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第三話 素直じゃないお礼(3)
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しかしあの時のわたしはお弁当を渡せただけで満足していた。
彼の家から出ても、まだ興奮と緊張が解けなかった。
お弁当よろこんでくれるかな? そんなことを考えながら足を前に出していた。
出来れば今日は部活まで彼と顔を合わせたくない、そう思っていた。
なのに、
「アサヒナさん!」
彼はわたしを追いかけてきた。
その早さから、朝食を食べていないことは明らかだった。
服を着替えて髪を少しいじっただけに見える。ちゃんと歯を磨いたかどうかすら怪しい。
そしてわたしに追いついた彼は真横に並び歩きながら、口を開いた。
「お弁当ありがとう。でも、どうして急に?」
それは聞かれて当然かもしれない質問であった。あれでは伝わるわけが無い。
だからわたしははっきりと伝えることにした。
「夏休み中、いっぱいおごってくれたでしょ? そのお礼」
わたしは「お礼」の部分をわざと強調した。他意は無いことをしっかりと伝えるためだ。
なのに、彼は、
「そうか。でも嬉しいよ」
またむずがゆくなるセリフをわたしにぶつけてきた。
そのむずがゆさはわたしの母性かなにかを刺激したんだと思う。
だから、
「だったら、明日からも作ってあげようか?」
勢いでわたしはとんでもないことを言ってしまった。
これに彼は本当に嬉しそうに声を上げた。
「本当に?! メチャクチャ嬉しいよ!」
その笑顔もむずがゆかった。
だから、わたしは、
「ただのお礼だからね? 勘違いしないでよ?」
彼から視線をそらしながら、バカなことを言ってしまった。
そのセリフは照れ隠しのつもりだったのだが、まったく隠れていないことに気付いたのは学校に着いてからだった。
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