Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ

第六話 豹と熊(11)

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   ◆◆◆

「「「ぅ雄雄雄雄オォッ!」」」

 気勢を上げながら突撃する兵士達。
 その中にサイラス達も混じっている。
 相変わらず光弾による攻撃を受け続けているが、もはや悲鳴を上げるものは誰もいない。
 だからサイラスはその気勢に負けぬように声を上げた。

「走りながら装填!」

 地獄の中を駆けているにもかかわらず、銃を持つ兵士達全員がほぼ同時にその指示通りに動いた。
 弾と火薬を装填し、火縄を準備する。
 その準備と同時に、先頭の集団はまるで三つ又の槍を形作るかのように、左右に部隊を広げ始めた。
 その意味は心で共有出来ていた。ゆえに、

「前方狙え! 撃て!」

 サイラスはその形がある程度整うと同時に、叫んだ。
 左右に広がった部隊の最前を走る者達が、ある一点を狙って一斉に発射する。
 場に家屋などの障害物は無く、敵は隊列を組んで固まっている。だから暗闇でも問題無く狙える。
 そして左右に展開したのはこのため。
 いくら人数が多かろうと、なにかしらの工夫をしない限り、射線を得られるのは先頭付近の一列集団のみ。仲間も射線を塞ぐ障害物であることには変わりないのだ。
 だから射線を増やすために、部隊の火力を上げるために左右に広がったのだ。
 そしてその火力を一点に集中させたのは当然、そこに突破口を作るため。包囲網に穴を開けるため。
 そしてその狙いは見事に成功したように見えた。
 赤い花を咲き乱れ、影達の隊列に穴が開く。
 が、その穴は直後に塞がれ始めた。

「続けて構え! 撃て!」

 その修復作業を止めるために、次の火力も同じ場所にぶつける。
 されど隊列の回復は止まらない。
 むしろ、包囲の輪は狭まってきており、こちらが挟撃されつつあるように見えた。
 だが、そのための左右展開であった。
 右と左の部隊が挟撃を阻止するように、中央の部隊の盾になる。
 左右の部隊が持ちこたえている間に、中央の部隊が駆け抜ける。
 されど当然、左右の盾はそれほど長くは持ちこたえられない。あっという間に削られ、崩壊を始める。
 だから修復する。
 街のほうから駆けつけてきた後続の者達が、自発的に弱ったほうに加勢する。
 この左右の部隊に参加して生き残れる可能性はゼロに近い。
 されど、参加者達の心に恐怖や後悔などは無かった。
 銃を持たない者達や、弾や火薬が切れた者達が自ら率先して命を捨てに行く。

 これが「捨て奸」

 仲間の率先的かつ自発的な犠牲を前提とする、戦神の域の戦術。
 ゆえに、心を打たれないわけが無かった。
 あるのは、ただ感謝のみ。
 自分のために命を捨てようとしている者達への想いのみ。
 ゆえに、包囲を抜けた者達の多くは振り返り、銃を構えた。
 銃弾の雨で盾になっている者達を援護する。
 しかし撃ちながらも足は止めない。走り続けなければやはり渋滞を起こすからだ。
 だがそんな中、ひとり逆走を始めた者がいた。

「雄雄雄ォッ!」

 気勢を上げて走り出したその者はやはりサイラス。
 その気勢には少しだけ震えが混じっていた。
 その両目からは熱いものが流れ始めていた。
 だが、サイラスはそれを隠そうともせず、恥じてもいなかった。
 これで心を打たれないやつは人間じゃない、そう思っていた。
 あの時もこうすれば良かったのではないか、そんな風に空想の過去と今の自分を重ねていた。
 されど、それはやはり感情のみによる行動だった。
 感情に基づく決断は時に全体の士気に影響する。されど、今の状況で指揮官が深く考えずにやっていいことでは断じて無い。
 ゆえに、

「大将!」

 それを止めようとしているのか、それとも援護のためか、己でもわからぬまま、フレディはその背を追いかけ始めた。
 デュランも共に併走する。
 そしてこの三人の一見無謀な行動にも、仲間は即座に対応した。
 サイラスが目指す方向に射撃を集中させる。
 だが、そんなことをすれば他の箇所への牽制がおろそかになる。
 その隙に気付いた影達が、前に抜け出た射手達に向かって突進を試みる。
 これに、射手達は当然のように後退射撃を開始。
 包囲を脱出した者達とサイラス達の距離が離れ始める。
 先頭で引き撃ちする集団、後方を走っているいまだ包囲を抜けていない者達、それらを挟撃する影達、上空から見るとこれらは併走する三本の線のような形に変わり始めた。
 だが、やはりある箇所だけはその変化に追従しなかった。
 最初の衝突点、「捨て奸」の要である二枚の盾が残っている箇所だ。
 ゆえに、全体の形はまるで蛇が大きな獲物を飲み込んだかのように、二枚の盾が踏みとどまっている箇所だけが膨らんだ形に。
 だが、このままでは盾は守るべき者ごと、蛇の胃液に消化されてしまう。光弾を撃っているだけだった影達全員が接近戦をしかけに突進してきている。
 その未来を変えるために、

「でぇやああっ!」

 サイラスは右盾を攻撃している影達の背後から切り込んだ。
 この時の影達に散って逃げるという選択肢は選べなかった。
 そんなことをすればせっかくの挟撃が台無しだからだ。
 ゆえに、

「蛇ッ!」

 影の一人が気勢と共にサイラスを迎え討った。
 が、

「がっ!?」

 サイラスの放った一閃は迎撃の蛇を一方的に打ち破り、影の顔面を両断した。

「疾ッ!」

 間を置かずに別の影がサイラスの真横を突くが、

「ぐあっ?!」

 結果は同じ。

「「「破アァッ!」」」

 ならば数人がかりでと、三方向から同時に放たれた爪がサイラスに迫る。
 されど、

「うっ!?」「ぎゃっ?!」「あっぐ!」

 響いたのは三つの斬撃音と影達の悲鳴だけだった。
 真横を駆け抜けながらの胴薙ぎで左からきた一人目を倒し、振り返りながら放った袈裟斬りで正面からきていた二人目を切り伏せ、斜め下に振り下ろした刃を正面に戻しながらの突き上げで三人目の喉を串刺す。
 この三人斬りでの所要時間、およそ数秒。
 ゆえに三人の悲鳴は一部重なっていた。
 すさまじい、後ろからそれを見ていたフレディはそう思った。
 街中での戦闘の時よりもさらに速くかつ力強くなっている、それが目に明らかだった。
 が、併走しているデュランの思いは違った。
 サイラスは無茶をしている、デュランにはそれがわかっていた。
 あれでは長くは戦えない、そこまでわかっていたゆえに、

「シャラァッ!」

 デュランはフレディを置き去りにするように加速した後、独特の気勢を響かせて切り込んだ。
 気勢からわずかに遅れて放たれたデュランの爪が一つの影をえぐり倒す。

「貴様!」

 その新たな乱入者の背に向かって、別の影が光る爪を振り下ろす。
 が、直後に響いたのは金属音。受け止めたのは遅れて到着したフレディの大盾。
 そして二人は反撃はせず、互いの背をかばい合うようにサイラスの背後へ。
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