正確な投擲。それを行えるのは人間だけだった。有効な投擲に必要な要素には、身体的な特徴も大いに絡むが、その他の運動能力と同様にその行動を積み重ねて学習し技術として確立していく点も挙げられる。
 そう、例えば。落下地点を目視で判断して、微調整していく事の様に。
 そう、例えば。移動する物体の進路を予測して、狙って投げ当てる事の様に。
「あれは多分、知能がある」
 目を凝らした先。大きく破れて意味を成していないフェンスの向こうから、ゆっくりと表れたモノ。体長2メートル近く、筋肉が激しく隆起している巨大な体躯。服の類は全て剥がれ落ちたのか、全身の肌が露出している。左胸に何かが付いているようで、目を凝らすと巨大化した心房が露出して脈打っているのだと分かった。丸太の様に太く隆起した腕と、それを難なく支える肉体と姿勢。まるで石膏で作られた様な、現実離れした姿。顔すら判別できない距離からでもはっきりと分かる、その異様な雰囲気。
「あいつは」
 見た事のない、屈強な体躯をしたゾンビが立っていた。
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