360 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十四話 再戦(17)
しおりを挟む◆◆◆
その後、女は前線から一時離脱した。
治療と内臓の休息のためだ。
斬られた脇腹を度数の高い酒で消毒、縫合し、包帯で固定する。
次は左手。折れた指を伸ばし、添え木と包帯で傷めた手首ごと固定する。
そうして応急手当を終えた頃、
「酷くやられたようだな」
いけすかない者の、デズモンドの声が背後から響いた。
「……」
だが、女は返事をしないどころか、振り返ることすらしなかった。
しかしデズモンドは言葉を続けた。
「お前にしては珍しいな。今日は調子が悪いのか?」
デズモンドは言葉をぶつけながら、女の反応を、心を窺っていた。
なんでもいいから弱みを探しているのだ。
「……」
しかしやはり女は答えない。
女は感知を巡らせ、戦況を見ていた。
味方が押し込まれ始めているように見える。
が、
(……良し)
その様子に女は心の中で頷いた。
これでいいのだ。目的は城にいる兵士を釣り出すことなのだから。
急に押し込まれ始めたのは、最前列への援護が止まったからだ。
味方の隊形は三列。
最前列にいるのは女のように姿を堂々と晒して交戦する者達。
そして二列目がそれを支援する。
しかし二列目の役目はそれだけでは無い。
城への侵入、そしてアランの無力化、それが二列目の真の役割。
二列目の者達はそのための準備を始めている。だから最前列への援護が止まった。
最後まで支援のみに徹するのは三列目の者達だけだ。
感知を使って情報を集め、前列の連中に送ることが役割だ。
デズモンドの所属はそこである。
しかしデズモンドはわざわざ小言を言うために持ち場を離れた。
そう、わざわざだ。
だから、女は振り返らない。
笑みを堪えているからだ。
だってそうだろう?
嫌味を言うために、わざわざ■■されにきてくれたのだから。
「……何?」
そして、その心の文面を読み取ったデズモンドは、思わず尋ね返した。
「……」
女はやはり答えない。
だからデズモンドはもう一度確認した。
しかし間違いは無かった。
自然とデズモンドの足が下がる。
いつからか、口は半開きになっていた。
「本気か?」と尋ねようとした名残だ。
その質問に意味が無いことは明らかであった。
だからデズモンドは別の言葉を紡ごうとした。
「待……」
しかしその言葉が完成することは無かった。
「……ご、がふっ!」
代わりに、口から吐き出されたのは大量の鮮血。
胸に女の右手が、輝く貫手が深々と突き刺さっている。
抜こうと、光る槍を両手で掴む。
しかしびくともしない。
簡単に抜けないように、女がデズモンドの体内で手を広げ始めたからだ。
内臓を内部から破り広げられる音が頭の中に響き渡る。
「ぐ、が、ああああぁ!」
激痛にデズモンドはもがいた。
その叫び声は今の女には慰めにならなかった。
だから女は終わらせようと思った。
右手の中に光の弾を作り始める。
すると、女の心に声が響いた。
(やめてくれ)と。
もうこの傷ではどうやっても助からないのに、デズモンドはそう懇願した。
この言葉は女にとって快感であった。
だから女は、
「……ふふ」
小さな笑みだけを返し、球を爆発させた。
「ぁぎゃ!」
奇妙な悲鳴とともに、赤い華が広がる。
包まれ、同じ色に染まる女の体。
生暖かく、そして艶かしい。
瞬間、女の心に後悔の感覚が芽生えた。
体が汚れたことに対してでは無い。
もっと時間をかけた方が良かったかもしれないと思ったからだ。
「「「……っ!」」」
そして間も無く、数多くのざわめきが女の心に響き始めた。
この凶行に動揺した仲間達の心の声だ。
「……ふ」
再び、女の口尻から笑みが漏れる。
「仲間」と表現した自身に対しての笑みだ。
正確には「道具」だろう、女はそう思った。
お前達との付き合いはこれが最後になるのだから。
だから好きなようにやらせてもらう。
「道具」らしく、好きなように使わせてもらう。
女はその心を隠さぬまま、二列目に控える者達に向かって命令した。
「行くぞ」と。
第四十五話 伝説との邂逅 に続く
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる