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Ep1 あなたひとりの章(12)

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 見ると、持ち手である棒の先端部分が神棚に直撃していた。
 やばい、思わずそう思った。
 しかし同時に安心した。
 オーナーがいないからだ。

“地方にはこの手の話を本気で信じていて、神経質な人がいるから気をつけろよ?”

 友人の言葉が脳内で勝手に再生される。
 だが、あなたはそれを無視した。
 オーナーはまだ帰ってきていない。だから問題無いとねじ伏せようとした。
 だが、次の言葉は無視できなかった。

“でもこの神様はやっぱりちょっと気難しい神様みたいでな、罰当たりなことをすると、容赦無く祟ってくるらしい”

 記憶の声はあなたの意思を無視して勝手に再生され続けた。

“帰ってくると、留守番していた人が謎の変死を遂げていたりしてな。酷い時は引き裂かれてバラバラにされてることもあった”

 ……。
 あなたは背中に怖気がゆっくりと這い上がるのを感じた。
 あなたはその感覚を無視するために手を動かした。
 ほうきでガラスを回収する。
 そしてあなたはガラスを集めたちり取りを目立つところに置いた。
 あとはオーナーに謝ればいいだけだ。
 ほうきを元の場所に戻して広間に帰ってくる。
 そこであなたはようやく気付いた。
 そういえば、いま何時なんだろう、と。

「……!?」

 そして柱時計を見たあなたは再び目を見開いた。
 時計の針は8時を指していた。
 夜の8時?! 思わずカーテンをめくって外の様子を確認する。
 外は真っ暗だった。
 先ほどから窓がずっとガタガタとうるさい。
 どうやら外は吹雪いているようだ。

「……」

 あなたはそれを都合の良い理由として使うことにした。
 きっと、この吹雪のせいで帰りが遅れているのだと、そう思うことにした。
 ならば、やるべきことは一つだった。
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