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【零和 五章・今、雪崩の如く】
[零5-1・投下]
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【零和 五章・今、雪崩の如く】
0Σ5-1
フレズベルクは北欧神話に登場する巨人である。
古ノルド語において「死を飲みこむ者」を意味する。
その姿は鷲に似ており世界終末の日に、死者を引き裂くと言う。
そこから命名された名は、あまりにも的確で皮肉的であった。
レベッカがウンジョウさんと合流する為に上層階に向かう。
私はその背中を追うもレベッカが私に叫ぶ。
「あなたは何処かに退避をしてください!」
「冗談?」
「違います!」
そのやり取りのままエレベーターで上層階へと到着する。
ハウンドの作戦スペースの部屋らしく、中に入るとウンジョウさんとラセガワラ氏が誰かと通信をしていた。
先程のレベッカに入った通信も含めてダイサン区画内の通信系統は生きているという事だろうか、他の区画とは不可能という事は短距離限定だろうか。
ウンジョウさんとレベッカがAMADEUSとショットガンを装備しながら状況を確認していく。
ダイサン区画内の一つのビル上空にフレズベルクが二羽出現したらしい。
これだけの高度においても飛行が可能とは、従来の猛禽類の常識を当てはめるべきではない様だ。
フレズベルクに関しては分からないことだらけなのだ、と言っていたのを思い出す。
「この高度でもあの鳥は飛べるんですか」
「少なくともこの周辺を縄張りにしていたことはない。……どうして部外者が此処にいる?」
ウンジョウさんの言葉にレベッカが気まずそうな顔を作った。
私は躊躇いなく答える。
「人手が必要かと思いまして」
「……レベッカ、彼女にAMADEUSを貸せ」
レベッカが不服そうな顔で渋い声を出したが、部屋の隅に収納してあったAMADEUSとワイヤー射出を行うWIIGを渡される。
それを背負い各部のストラップを固定する。
また二人がつけているのと同じヘッドセットを渡された。
耳の穴に収まるくらいに小型だが、通信機能を有しているようだ。
フレズベルクがビル上空に現れたのは初めてとのことであったが、ウンジョウさんは冷静な様子だった。
装備を整えてレベッカと共に様子を確認しに行くと言う。
フレズベルクが仮に上空に現れようが、ビルの強化ガラスを突破できるわけでもない。
安全圏から撃ち落とす方法についてウンジョウさんがレベッカに説明しながら、フレズベルクが出現したエリアの近くに移動する為に、空中廊下を移動して別のビルへと向かう。
一面の空が外に広がるこの空中廊下も含めてビル全体に強化ガラスで設計されており、仮にフレズベルクが現れようが危機的状況ではないとのことだった。
確かに、あれが脅威的なのは、AMADEUSを利用して下層を移動している際に襲われるからである。
建物内部にいれば問題ないわけだ。
そう先導するウンジョウさんが説明する。
「まぁ念のために、な」
警報はいつの間にか止まっていた。
ダイサン区画に住んでいるのは数千人規模、ダイサン区画にはシンジュクGRビルを中心に五棟の超高層ビルが密集している。
一ビルだけでも千人単位で生活しているのだ。
それがパニックになる方がよっぽど危険である。
各区画が封鎖次第警報は止まったようだ。
そう、封鎖だ。
各セクションの通行を停止する為の扉が締まったらしい。
各階層間、そして同階層内で各セクションごとに扉が設置されており緊急時はそれが閉鎖されるということであった。
私たちが空中通路を移動していると現に目的のビルの入り口が封鎖されていた。
学校にある防火扉を思い出す。
こんな風に天井までの高さの扉が各セクション事を行き来不能することが自動で出きるらしい。
それが何を想定しているのかは考えるまでもなかった。
擬似的なバリケードだ、これは。
封鎖扉の一ヶ所にウンジョウさんが手を翳すとロックが解除された。
一時的に開いたのでそこを通り抜けると、暫くして扉は再度私の背後で自動で閉鎖された。
「ビルの窓ガラスを割る事は出来ない。侵入経路として、ビル屋上に食糧搬入用のヘリポートはあるが通常時はビル内部への入り口は封鎖されている。各セクションには今のように防護扉もある、問題は無い」
幾ら巨大な猛禽類であろうとも、それが入ってこれるスペースはない。
当たり前だ。
ビルの中に鳥が入ってこれるのなら、私の時代でだって問題になっている。
以上の入り口はそもそもゾンビ対策で封鎖されいるわけであるし。
ウンジョウさんが懸念しているのは別の点だった。
仮にここを縄張り一帯にされてしまうと、食料を運んでくる輸送ヘリやハウンドが移動する際の障害になるという点だった。
出来れば撃ち落とす必要があると彼は言う。
私は気になってレベッカに問う。
「フレズベルクはヘリを襲ったりしないの?」
「いえ、無いですね。流石に自分の体長より大きい物は襲わないでしょう」
緊迫した状況ではないと言う事になる。
なのに何故か、嫌な予感が背筋を撫でる。
フレズベルクが上空にいるというビルに渡りついた。
エレベーターで屋上を目指す。
ビル屋上は物資搬入等の巨大なヘリポートになっている。
屋上面積は広さにして15,000㎡以上、風防の為に巨大なお椀の様な物が置いてある見た目をしている。
ビル内部と繋がっている搬入用経路は南北で二か所あり、私達は北側から屋上に出る事にしていた。
高さ2,000mともなると風の勢いが凄まじく、体勢を崩さないように注意するように言われる。
ウンジョウさんは小型の銃を背負っている他、巨大なライフル銃を抱えていた。
強風下では普通の銃の弾丸は流されてしまうらしい、ウンジョウさんの抱えているのは対物ライフルなる物だった。
今更ながらハウンドの所有している武器の出所が気になった。
エレベーターが屋上に到着し外に出る。
ウンジョウさんが再度通信で南側入り口を封鎖するように通達していた。
屋上に踏み込むと強烈な風が吹き荒ぶ。
肌に打ち付けられた風の感触が痛覚を刺激する。
呼吸をしようとしても、まともに肺に取り込めない。
それでも不思議と息苦しさは無かった。
そもそも、と私は一つの事に気が付く。
レベッカが今朝、何を気にしていたのかに気が付く。
そうだ、高度だ。
高さ2,000メートルを越えるこの場所で、私は何の問題もなく呼吸出来ている。
常時高所で生活していた彼女達と私は違う。
「高度を下げてくるぞ!」
私の思考は、ウンジョウさんの怒鳴り声で途切れた。
風が一際強く吹き、前髪が暴れて視界が邪魔される。
その向こうに二つの影が見えて。
いや、それよりも。
上空から降下してくるフレズベルクは私達の姿を気にも留めず、屋上北側の方へ滑空する。
そしてフレズベルクは何かをその鉤爪に掴んでいた。
その何かはまるで、人らしき姿で。
それが何か、遠目ながら私とウンジョウさんは気が付いた。
この天空の聖域にまで、怪鳥がわざわざ運んできた物に。
「馬鹿なっ!」
ウンジョウさんが対物ライフルを降ろしてそれを地面に設置する。
身を伏せて射撃姿勢を取る。
フレズベルクが投下したそれは、ビル屋上に落下すると素早く体勢を立て直した。
そして勢いよく南側搬入口の方へ向かって走り出す。
「何故、ゾンビが!?」
0Σ5-1
フレズベルクは北欧神話に登場する巨人である。
古ノルド語において「死を飲みこむ者」を意味する。
その姿は鷲に似ており世界終末の日に、死者を引き裂くと言う。
そこから命名された名は、あまりにも的確で皮肉的であった。
レベッカがウンジョウさんと合流する為に上層階に向かう。
私はその背中を追うもレベッカが私に叫ぶ。
「あなたは何処かに退避をしてください!」
「冗談?」
「違います!」
そのやり取りのままエレベーターで上層階へと到着する。
ハウンドの作戦スペースの部屋らしく、中に入るとウンジョウさんとラセガワラ氏が誰かと通信をしていた。
先程のレベッカに入った通信も含めてダイサン区画内の通信系統は生きているという事だろうか、他の区画とは不可能という事は短距離限定だろうか。
ウンジョウさんとレベッカがAMADEUSとショットガンを装備しながら状況を確認していく。
ダイサン区画内の一つのビル上空にフレズベルクが二羽出現したらしい。
これだけの高度においても飛行が可能とは、従来の猛禽類の常識を当てはめるべきではない様だ。
フレズベルクに関しては分からないことだらけなのだ、と言っていたのを思い出す。
「この高度でもあの鳥は飛べるんですか」
「少なくともこの周辺を縄張りにしていたことはない。……どうして部外者が此処にいる?」
ウンジョウさんの言葉にレベッカが気まずそうな顔を作った。
私は躊躇いなく答える。
「人手が必要かと思いまして」
「……レベッカ、彼女にAMADEUSを貸せ」
レベッカが不服そうな顔で渋い声を出したが、部屋の隅に収納してあったAMADEUSとワイヤー射出を行うWIIGを渡される。
それを背負い各部のストラップを固定する。
また二人がつけているのと同じヘッドセットを渡された。
耳の穴に収まるくらいに小型だが、通信機能を有しているようだ。
フレズベルクがビル上空に現れたのは初めてとのことであったが、ウンジョウさんは冷静な様子だった。
装備を整えてレベッカと共に様子を確認しに行くと言う。
フレズベルクが仮に上空に現れようが、ビルの強化ガラスを突破できるわけでもない。
安全圏から撃ち落とす方法についてウンジョウさんがレベッカに説明しながら、フレズベルクが出現したエリアの近くに移動する為に、空中廊下を移動して別のビルへと向かう。
一面の空が外に広がるこの空中廊下も含めてビル全体に強化ガラスで設計されており、仮にフレズベルクが現れようが危機的状況ではないとのことだった。
確かに、あれが脅威的なのは、AMADEUSを利用して下層を移動している際に襲われるからである。
建物内部にいれば問題ないわけだ。
そう先導するウンジョウさんが説明する。
「まぁ念のために、な」
警報はいつの間にか止まっていた。
ダイサン区画に住んでいるのは数千人規模、ダイサン区画にはシンジュクGRビルを中心に五棟の超高層ビルが密集している。
一ビルだけでも千人単位で生活しているのだ。
それがパニックになる方がよっぽど危険である。
各区画が封鎖次第警報は止まったようだ。
そう、封鎖だ。
各セクションの通行を停止する為の扉が締まったらしい。
各階層間、そして同階層内で各セクションごとに扉が設置されており緊急時はそれが閉鎖されるということであった。
私たちが空中通路を移動していると現に目的のビルの入り口が封鎖されていた。
学校にある防火扉を思い出す。
こんな風に天井までの高さの扉が各セクション事を行き来不能することが自動で出きるらしい。
それが何を想定しているのかは考えるまでもなかった。
擬似的なバリケードだ、これは。
封鎖扉の一ヶ所にウンジョウさんが手を翳すとロックが解除された。
一時的に開いたのでそこを通り抜けると、暫くして扉は再度私の背後で自動で閉鎖された。
「ビルの窓ガラスを割る事は出来ない。侵入経路として、ビル屋上に食糧搬入用のヘリポートはあるが通常時はビル内部への入り口は封鎖されている。各セクションには今のように防護扉もある、問題は無い」
幾ら巨大な猛禽類であろうとも、それが入ってこれるスペースはない。
当たり前だ。
ビルの中に鳥が入ってこれるのなら、私の時代でだって問題になっている。
以上の入り口はそもそもゾンビ対策で封鎖されいるわけであるし。
ウンジョウさんが懸念しているのは別の点だった。
仮にここを縄張り一帯にされてしまうと、食料を運んでくる輸送ヘリやハウンドが移動する際の障害になるという点だった。
出来れば撃ち落とす必要があると彼は言う。
私は気になってレベッカに問う。
「フレズベルクはヘリを襲ったりしないの?」
「いえ、無いですね。流石に自分の体長より大きい物は襲わないでしょう」
緊迫した状況ではないと言う事になる。
なのに何故か、嫌な予感が背筋を撫でる。
フレズベルクが上空にいるというビルに渡りついた。
エレベーターで屋上を目指す。
ビル屋上は物資搬入等の巨大なヘリポートになっている。
屋上面積は広さにして15,000㎡以上、風防の為に巨大なお椀の様な物が置いてある見た目をしている。
ビル内部と繋がっている搬入用経路は南北で二か所あり、私達は北側から屋上に出る事にしていた。
高さ2,000mともなると風の勢いが凄まじく、体勢を崩さないように注意するように言われる。
ウンジョウさんは小型の銃を背負っている他、巨大なライフル銃を抱えていた。
強風下では普通の銃の弾丸は流されてしまうらしい、ウンジョウさんの抱えているのは対物ライフルなる物だった。
今更ながらハウンドの所有している武器の出所が気になった。
エレベーターが屋上に到着し外に出る。
ウンジョウさんが再度通信で南側入り口を封鎖するように通達していた。
屋上に踏み込むと強烈な風が吹き荒ぶ。
肌に打ち付けられた風の感触が痛覚を刺激する。
呼吸をしようとしても、まともに肺に取り込めない。
それでも不思議と息苦しさは無かった。
そもそも、と私は一つの事に気が付く。
レベッカが今朝、何を気にしていたのかに気が付く。
そうだ、高度だ。
高さ2,000メートルを越えるこの場所で、私は何の問題もなく呼吸出来ている。
常時高所で生活していた彼女達と私は違う。
「高度を下げてくるぞ!」
私の思考は、ウンジョウさんの怒鳴り声で途切れた。
風が一際強く吹き、前髪が暴れて視界が邪魔される。
その向こうに二つの影が見えて。
いや、それよりも。
上空から降下してくるフレズベルクは私達の姿を気にも留めず、屋上北側の方へ滑空する。
そしてフレズベルクは何かをその鉤爪に掴んでいた。
その何かはまるで、人らしき姿で。
それが何か、遠目ながら私とウンジョウさんは気が付いた。
この天空の聖域にまで、怪鳥がわざわざ運んできた物に。
「馬鹿なっ!」
ウンジョウさんが対物ライフルを降ろしてそれを地面に設置する。
身を伏せて射撃姿勢を取る。
フレズベルクが投下したそれは、ビル屋上に落下すると素早く体勢を立て直した。
そして勢いよく南側搬入口の方へ向かって走り出す。
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