Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
362 / 586
第六章 アランの力は遂に一つの頂点に

第四十五話 伝説との邂逅(2)

しおりを挟む
   ◆◆◆

「「「……」」」

 玉座の間は静かであった。
 耳が痛いほどに。
 しかし対照的に、

(((――っ!)))

 心の声は騒がしかった。
 頭が痛むほどに。
 その喧騒とは裏腹に、入り口から人影は見えない。
 玉座にも主であるカルロの姿は無い。
 その玉座は大きく、そして無骨であった。
 そして同時に不自然でもあった。
 椅子としては作りが奇妙なのだ。
 腕を置く肘掛の高さが異常に低いのだ。
 誰が見ても不便だと分かるほどに。
 それは戦いのための設計であった。
 奇襲を受けた際、素早く椅子の裏に身を隠すためだ。
 ゆえに厚みがあり無骨。光弾から身を守るための遮蔽物として作られているのだ。

「……」

 主であるカルロはその無骨な盾の後ろで息を殺していた。
 他の者達も同様。柱の影、上階部分の手すりの裏などに身を隠していた。
 皆、敵の動きを、共感から得られる情報を追い続けていた。
 しかしその中でただ二人、アランとクラウスだけが少し違うことを考えていた。
 ここにいていいのだろうか、と。
 これまでの激戦が二人の戦いの常識を変えていた。
 ゆえに、この二人だけがルイスからの誘導の影響を受けていた。
 しかしその天秤は拮抗していた。
 ゆえに二人は大きな声を上げることが出来なかった。
 それほどまでにカルロへの信頼感というものは大きいものであった。

「「「……」」」

 静寂が続く。
 兵士達の何人かが、その静けさに息苦しさを覚え始めた頃、

「撃って来るぞ!」

 誰かが、そう叫んだ。
 その声が玉座の間一杯に響き渡り、再び静寂が戻りかけた瞬間、

「!」

 全ての窓が一斉に割れる音が全員の耳を打った。
 色鮮やかなステンドグラスの破片が室内に降り注ぎ、枠だけになった窓から光弾が次々と飛び込んで来る。

「反撃しろ!」

 そして間も無く再び響いた誰かの声に、上階にいる兵士達が応した。
 窓の横の壁に張り付き、反撃の光弾を放つ。
 敵の数はそれほど多くは無かった。
 そして遠い。それだけの情報からだけでも、敵がまだ本気で攻めてくるつもりは無いことは明らかであった。
 この玉座の間は位置的には三階に存在する。
 天井は高く、四階のそれに相当し、幅もそれに合わせて広い。
 しかし四階から繋がる入り口は無く、扉は三階にしか無い。逆に窓は四階部分にあたる上階にしか無いため、昼間でも薄暗い。
 そしてその上階には壁に添った狭い通路しか無く、玉座の間を上から広く見渡せるようになっている。狙撃主を配置するための構造だ。
 扉から侵入されても即座に蜂の巣に出来るようになっている。また、この部屋には燃えるものが少なく、炎使いが存分に力を振るえるようにもなっている。
 正面からの攻撃に対しての防御が最も強固になるような作りになっているのだ。
 ならば窓から、と考えるのが普通だが、これも現実的では無い。
 この窓の外に足場は無い。三階の床にあたる高さまで厚く掴みどころの無い壁がそそり立っているだけだ。
 玉座の間の周囲には土が盛られ、ちょっとした中庭のようになっている。
 別の屋根からは少し距離がある。ゆえに、窓から直接玉座を狙える射線は存在せず、侵入しようとするならば梯子などの道具を使うしか無い。
 しかしそれはあくまで、「普通の人間」相手の話である。
 人間離れした跳躍力を持つ者を考慮した設計では無い。今のリックやクレアでも、壁を蹴って足場とすることで届くだろう。
 それが分かっているゆえに、場にいる全員が窓に対して注意を払っていた。
 しかし直後、

(ん? 今のは……)

 アランが窓から意識の線を逸らした。
 少し離れたところに、妙な気配を感じたからだ。

「……」

 が、アランがその場所に意識を集中させる頃には、その気配は消えていた。
 それは人間味が薄く、まるで虫の集合のようであった。
 ゆえに、

「……」

 気にはなったが、アランは意識の線を元に場所に戻すことにした。

   ◆◆◆

「危ない、危ない」

 直後、女は思わずそう声を漏らした。
 以前よりもアランの感知が強力に、魂が発する波をより広範囲で感知出来るようになっている。
 念のために複眼だけで動いていて正解だった。
 しかし言い換えれば、複眼であればまだ認識され難いということ。
 幸運に安堵しながら距離を取り直す。

「……さて、」

 そして女は思考を巡らせるために本体である脳内の魂の活動を再開させた。
 味方が玉座の間を攻撃しているのを感じる。
 その様子に、女は、

「……思ったよりも頼りにならないわね」

 率直な感想を漏らした。
 女の味方である影達の狙い、それは窓枠の破壊であった。
 侵入口そのものを広げ、増やそうとしているのだ。
 これは女が提案したことであった。
 強固なところに篭られるのであれば、その篭り場所そのものを破壊してしまえばいい。
 しかし経過は芳しくない。
 威力が足りない。遠すぎるのだ。影達は警戒しすぎている。
 これではいつになったら破壊出来るのか。とても待てるものでは無い。
 だが幸いなことに今回は『これ』がある。
『これ』ならば、炎使いが狭いところにいようとも関係無い。
 この手を前回の時に思いついていれば良かったのだが。『これ』ほど高性能なもので無くてもいい。あの場で手に入ったものでも代用出来ただろう。
 存外、自分は機転が利かないようだ。

「……ふふ」

 女はそんな自分を自虐的に笑った後、

「じゃあ……準備を始めることにするか」

 行動を開始した。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...