Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
70 / 586
第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第二十五話 舞台に上がる怪物(3)

しおりを挟む
   ◆◆◆

 その夜――

 自室に戻ったディアナは何をするでも無く、椅子に座ったまま呆然としていた。
 その部屋は綺麗な牢獄であった。美しい壁紙と装飾品に彩られた貴族らしい部屋であったが、窓には鉄格子が付けられており、ドアには外から鍵がかけられていた。
 そしてそんな部屋を支配していた静寂は、突如ドアの向こうから聞こえてきた女性の声に破られた。

「失礼します」

 凛としたその声の後、鍵が解除される音が部屋に響き、一人の召使いが部屋に入ってきた。

「こんばんは、サラ」

 ディアナはその召使いの名を呼んだ。その顔は先ほどまでよりも僅かに穏やかになっているように見えた。
 これに召使いサラは丁寧な礼を返した後、口を開いた。

「そろそろお休みになられる時間ですが……何か御用はありませんでしょうか?」
「……特に無いわ。ありがとう」
「今日の夜の見回り当番は私なので、また御様子をうかがいに参ります。その時に何かあれば遠慮なく仰せつかって下さい」
「ええ、そうさせてもらうわ、サラ」

 召使いサラは再び主に礼をした後、部屋から出て行った。
 部屋が再び静寂に支配された後、ディアナは寝巻きに着替えてベッドに入った。
 照明は消す気になれなかった。船で見たあの老人が化けて出てくるのでは無いか、そんな妄想にディアナは怯えていた。
 ディアナは身を守るかのように布団を深くかぶり、目を閉じた。

   ◆◆◆

 深夜――

 召使いサラはランプを片手に、夜の見回りを行っていた。
 そしてディアナの部屋の前に到着したサラは、ドアに近寄りそっと聞き耳を立てた。
 中からは何も聞こえてはこなかった。次にサラは遠慮がちなノックをした。
 しかし、やはりドアからは何の反応も返ってこなかった。

(どうやら静かにお休みになられているようだわ)

 そう思ったサラはその場を離れようとした。
 だがサラはドアから数歩離れたところで足を止めた。
 振り返ったサラは再びドアの傍で聞き耳を立てた。
 サラの耳に入った音、それは呻き声であった。

「ディアナお嬢様?」

 返事は無かったが、その呻き声は徐々に大きく、はっきりしたものになっていった。

「! ディアナお嬢様?!」

 これに身を強張らせたサラは、ドアノブをにぎりつつ主人の名を呼んだ。
 そしてサラが扉を閉ざしている小さなかんぬきに手をかけた時、その呻き声は悲鳴に変わった。

「お嬢様!」

 サラは主の名を呼びながら部屋に飛び込んだ。
 部屋の主ディアナはベッドの上にいた。先の悲鳴と共に飛び起きたのだろう、ディアナは上半身だけを起こした体勢で呆然としていた。
 サラはそんなディアナの傍に駆け寄り、声をかけた。

「大丈夫ですか? ディアナお嬢様」

 見ると、ディアナは汗だくになっていた。相当な悪夢を見たのだろう。

「……このままでは風邪を引いてしまいます。着替えましょう」

 サラは着替えを取りに衣装棚のほうへ行こうとしたが、突如ディアナに服の裾を掴まれた為、その足を止めた。

「お嬢様?」

 サラはディアナの言葉を待った。しばらくしてディアナはゆっくりと口を開いた。

「……もう嫌、こんな生活」

 その言葉は悪夢とは何の関係も無かった。弱ったディアナはただその心に溜まった毒を吐き出そうとしているだけであった。

「父も、母も、この家も嫌い。私は自由が欲しい」

 その言葉を最後にディアナは口を閉ざしてしまった。召使いサラはそんな主人のそばに寄り添い、敬愛と忠心を示すことしかできなかった。

 ディアナ、彼女は「籠の鳥」であった。自由は無く、未来は父であるリチャードの手によって決められる、そんな境遇の悲しい女であった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...