232 / 586
第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十九話 二刀一心 三位一体(13)
しおりを挟む
◆◆◆
一方その頃――
「……」
アンナは眠れないでいた。
傷が痛むからでは無い。野営用の寝具の心地が悪いせいでも無い。
なぜだか、アンナは焦っていた。
何かしなければならない、何かを始めなければならない――そんな脅迫観念のようなものがアンナの心を支配していた。
「……っ」
アンナはその心に突き動かされるまま、痛む体を引きずって兵舎の外へ出た。
◆◆◆
そしてアンナは当てもなく外を歩いた。
当ては無い、そのはずであったが、足は自然と動いた。
そして野営地から少し離れたある場所で、アンナはそれを遠くに見つけた。
「……」
一目でアンナは心を奪われた。
アンナの瞳に映り込んだのは素振りをするディーノの姿。
それはアンナが知っているディーノの動きでは無かった。
リックの魂が乗り移ったかのような動き。
いや、吸収したと表現したほうが正しい。
あの速さに重さと豪快さを付け加えたような動きだ。
荒っぽい動きであるが闇雲に振り回しているわけでは無い、自然とそれが分かるゆえに、いつまでも見ていたい、そんな芸術性をディーノの動きは備えていた。
自然とアンナの足が前に出る。
もっと近くで見たいと思ったからだ。
しかしその芸術は間も無く終わってしまった。
観客の接近にディーノが気付いたからだ。
そしてディーノはその小さな客に向かって口を開いた。
「どうした? 散歩かい、お嬢様?」
「……」
ディーノの挨拶にアンナは答えなかったが、
「……ディーノ様、……どうして、そんなに速く動けるのですか? その動きはどうやっているのですか?」
尋ねてから、アンナは自分の言動があまりに急で不躾であると気付いた。
が、ディーノはそれを気にせず、
「いいぜ、教えてやるよ」
と、軽く答えた。
これにアンナは意外そうな顔をしたが、ディーノはアンナにならタダで教えてもいいと本気で思っていた。
アンナもこれを使えるようになれば、それほど頼もしいことはないと考えたからだ。
しかしアンナが意外そうな顔を返したため、代わりに何か適当な質問をディーノはすることにした。
「代わりに、俺も一つ教えてほしいことがある。答えてくれるか?」
これにアンナは力強い頷きを返したのだが――
――
問われたアンナは思わず自分の手を見つめた。
少し呆けたような表情で。
なぜ今まで疑問に思わなかったのか、それは、ディーノが尋ねたことは、それに気付けなかった自身が愚かに思えるほどの事実であった。
そして、アンナのその様子から察したディーノは口を開いた。
「……嬢ちゃんにも分からないのか。まあいいさ、俺のこの速さについてはちゃんと教えてやるよ」
これに、アンナは素直に目を輝かせながら礼を言った。
ディーノがアンナにした質問、それはかつてリックが抱いた「魔法使いと無能力者の差」の答えに通ずるものだ。
あの時、リックは「魔力を外に出せるか出せないか」が答えだと考えた。
残念ながらそれは間違いである。少し遠い。
この世界には一つ、当たり前のように行われているおかしなことがある。読者の皆様もうんざりするほど見てきたものだ。
そして、無能力者達の体がそうなっているのは、彼らの遺伝子が、魂が、これこそ最強へ通ずる道であると信じているからだ。
一方その頃――
「……」
アンナは眠れないでいた。
傷が痛むからでは無い。野営用の寝具の心地が悪いせいでも無い。
なぜだか、アンナは焦っていた。
何かしなければならない、何かを始めなければならない――そんな脅迫観念のようなものがアンナの心を支配していた。
「……っ」
アンナはその心に突き動かされるまま、痛む体を引きずって兵舎の外へ出た。
◆◆◆
そしてアンナは当てもなく外を歩いた。
当ては無い、そのはずであったが、足は自然と動いた。
そして野営地から少し離れたある場所で、アンナはそれを遠くに見つけた。
「……」
一目でアンナは心を奪われた。
アンナの瞳に映り込んだのは素振りをするディーノの姿。
それはアンナが知っているディーノの動きでは無かった。
リックの魂が乗り移ったかのような動き。
いや、吸収したと表現したほうが正しい。
あの速さに重さと豪快さを付け加えたような動きだ。
荒っぽい動きであるが闇雲に振り回しているわけでは無い、自然とそれが分かるゆえに、いつまでも見ていたい、そんな芸術性をディーノの動きは備えていた。
自然とアンナの足が前に出る。
もっと近くで見たいと思ったからだ。
しかしその芸術は間も無く終わってしまった。
観客の接近にディーノが気付いたからだ。
そしてディーノはその小さな客に向かって口を開いた。
「どうした? 散歩かい、お嬢様?」
「……」
ディーノの挨拶にアンナは答えなかったが、
「……ディーノ様、……どうして、そんなに速く動けるのですか? その動きはどうやっているのですか?」
尋ねてから、アンナは自分の言動があまりに急で不躾であると気付いた。
が、ディーノはそれを気にせず、
「いいぜ、教えてやるよ」
と、軽く答えた。
これにアンナは意外そうな顔をしたが、ディーノはアンナにならタダで教えてもいいと本気で思っていた。
アンナもこれを使えるようになれば、それほど頼もしいことはないと考えたからだ。
しかしアンナが意外そうな顔を返したため、代わりに何か適当な質問をディーノはすることにした。
「代わりに、俺も一つ教えてほしいことがある。答えてくれるか?」
これにアンナは力強い頷きを返したのだが――
――
問われたアンナは思わず自分の手を見つめた。
少し呆けたような表情で。
なぜ今まで疑問に思わなかったのか、それは、ディーノが尋ねたことは、それに気付けなかった自身が愚かに思えるほどの事実であった。
そして、アンナのその様子から察したディーノは口を開いた。
「……嬢ちゃんにも分からないのか。まあいいさ、俺のこの速さについてはちゃんと教えてやるよ」
これに、アンナは素直に目を輝かせながら礼を言った。
ディーノがアンナにした質問、それはかつてリックが抱いた「魔法使いと無能力者の差」の答えに通ずるものだ。
あの時、リックは「魔力を外に出せるか出せないか」が答えだと考えた。
残念ながらそれは間違いである。少し遠い。
この世界には一つ、当たり前のように行われているおかしなことがある。読者の皆様もうんざりするほど見てきたものだ。
そして、無能力者達の体がそうなっているのは、彼らの遺伝子が、魂が、これこそ最強へ通ずる道であると信じているからだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる