クラウンクレイド零和

茶竹抹茶竹

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【零和 四章・空転する暫定神話について】

[零4-8・空襲]

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 翌朝、レベッカがやってきた。
 昨日の様子は全く感じさせず元気そうな雰囲気である。
 私より背も高くショットガンをぶっ放していたりするから忘れそうになるが、彼女は私より年下なのだ。
 顔付きやちょっとした仕草から年相応の子供っぽさが覗く。
 だから目の前で仲間が死んだ時に動揺するのだって当たり前で。
 そこまで考えて私は頭を振る。
「おはようございます」
「おはよう、レベッカ」
「よく眠れましたか?」
「大丈夫だよ」
「……息苦しさや寝苦しさとか、吐き気なんかはありませんでしたか?」
「別段問題ないよ?」
 私の返答にレベッカは少し釈然としない様子だった。
 今日は私の状態について詳しい検査をするらしい。
 部屋を出ながら気になっていた事を聞く。
「明瀬ちゃんは見つかった?」
「データには無かったです。ただ他の区画の住民である可能性は十分にあります」
 日本とは言え右も左も分からない世界だ。
 少女一人を捜すのは苦労しそうである。
 だが私にはそれが何よりも優先すべきことだった。
 私の記憶と現在の2080年の状況が一致しない以上、真実は不明ではあるが本当に私が2080年の未来に何らかの理由で「タイムスリップ」したのなら、最後の記憶の際に私の間近にいた明瀬ちゃんもこちらに来ている可能性もある。
 もしくは私が本当に何らかの記憶障害を抱えているとしても、明瀬ちゃんが実在している可能性は高い。
「他の区画と連絡はとれないの?」
「基本的には直接出向くしかないですね」
「交通手段は?」
「ハウンドの持っているAMADEUSしかないです。他の区画にはヘリがありますけれど」
 東京都内にダイイチからダイサンまでの区画があると聞いているが、それをあのワイヤー移動だけで行って来るのは簡単ではなさそうだ。
 ゾンビとフレズベルクの中を突っ切っていくのは遠慮したい。
 しかし移動手段がそれしかないとなると考える必要があった。
 AMADEUSは簡単に貸与してくれないとすればハウンドとやらに関わるしかないだろうか。
 結論は保留にして私は話題を変える。

「昨日言ってたデータの解析とやらは済んだの?」
「高度な暗号通信を使っていたので時間がかかりそうです。ただリーベラが生きているのは分かったので朗報ですけど」
「そのリーベラっていうのは?」
 U34とリーベラが通信していた事からハウンドは調査に向かったと、言っていた。
 リーベラというのは何かの機関か人物だろうか。
「まず、前提なのですが、現在電波通信は非常に不安定な状況にあります。食糧やインフラ整備の機器はスタンドアローンの為に、一応は影響ありませんが。しかし他の区画同士や他の地方、ましてや国外とは通信が非常に難しい状況です」
「他の状況がどうなっているのか分からないってことだ」
「そうです。それでリーベラというのは、パンデミック以前の情報インフラにおいて、この社会が依存していたもので……」
 言葉が止まって私はレベッカの様子を伺った。
 突然、何かに遮られた様に彼女の言葉は止まる。
 そうして何処か遠くの方に想いを馳せる様な、悪く言えば上の空の様な状態になる。
 レベッカの表情が変わった。
 険しく、そして何かを聞き逃すまいとしているような様子だ。
「どうかしたの?」
「何か変な感じが?」
「変な感じ?」
「あたし、昔から勘が働くと言いますか予兆めいたモノを感じる事がありまして。今すっごい変な感じなんです。最初にあなたと会った時もそうです。U34の建物の中に誰か居る気がして、ウンジョウさんは反対したんですけど助けなきゃって思って飛び出しちゃって……」
 事実、建物の中には私がいたからその予感は正しかった。
 腑に落ちない点はあるが。
 U34は区画から外れた低層地帯だ。
 施設内に大量のゾンビがいる可能性は十分にあった。
 しかしその状況で一人で突入を決意させるだけの確信めいたものを彼女は感じていたというのだろうか。
 勘と片付けて良いのだろうか。
 レベッカの持つその直感とやらに、私は別の物を連想していた。
 いや、そんな筈はない。
「何でしょう……空から何か」
「空?」
「嫌な感じが空に……」
 レベッカの言葉を遮るようにビルの中で警報音が鳴り響く。
 彼女のヘッドセッドに着信が入ったらしくその指先を耳元に添えた。
 一瞬で蒼白した表情に変わっていく。
 緊迫した声で彼女は通信先に問い返す。
「フレズベルクがダイサン区画の上空に!?」
 高さ2,000メートルの超高層ビル群。
 パンデミックで崩壊した世界で、人々がゾンビから逃れるために創り上げた聖域。
 完璧な社会インフラを完備し、それ故に行き止まりと化した箱庭。
 天を目指し地を見捨てそうして造り上げた理想的で平和な社会。
 その象徴であり礎であり、そして堅牢な要塞。
 その上空に。
 「死を飲みこむ者」の名を冠した人類の敵は羽ばたいていた。
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