6 / 12
ほぼ茶色い水の底から
しおりを挟む
東京未曾有の雪予報であったが、我が町では不発に終わった。代わりに痛いほどの雹が降っている。
レインコートも途中からは力尽き、私はずぶ濡れで帰宅した。
疲れ切った青白い顔と見開いた眼にどこか既視感があったがシェイプオブウォーターの「彼」だと気が付く。
人間に戻らなくては、とめったに使わない湯船に湯を張っている間、私はとある物の存在を思い出した。
台湾人の友人が来日した際に我が家に置いていった入浴剤である。
別に台湾製ではない。
日本の入浴剤を買って帰りたい、という目的を果たすついでにくれた物だ。
シャワーで済ましがちなので使うタイミングを完全に見失っていたが、これは今使うしかあるまい。
押入れの奥にしまい込んでいたのを手探りで探し当てると、今日という日に似合う大層な名を冠した入浴剤が出てきた。
「爆汗湯」である。
ボーボボの必殺技かなんかか???
「ホットジンジャーの香り、脂肪メラメラ、とろり」などの謳い文句が並んでいる。
早速湯船に入れてみると揚げ油の様な、炭酸の様な、手持ち花火の様な音が鳴りだした。
少なくとも風呂から鳴っていい音ではない。
汗が大量に出るという意味で「爆」の字を名付けたのかと思ったが、本当に爆発するという意味であったらしい。まさか、まさかである。
しばらくすると音が収まったので、冷え切った身体を沈めてみる。
なんだこれは。
入浴剤が溶けた湯。非常に粘度が高い。擦り合わせた指と指の間で糸を引く程だ。
そして湯の色はとても風呂には見えない。茶色く染まり、白い浮遊物が舞う。
今朝下ごしらえをしていたゴボウを連想させる。
台湾のとは別の友人が我が家に泊りに来た際。泥付きのゴボウ4kgを置いていった。
それ以来、ゴボウを洗い皮を剥ぐ生活をしている。大量のゴボウをささがき続けたピーラーはいつのまにか茶色くなった。
話を戻そう。
香りに関しても強烈だ。
パッケージにあったホットジンジャーの香りの意味を鼻孔で理解する。
湯気に生姜の香りが混ざっているのだ。これもやはり風呂からしていい匂いではない。
生姜汁に漬け込まれながら私は、母が作る手製のジンジャーエールを思い出していた。
取り立てて特殊な製法ではない。
生姜とシナモンと砂糖を煮詰めてシロップを作るだけだ。
しかし、母のジンジャーエールは生姜のペーストを何故か濾すことはない。
粘度の高い生姜ペーストを炭酸で流し込むという強烈な飲み口なのである。
手の平にすくった風呂の湯でそれを連想する。
これが家の風呂であるからまだ理性を保てているが、前情報なしに入った温泉がこれだったら悲鳴を上げていることだろう。
ひとしきり堪能、というか仔細を観察してから湯船を出る。
身体にまとわりつく風呂湯。
まるで粘液まみれみたいだ。
やはりシェイプオブウォーターじゃないか。
レインコートも途中からは力尽き、私はずぶ濡れで帰宅した。
疲れ切った青白い顔と見開いた眼にどこか既視感があったがシェイプオブウォーターの「彼」だと気が付く。
人間に戻らなくては、とめったに使わない湯船に湯を張っている間、私はとある物の存在を思い出した。
台湾人の友人が来日した際に我が家に置いていった入浴剤である。
別に台湾製ではない。
日本の入浴剤を買って帰りたい、という目的を果たすついでにくれた物だ。
シャワーで済ましがちなので使うタイミングを完全に見失っていたが、これは今使うしかあるまい。
押入れの奥にしまい込んでいたのを手探りで探し当てると、今日という日に似合う大層な名を冠した入浴剤が出てきた。
「爆汗湯」である。
ボーボボの必殺技かなんかか???
「ホットジンジャーの香り、脂肪メラメラ、とろり」などの謳い文句が並んでいる。
早速湯船に入れてみると揚げ油の様な、炭酸の様な、手持ち花火の様な音が鳴りだした。
少なくとも風呂から鳴っていい音ではない。
汗が大量に出るという意味で「爆」の字を名付けたのかと思ったが、本当に爆発するという意味であったらしい。まさか、まさかである。
しばらくすると音が収まったので、冷え切った身体を沈めてみる。
なんだこれは。
入浴剤が溶けた湯。非常に粘度が高い。擦り合わせた指と指の間で糸を引く程だ。
そして湯の色はとても風呂には見えない。茶色く染まり、白い浮遊物が舞う。
今朝下ごしらえをしていたゴボウを連想させる。
台湾のとは別の友人が我が家に泊りに来た際。泥付きのゴボウ4kgを置いていった。
それ以来、ゴボウを洗い皮を剥ぐ生活をしている。大量のゴボウをささがき続けたピーラーはいつのまにか茶色くなった。
話を戻そう。
香りに関しても強烈だ。
パッケージにあったホットジンジャーの香りの意味を鼻孔で理解する。
湯気に生姜の香りが混ざっているのだ。これもやはり風呂からしていい匂いではない。
生姜汁に漬け込まれながら私は、母が作る手製のジンジャーエールを思い出していた。
取り立てて特殊な製法ではない。
生姜とシナモンと砂糖を煮詰めてシロップを作るだけだ。
しかし、母のジンジャーエールは生姜のペーストを何故か濾すことはない。
粘度の高い生姜ペーストを炭酸で流し込むという強烈な飲み口なのである。
手の平にすくった風呂の湯でそれを連想する。
これが家の風呂であるからまだ理性を保てているが、前情報なしに入った温泉がこれだったら悲鳴を上げていることだろう。
ひとしきり堪能、というか仔細を観察してから湯船を出る。
身体にまとわりつく風呂湯。
まるで粘液まみれみたいだ。
やはりシェイプオブウォーターじゃないか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる