84 / 586
第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第二十八話 迫る暴威(3)
しおりを挟む
◆◆◆
その後――
城に戻った一同は、アランとの再会に笑顔の華を咲かせた。
「いやー久しぶりだなあ、一年ぶりか? ……なんか、前にも同じことを言ったことがあるような気がするが」
何の照れ隠しか、ディーノが頭を掻きながらそう言うと、
「そうだな。また一年ぶりだ」
と、アランは薄い笑みで同意を示した。
リックと初めて戦ったあの日、刀を携えてこの地に戻ってきたあの日以来の、二度目の一年ぶりであった。
手を頭から離し、ディーノが尋ねる。
「それで、この一年どうしてたんだ?」
期待に目を輝かせるディーノに対し、アランは首を小さく振りながら答えた。
「ディーノが喜ぶような話は無いよ……毎日同じ机に座って、似たような書類を読んで、いつも通りのことをする。そんな同じことの繰り返すだけの日常だった」
その答えにディーノは表情を一瞬曇らせたが、すぐに元の笑顔を浮かべながら再び口を開いた。
「……そうか、そっちはそっちで大変だったみたいだな。まあ、こっちも毎日同じようなことばっかりだったぜ」
ディーノは笑顔を崩さなかったが、その口調は軽さを失っていた。
ディーノの無意識は察していた。アランが何をしに来たのかを。それは嫌な予感という形で意識に伝わっており、ゆえにディーノの口は重くなっていた。
そして、そんなディーノの重い口調を補うかのように、今度はアランが口を開いた。
「そういえば、クリス将軍から聞いたよ。隊長になったんだってな」
この言葉に、ディーノは目に見えてわかるほどの動揺を浮かべた。
「え、あ、ああ。まあな。自分なんかが隊長やって、大丈夫なのかって、不安しか無いんだけどな」
ディーノの弱気な発言に、アランは小さく首を振った。
「自信を持って大丈夫だと思うぞ。さっきの訓練、見させてもらったけど、マズいところは何も無かった」
これにディーノは照れ臭そうに頭を掻くだけであった。
その反応はアランにとって新鮮であった。こういう賞賛には慣れているものだと思い込んでいた。
そして、ディーノは照れ隠しをしたいのか、別の人間に話を振った。
「俺なんかよりもクラウスのおっさんの方がすごいぜ」
アランが部屋の壁際に立っているクラウスの方へ視線を向けると、ディーノは再び口を開いた。
「アラン、爆発する魔法を使う女のことを覚えているか?」
よく覚えている。いろんな意味で印象深い戦いだった。あの戦いで、俺は自身の能力をはっきりと自覚したのだから。
アランが頷きを返すのとほぼ同時に、ディーノは再び口を開いた。
「聞いて驚くなよ、なんと、クラウスはその爆発魔法を斬ったんだぜ!」
その言葉に、アランが驚きの表情を向けると、クラウスは首を振りながら口を開いた。
「あれはただのまぐれです。無我夢中でやったら出来た、それだけのことです」
謙遜するクラウスの態度を否定するかのように、ディーノは声を上げた。
「いやー、あれは本当に凄かったぜ。その時クラウスのおっさんはな、女が放った爆発する弾に向かって『だー』っと突っ込んで行ってな、こう、振り上げた剣を真下に振り下ろしたんだよ。そうしたら、弾がこう綺麗に『ぱか』ってな感じに真っ二つになったんだ」
身振り手振りを交えているにもかかわらずよくわからない説明であったが、なんとなく理解したアランはクラウスに尋ねた。
「あの爆発する弾を斬ったのか。よく無事だったな」
クラウスは一息分間を置いた後、その時のことを説明した。
「あの時は避けられなかったからそうするしか無かったのです。斬ったらその場で爆発するのではないかと私も思っていたのですが、そうではありませんでした」
「弾は爆発しなかったのか」
これにクラウスは頷きを返した。
「ええ。斬った断面から炎が激しく溢れ出た後、弾はそのまま消滅しました」
何故爆発しなかったのだろう。アランは考えたが、クラウスの次の言葉に思考を中断させられた。
「それに、すごいのは私では無く、この剣の方でございます」
そう言って、クラウスは腰に差していた刀を抜いた。
その刀身を場にいる皆に見せ付けるように、切っ先を真上に向ける。
クラウスは暫しの間そうした後、刀を鞘に納めながら尋ねた。
「それでアラン様、今日はどうしてここに?」
これにアランは体を硬くした。他人に気づかれないほどであったが。
遂にこの時が来た。別れを告げる時が。
どのように告げるか、それはもう決まっている。この瞬間を頭の中で何度も想像して練習した。
なのに口が重い。胸が、肺が締め付けられているような感じがする。
……ここで言わなくてはならないのだ。こんな機会は、きっと二度と訪れない。
そして、アランは意を決した。
「……実は、この後、俺は王の娘と結婚することになってるんだ」
この一言で場の空気が一変した。皆、アランが何を言おうとしているのかを察したのだ。
そしてその空気に気後れしたのか、アランは少しだけうつむきながら言葉を続けた。
「そうなると俺に自由は無くなる。こうして皆に会いに来る事は出来なくなるだろう」
場の空気がさらに重くなる。アランはそれを払うかのように顔を上げ、
「だから……今日は皆にお別れを言いに来たんだ」
はっきりと、そう告げた。
場の空気がさらに重くなる。
そんな中、ただ一人、クラウスだけが口を開いた。
「……そうですか。寂しくなりますが、これも時代の流れによるものなのでしょう」
そう言って、クラウスはやや深めに礼をしながら再び口を開いた。
「このクラウス、アラン様のますますのご清栄とご活躍をお祈りしています」
型にはまった言い回しであったが、丁寧な別れの返事であった。
その後――
城に戻った一同は、アランとの再会に笑顔の華を咲かせた。
「いやー久しぶりだなあ、一年ぶりか? ……なんか、前にも同じことを言ったことがあるような気がするが」
何の照れ隠しか、ディーノが頭を掻きながらそう言うと、
「そうだな。また一年ぶりだ」
と、アランは薄い笑みで同意を示した。
