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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか

第十九話 黄金の林檎(10)

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   ◆◆◆

 一足先に出陣したシャロン達は既に交戦状態に入っていた。
 各部隊は事前に立てられた作戦通りに展開されていた。
 基本は薄く長く広がった包囲の形。
 避難民を逃がし、凶人を通さないためだ。
 そのために兵士達は街を包囲しつつ、兵站線の要所となる各所に新たな陣を建築していった。
 占領されている街のいくつかは、狂人達によって要塞化が進められていた。
 そのような街に対しては大砲が使われた。
 敵の射程外から大砲で一方的に要塞の防御を破壊し、銃撃の雨を浴びせる。
 大砲で荒らしてから銃撃で制圧し、少し前進する、これを繰り返していく。
 が、一部の部隊はまったく違う動きをしていた。
 敵陣深くに一気に浸透し、中から荒らしていく者達がいた。
 そんなことが出来るのは精鋭であり、やはりサイラスやシャロン達であった。
 そしてアルフレッドはその中でも最前に立っていた。

「ぅ雄雄ぉっ!」

 アルフレッドはあえて目立つように、大きく気勢を響かせながら戦っていた。
 そしてその戦い方は以前とは違っていた。
 具体的にどう変わったのか、それを示す機会は直後に訪れた。
 前方から三体の狂人が迫ってくる。
 あと一度の踏み込みで近接武器の間合い。
 その距離最初に詰めたのはアルフレッド。
 型は居合。
 その突進に対し、最初に手を繰り出したのは狂人のほうであったが、

「っ!」

 後から動いたはずのアルフレッドの攻撃が先に入った。
 瞬間二閃。まばたきの間に描かれた十字が一人目を赤く散らす。
 光の十字は直後に交差点から歪み、螺旋を描いて白いカマイタチに。 
 しかしそれを読んでいた二人目は既にカマイタチの範囲から体を外していた。
 アルフレッドの左手側に回り込みながら爪を構える。
 が、既にアルフレッドは次の攻撃動作に入っていた。
 全身を捻る回転運動。
 その回転の勢いを乗せて繰り出されたのは、

「破ッ!」

 右足による回し蹴り。

「ぐぇぁっ!」

 光る足裏が深々と凶人の腹にねじこまれる。
 しかしそれで終わりでは無かった。
 アルフレッドの足裏は輝きを増していた。
 光があふれ、その光は形を持ち始めた。
 まさか防御魔法? 狂人がそう思った瞬間、そのまさかは現実になった。

「がっ!?」 

 アルフレッドの足裏から光る傘が開き、放電炸裂のような派手な音と共に狂人の体が吹き飛ぶ。
 まるで傘が開いた勢いで吹き飛ばされたかのよう。
 だが、アルフレッドの攻撃はまだ終わりでは無かった。
 アルフレッドは即座に足裏から防御魔法を切り離し、次の攻撃動作に入った。
 右足を地に降ろしながら体を真右に向ける。
 そして右足で地を蹴り、横向きのまま体を前に進ませる。
 その前進の勢いを感じながら左足を少し振り上げる。
 同時に上半身を右に寝かせるように、腰から曲げる。
 そして上半身が地に水平になった瞬間、アルフレッドは左足を勢いよく前に突き出した。
 左足先から頭までが地に水平な一本の直線となり、左足裏に前進の力と上半身を寝かせたことによる振り子の力が全て収束する。
 そして突き出された左足が最大速度に達した瞬間、その足裏は防御魔法の中心を貫き、

「穿破一閃・足刀!(せんぱいっせん・そくとう)」

 アルフレッドの心の声が狂人の頭に響いた。
 足で防御魔法を展開し、もう片方の足で貫く曲芸のような技であったが、威力は曲芸のそれでは無かった。
 光の槍のような足刀に貫かれた防御魔法は左足に収束し、そして弾けて白い濁流となった。
 真正面にいた二人目の狂人があっという間に白く塗りつぶされ、赤く終わる。
 アルフレッドは三人目に嵐を回避された時のために、二刀による次の攻撃動作に入っていたが、

「―ーっ!」

 その必要は無いことが、直後に白い嵐から響いた声無き悲鳴でわかった。
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