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第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十話 母なる海の悪夢(14)

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 防御魔法は盾としての役割を果たしたのかわからぬほどに瞬間破砕。
 左わき腹と右ふとももに衝撃が走る。

(ぅっ!)

 左わき腹から痛みが走り、口尻から苦悶の泡が漏れ出す。
 肋骨が一本イッた、感知能力に頼るまでも無く、経験でそれがわかった。
 だが、被害と呼べるものはそれだけ。
 右太ももは少し撫でられただけだ。
 やはり潜ったのは正解だった。水の壁が無かったらこの砲撃で終わっていた。
 この程度の痛みで済んだのならば安いもの、そんなことを考えながらシャロンは再び水を蹴った。
 さらに深く潜行する。
 もう砲撃は問題にならない。
 だが直後、今度は別の障害が目の前に現れた。
 それは首長竜。
 大型船の下にまとわりついている雲から伸び迫ってきている。
 抵抗のある海中では魔法の球はあまり飛ばない。
 しかしそれでも飛び道具を使う手段はある。
 シャロンは即座にそれを、あの蛇と魚を組み合わせたかのような精霊を展開した。

(行って!)

 体内に赤い球を宿した精霊を五匹作り出し、突撃させる。
 対し、首長竜はその巨大な口を大きく開いた。
 吸い込まれそうで不気味な喉奥が露わになる。
 その喉奥には、たくさんの目が光っていた。
 なにがいる? そんな意識と共に目を凝らした瞬間、その群れは一斉に飛び出した。
 出てきたのは大量の蛇型の精霊。
 大きなヒレを持つシャロンの蛇と直後にぶつかり合う。
 互いの牙が突き立てられたのと同時に抱えられていた爆発魔法が炸裂。
 生じた赤い槍が首長竜の頭を貫き、爆発によって生じた泡が増殖しながら広がり始める。
 泡は周囲の精霊たちを捕まえようとするかのように膨らみ、そして包み込んだ。
 間も無く膨張する力を失い、水圧に負けて球体が縮み始める。
 その過程は時間にして一瞬。
 まばたきの間に行われた膨張によって、水中衝撃波が発生。シャロンの体を打ち揺らす。

「……っ!」

 それはかつて経験したことの無い、独特の感覚であった。
 圧縮されながら引きちぎられるような感覚。
 かつてない痛みに身もだえる。
 運が良かった。そう思った。高威力の爆発魔法にしていたら死んでいたかもしれない。たまたま距離を取っていたのも正解だった。
 その幸運に感謝しながら再び水を蹴る。
 行く手には第二第三の首長竜が。
 爆発魔法なら簡単に蹴散らせる。しかしそれではなかなか前に進めない。衝撃波のたびに前進を止めることになる。
 だからシャロンは剣を構えて突っ込んだ。
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