リックと初めて戦ったあの日、刀を携えてこの地に戻ってきたあの日以来の、二度目の一年ぶりであった。
手を頭から離し、ディーノが尋ねる。
「それで、この一年どうしてたんだ?」
期待に目を輝かせるディーノに対し、アランは首を小さく振りながら答えた。
「ディーノが喜ぶような話は無いよ……毎日同じ机に座って、似たような書類を読んで、いつも通りのことをする。そんな同じことの繰り返すだけの日常だった」
その答えにディーノは表情を一瞬曇らせたが、すぐに元の笑顔を浮かべながら再び口を開いた。
「……そうか、そっちはそっちで大変だったみたいだな。まあ、こっちも毎日同じようなことばっかりだったぜ」
ディーノは笑顔を崩さなかったが、その口調は軽さを失っていた。
ディーノの無意識は察していた。アランが何をしに来たのかを。それは嫌な予感という形で意識に伝わっており、ゆえにディーノの口は重くなっていた。
そして、そんなディーノの重い口調を補うかのように、今度はアランが口を開いた。
「そういえば、クリス将軍から聞いたよ。隊長になったんだってな」
この言葉に、ディーノは目に見えてわかるほどの動揺を浮かべた。
「え、あ、ああ。まあな。自分なんかが隊長やって、大丈夫なのかって、不安しか無いんだけどな」
ディーノの弱気な発言に、アランは小さく首を振った。
「自信を持って大丈夫だと思うぞ。さっきの訓練、見させてもらったけど、マズいところは何も無かった」
これにディーノは照れ臭そうに頭を掻くだけであった。
その反応はアランにとって新鮮であった。こういう賞賛には慣れているものだと思い込んでいた。
そして、ディーノは照れ隠しをしたいのか、別の人間に話を振った。
「俺なんかよりもクラウスのおっさんの方がすごいぜ」
アランが部屋の壁際に立っているクラウスの方へ視線を向けると、ディーノは再び口を開いた。
「アラン、爆発する魔法を使う女のことを覚えているか?」
よく覚えている。いろんな意味で印象深い戦いだった。あの戦いで、俺は自身の能力をはっきりと自覚したのだから。
アランが頷きを返すのとほぼ同時に、ディーノは再び口を開いた。
「聞いて驚くなよ、なんと、クラウスはその爆発魔法を斬ったんだぜ!」
その言葉に、アランが驚きの表情を向けると、クラウスは首を振りながら口を開いた。
「あれはただのまぐれです。無我夢中でやったら出来た、それだけのことです」
謙遜するクラウスの態度を否定するかのように、ディーノは声を上げた。
「いやー、あれは本当に凄かったぜ。その時クラウスのおっさんはな、女が放った爆発する弾に向かって『だー』っと突っ込んで行ってな、こう、振り上げた剣を真下に振り下ろしたんだよ。そうしたら、弾がこう綺麗に『ぱか』ってな感じに真っ二つになったんだ」
身振り手振りを交えているにもかかわらずよくわからない説明であったが、なんとなく理解したアランはクラウスに尋ねた。
「あの爆発する弾を斬ったのか。よく無事だったな」
クラウスは一息分間を置いた後、その時のことを説明した。
「あの時は避けられなかったからそうするしか無かったのです。斬ったらその場で爆発するのではないかと私も思っていたのですが、そうではありませんでした」
「弾は爆発しなかったのか」
これにクラウスは頷きを返した。
「ええ。斬った断面から炎が激しく溢れ出た後、弾はそのまま消滅しました」
何故爆発しなかったのだろう。アランは考えたが、クラウスの次の言葉に思考を中断させられた。
「それに、すごいのは私では無く、この剣の方でございます」
そう言って、クラウスは腰に差していた刀を抜いた。
その刀身を場にいる皆に見せ付けるように、切っ先を真上に向ける。
クラウスは暫しの間そうした後、刀を鞘に納めながら尋ねた。
「それでアラン様、今日はどうしてここに?」
これにアランは体を硬くした。他人に気づかれないほどであったが。
遂にこの時が来た。別れを告げる時が。
どのように告げるか、それはもう決まっている。この瞬間を頭の中で何度も想像して練習した。
なのに口が重い。胸が、肺が締め付けられているような感じがする。
……ここで言わなくてはならないのだ。こんな機会は、きっと二度と訪れない。
そして、アランは意を決した。
「……実は、この後、俺は王の娘と結婚することになってるんだ」
この一言で場の空気が一変した。皆、アランが何を言おうとしているのかを察したのだ。
そしてその空気に気後れしたのか、アランは少しだけうつむきながら言葉を続けた。
「そうなると俺に自由は無くなる。こうして皆に会いに来る事は出来なくなるだろう」
場の空気がさらに重くなる。アランはそれを払うかのように顔を上げ、
「だから……今日は皆にお別れを言いに来たんだ」
はっきりと、そう告げた。
場の空気がさらに重くなる。
そんな中、ただ一人、クラウスだけが口を開いた。
「……そうですか。寂しくなりますが、これも時代の流れによるものなのでしょう」
そう言って、クラウスはやや深めに礼をしながら再び口を開いた。
「このクラウス、アラン様のますますのご清栄とご活躍をお祈りしています」
型にはまった言い回しであったが、丁寧な別れの返事であった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】
しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。
歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。
【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】
※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。
※重複投稿しています。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614
小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる