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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第四話 魔王戦(6)

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 真っ直ぐと横一線、まったく異なる軌跡の光がぶつかり合い、火花を散らす。
 その火花が二人の鬼気迫る形相を照らす。
 まるでそれを嫌がるかのように、魔王が後方に床を蹴る。

(逃がすかぁ!)

 シャロンが叫びながら同時に前へ踏み込む。
 腕の中で星を爆発させ、踏み込みの勢いを乗せた突きを繰り出す。
 再び二本の閃光が交わり、先よりも大きな火花が散る。

「でぇやああっ!」「ぬぅりゃあああっ!」

 そしてシャロンと魔王、二人の気勢が同時に響いた。
 突きと斬撃が応酬を繰り返す。
 双方の体内で星々が煌き、二人の間で閃光が織り重なる。
 火花を絶やさないようにしているかのように、二人の剣撃が連なる。
 それは五分であるかのように思えたが、直後にその拮抗は傾き始めた。
 魔王の枯れ肌に赤い線が引かれ、少しずつその数を増していく。
 その鋭い痛みに抗うように魔王は叫んだ。

(調子に乗るなッ!)

 杖が使えずとも炎くらいは出せる! そんな心の叫びを響かせながら、魔王は鞘を握る左手を赤く輝かせた。
 その手から赤い大蛇が生まれ、伸びる。
 対し、シャロンは一歩大きく引いて魔王の剣の間合いから離れつつ防御魔法を展開。
 直後に蛇がシャロンの盾に食らいつき、その身を焦がす。
 肉が焼けるその地獄の中でシャロンが針を構え、盾の中心に狙いを定める。
 瞬間、

「!」

 シャロンは焦りが滲んだ驚きに目を見開いた。
 魔王が踏み込んできたのだ。
 何を考えているのか、それが感じ取れたゆえにシャロンは焦った。
 魔王のその行動は咄嗟の思いつき、ひらめきであった。
 シャロンが炎に対して盾を展開することは予想出来ていた。
 炎に対しては避けるか範囲攻撃で相殺するかくらいしか手が無い。そしてシャロンが持つ範囲攻撃は盾を利用した光の嵐くらいだからだ。
 だから読めていた。だが、それに対してどうするかまでは考えていなかった。
 しかしその時、悪魔が微笑んだのだ。
 シャロンのあの技は突き刺した針に光の粒子を引き寄せて収束し、一気に開放することで発動するもの。
 ならば、こうすればきっと面白いことになると、魔王は気付いたのだ。
 それは、

(こうだ!)

 と、魔王は全員の注目を集めようとするかのように、心の中で叫びながらそれを見せた。
 繰り出されたのはシャロンと同じ型、突き。
 狙いも同じ。盾の中心点。
 距離感、速度もだ。ゆえに、二人の動きは防御魔法を鏡に見立てたかのように重なっていた。
 そして、二人は鏡合わせのまま得物を繰り出し、

「破ッ!」

 双方の得物の先端が同時に鏡の中心点に突き刺さり、ぶつかり合った瞬間、魔王は気勢を上げた。
 その声には「完成」の意が込められていた。
 何が完成したのか。
 それは魔王にとっての芸術だった。
 鏡に穴が開き、中の粒子が双方の得物の先端部に引っ張られ始める。
 だが、魔王のほうが魔法に関しては全ての面でシャロンより強い。
 引っ張る力も同様だ。魔王のほうが粒子を引っ張る核の数が多い。
 ゆえに、粒子のうち三分の二は魔王のほうに集まった。
 そして魔王は笑みと共に、それを開放した。
 二人の得物から放たれた光がゼロ距離でぶつかり合う。

「っ!」

 結果は明らかだったが、それでもシャロンは表情を歪めた。
 魔王の刃から放たれた蛇の群れが数で劣るこちらの群れを食い破り、襲い掛かってくる。
 シャロンは全力で後方に床を蹴りながら、防御魔法を再展開したが、

「きゃあぁっ!」

 光の嵐はその盾ごと、シャロンの体を飲み込んだ。
 シャロンの体に浅くない傷がいくつも刻まれる。
 数匹の赤い蛇がその身から垂れ流れ、姿勢が崩れる。
 そこに魔王はさらに踏み込んだ。
 追撃、いや、とどめのために。
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