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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十五話 愛を讃えよ(25)

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 奥の手、その言葉にサイラスとデュランは思わず視線を向けた。
 アゼルフスはやはり追いかけきてはいない。
 既に安全と言えるほどに距離が空いている。もう少し離れればアゼルフスの姿は木々の影に隠れるだろう。
 が、サイラスとデュランは最大の警戒心を持ってその姿を見つめ続けた。
 そして二人の瞳の中でアゼルフスは動いた。
 触手のような大剣を、天に向かって掲げる。
 間も無く、大剣は激しく燃え上がり始めた。
 それは目印であり、合図でもあった。
 燃え盛る赤い光からは、一つの思いが強く放たれていた。
 アゼルフスは直後にその思いを己が体から響かせた。
 
“集え同胞達よ! 我に力を貸せ!”

 その声は遠くまで届き、精霊達に響いた。
 そして周囲の精霊達は引き寄せられるように、掲げられた大剣のもとに集まり始めた。
 赤い光に誘われる虫のように。
 されど、その炎は集まってきた虫を焼き殺すことは無かった。
 触手に転じたマントが集まってきた精霊を捕まえ、包み込む。
 触手は精霊達をやさしく分解し、取り込んでいく。
 手に入れた材料はアゼルフスの大剣に集めり、膨張するように膨らみ始めた。
 歪な膨らみ方。大量の腫瘍ができ、それが大きくなっていくような。
 しかし痛々しさは無い。発光しているからだ。
 光の魔力が満ちている。
 それを見たサイラスとデュランは同時に足を止めた。
 二人とも同じ意識を持っていたが、先に声を上げたのはデュランだった

「何かデカい攻撃が来るぞ!」

 凄まじい射程か範囲、あるいはその両方を備えた攻撃のはず。
 だから追いかけてこないのだろう。
 黙って見ているだけでは大きな被害が出る可能性が高い。
 ならばと、サイラスは声を返した。

「こっちも大技で相殺するぞ! すぐに始めろ!」
 
 何を始めればいいのか、デュランは言われずともわかっていた。
 アゼルフスと同じように大剣を掲げ、魔力を流し込んで発光させる。
 そしてデュランは剣に願いをこめた。
 力を貸してくれ、と。
 その願いが、思念が手から剣に伝わる。
 剣から発せられる光魔法の波が自身の脳波と同じになるように調整する。
 自身の心が剣に映されるような感覚。
 間も無くその調整は終わった。
 魔力を大量に含んだ大剣が増幅器となって、広範囲に思念を響かせる。
 その思いに仲間の精霊達は引き寄せられ始めたが、

(間に合うか……?)

 デュランは不安の念が剣に反映されないように抑えるのに必死であった。
 が、直後、

“鎮魂の時は来たれり。我は祈り、そして綴る、戦いの中で眠りについた者達の夢を”
「!?」

 響いたアゼルフスの思念に、デュランは動揺を隠せなかった。
 なぜなら、デュランは知っていたからだ。
 故郷が滅んだあの無念な戦いの中で、族長が響かせた言葉だったからだ。
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