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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十五話 愛を讃えよ(16)

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 その痛みから逃げるようにさらに地を蹴る。
 しかし距離が離れない。同じ速度で踏み込んできている。
 そしてアゼルフスは突進姿勢のまま、剣を再び構えた。
 それは突きの構えに見えたが、

(いや、これも普通の突きでは無い!)

 やはりそれも先の斬撃と同じ、異形の太刀筋であった。
 握り手の位置から刃が分裂し、ハサミのように変形したのだ。
 これに対し、サイラスもまた同じ突きの構えで迎え討った。
 体に巻き付けているムカデに魔力を吸い上げさせ、より必要としている部位に流し込む。
 肩と腕の中で魔力を爆発させ、痛みを代償とした超人的加速を得る。
 そして放たれた閃光のような突きが、瞬く間に二閃。
 迫る異形の刃を突き崩す。
 だが、相手の態勢までは崩れない。
 互いに剣を引き戻し、同じ突きの構えで、五分の形で視線が交錯する。
 先に動いたのはアゼルフス。
 異形の刃をさらに分裂させる。
 もはや剣というより、束にした触手のよう。
 まるで触手自体が燃料であるかのように燃え始める。
 対し、サイラスも長剣を異形に変えた。
 刀身が見えなくなるほどに、ムカデを巻き付かせる。
 そして二人は同時に異形の突きを繰り出した。
 触手のようなアゼルフスの刃は直線の軌道を取らず、サイラスを包み込むように広がる。
 サイラスのムカデも同じ形で広がり、伸び迫る触手に食らいついた。
 ムカデが触手の動きを止め、長剣が突き穿つ(うがつ)。
 ムカデはすぐに燃え始めるが、焼き尽きるよりも長剣がトドメを刺すほうが速い。
 が、

(相手の方が再生が速い!)

 このままだとやられるとサイラスは理解していた。
 どうすればいいのかもわかっていた。 

(押し切られる前に、光魔法で押し返すしか無い!)

 突きの連打とムカデで時間を稼ぎながら、大盾に魔力を流し込む。
 そして押し切られそうになった瞬間、サイラスは盾にたまった魔力を押し出すように放った。
 盾から光の壁が生み出され、迫る触手を押しとどめる。
 その隙に盾をずらし、光の壁の中央に狙いを定める。
 触手は光の壁の上を這い進み、回り込もうとしたが、それよりはサイラスのほうがはるかに速かった。
 長剣が真っすぐに突き出され、光の壁をくし刺しにする。
 直後に光の壁は歪み、回転し始めた。
 渦を描きながら、縮むように収束していく。
 その収束は一秒もかからず限界を迎え、その瞬間にサイラスは力を解き放った。
 光の濁流となり、触手を弾き飛ばしてアゼルフスに襲い掛かる。
 が、

「!」

 この反撃は完全に見切られていた。
 収束の瞬間に合わせてアゼルフスは回避行動を取っていた。
 見切られていたゆえに回避する方向も決められていた。
 それは長剣の握り手であるサイラスの右手側。
 突き出した状態で収束するエネルギーに拘束されるゆえに、即座には動けない。
 死の予感がサイラスの背中を駆け上る。
 その冷たくも熱い感覚の中で、サイラスは少しでも生存率を上げるために相手の動きを見つめた。
 右手側に回り込みながら体を回転させている、最初はそう見えた。
 しかし違った。回っているのでは無く、ねじれていた。
 それは速く、小さな赤い竜巻のようになるまで一秒もかからなかった。
 さらにそれだけでは無かった。サイラスの目はもう一つの変化も見逃さずにとらえていた。
 最初は身に着けていなかったはずのマントのようなものが背中から伸び生えていた。
 しかしそのマントは回転の勢いによって外側になびくことは無かった。
 まるで貼りついているかのように、アゼルフスの体に巻き付いていた。
 そして回転速度とねじれが極限に達した瞬間、アゼルフスは思念を響かせた。
 それは呪文のように、淡々と冷たく響いた。

“巻き付き焼き尽くすバーンシュラウド”
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