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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十五話 伝説との邂逅(2)
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◆◆◆
「「「……」」」
玉座の間は静かであった。
耳が痛いほどに。
しかし対照的に、
(((――っ!)))
心の声は騒がしかった。
頭が痛むほどに。
その喧騒とは裏腹に、入り口から人影は見えない。
玉座にも主であるカルロの姿は無い。
その玉座は大きく、そして無骨であった。
そして同時に不自然でもあった。
椅子としては作りが奇妙なのだ。
腕を置く肘掛の高さが異常に低いのだ。
誰が見ても不便だと分かるほどに。
それは戦いのための設計であった。
奇襲を受けた際、素早く椅子の裏に身を隠すためだ。
ゆえに厚みがあり無骨。光弾から身を守るための遮蔽物として作られているのだ。
「……」
主であるカルロはその無骨な盾の後ろで息を殺していた。
他の者達も同様。柱の影、上階部分の手すりの裏などに身を隠していた。
皆、敵の動きを、共感から得られる情報を追い続けていた。
しかしその中でただ二人、アランとクラウスだけが少し違うことを考えていた。
ここにいていいのだろうか、と。
これまでの激戦が二人の戦いの常識を変えていた。
ゆえに、この二人だけがルイスからの誘導の影響を受けていた。
しかしその天秤は拮抗していた。
ゆえに二人は大きな声を上げることが出来なかった。
それほどまでにカルロへの信頼感というものは大きいものであった。
「「「……」」」
静寂が続く。
兵士達の何人かが、その静けさに息苦しさを覚え始めた頃、
「撃って来るぞ!」
誰かが、そう叫んだ。
その声が玉座の間一杯に響き渡り、再び静寂が戻りかけた瞬間、
「!」
全ての窓が一斉に割れる音が全員の耳を打った。
色鮮やかなステンドグラスの破片が室内に降り注ぎ、枠だけになった窓から光弾が次々と飛び込んで来る。
「反撃しろ!」
そして間も無く再び響いた誰かの声に、上階にいる兵士達が応した。
窓の横の壁に張り付き、反撃の光弾を放つ。
敵の数はそれほど多くは無かった。
そして遠い。それだけの情報からだけでも、敵がまだ本気で攻めてくるつもりは無いことは明らかであった。
この玉座の間は位置的には三階に存在する。
天井は高く、四階のそれに相当し、幅もそれに合わせて広い。
しかし四階から繋がる入り口は無く、扉は三階にしか無い。逆に窓は四階部分にあたる上階にしか無いため、昼間でも薄暗い。
そしてその上階には壁に添った狭い通路しか無く、玉座の間を上から広く見渡せるようになっている。狙撃主を配置するための構造だ。
扉から侵入されても即座に蜂の巣に出来るようになっている。また、この部屋には燃えるものが少なく、炎使いが存分に力を振るえるようにもなっている。
正面からの攻撃に対しての防御が最も強固になるような作りになっているのだ。
ならば窓から、と考えるのが普通だが、これも現実的では無い。
この窓の外に足場は無い。三階の床にあたる高さまで厚く掴みどころの無い壁がそそり立っているだけだ。
玉座の間の周囲には土が盛られ、ちょっとした中庭のようになっている。
別の屋根からは少し距離がある。ゆえに、窓から直接玉座を狙える射線は存在せず、侵入しようとするならば梯子などの道具を使うしか無い。
しかしそれはあくまで、「普通の人間」相手の話である。
人間離れした跳躍力を持つ者を考慮した設計では無い。今のリックやクレアでも、壁を蹴って足場とすることで届くだろう。
それが分かっているゆえに、場にいる全員が窓に対して注意を払っていた。
しかし直後、
(ん? 今のは……)
アランが窓から意識の線を逸らした。
少し離れたところに、妙な気配を感じたからだ。
「……」
が、アランがその場所に意識を集中させる頃には、その気配は消えていた。
それは人間味が薄く、まるで虫の集合のようであった。
ゆえに、
「……」
気にはなったが、アランは意識の線を元に場所に戻すことにした。
◆◆◆
「危ない、危ない」
直後、女は思わずそう声を漏らした。
以前よりもアランの感知が強力に、魂が発する波をより広範囲で感知出来るようになっている。
念のために複眼だけで動いていて正解だった。
しかし言い換えれば、複眼であればまだ認識され難いということ。
幸運に安堵しながら距離を取り直す。
「……さて、」
そして女は思考を巡らせるために本体である脳内の魂の活動を再開させた。
味方が玉座の間を攻撃しているのを感じる。
その様子に、女は、
「……思ったよりも頼りにならないわね」
率直な感想を漏らした。
女の味方である影達の狙い、それは窓枠の破壊であった。
侵入口そのものを広げ、増やそうとしているのだ。
これは女が提案したことであった。
強固なところに篭られるのであれば、その篭り場所そのものを破壊してしまえばいい。
しかし経過は芳しくない。
威力が足りない。遠すぎるのだ。影達は警戒しすぎている。
これではいつになったら破壊出来るのか。とても待てるものでは無い。
だが幸いなことに今回は『これ』がある。
『これ』ならば、炎使いが狭いところにいようとも関係無い。
この手を前回の時に思いついていれば良かったのだが。『これ』ほど高性能なもので無くてもいい。あの場で手に入ったものでも代用出来ただろう。
存外、自分は機転が利かないようだ。
「……ふふ」
女はそんな自分を自虐的に笑った後、
「じゃあ……準備を始めることにするか」
行動を開始した。
「「「……」」」
玉座の間は静かであった。
耳が痛いほどに。
しかし対照的に、
(((――っ!)))
心の声は騒がしかった。
頭が痛むほどに。
その喧騒とは裏腹に、入り口から人影は見えない。
玉座にも主であるカルロの姿は無い。
その玉座は大きく、そして無骨であった。
そして同時に不自然でもあった。
椅子としては作りが奇妙なのだ。
腕を置く肘掛の高さが異常に低いのだ。
誰が見ても不便だと分かるほどに。
それは戦いのための設計であった。
奇襲を受けた際、素早く椅子の裏に身を隠すためだ。
ゆえに厚みがあり無骨。光弾から身を守るための遮蔽物として作られているのだ。
「……」
主であるカルロはその無骨な盾の後ろで息を殺していた。
他の者達も同様。柱の影、上階部分の手すりの裏などに身を隠していた。
皆、敵の動きを、共感から得られる情報を追い続けていた。
しかしその中でただ二人、アランとクラウスだけが少し違うことを考えていた。
ここにいていいのだろうか、と。
これまでの激戦が二人の戦いの常識を変えていた。
ゆえに、この二人だけがルイスからの誘導の影響を受けていた。
しかしその天秤は拮抗していた。
ゆえに二人は大きな声を上げることが出来なかった。
それほどまでにカルロへの信頼感というものは大きいものであった。
「「「……」」」
静寂が続く。
兵士達の何人かが、その静けさに息苦しさを覚え始めた頃、
「撃って来るぞ!」
誰かが、そう叫んだ。
その声が玉座の間一杯に響き渡り、再び静寂が戻りかけた瞬間、
「!」
全ての窓が一斉に割れる音が全員の耳を打った。
色鮮やかなステンドグラスの破片が室内に降り注ぎ、枠だけになった窓から光弾が次々と飛び込んで来る。
「反撃しろ!」
そして間も無く再び響いた誰かの声に、上階にいる兵士達が応した。
窓の横の壁に張り付き、反撃の光弾を放つ。
敵の数はそれほど多くは無かった。
そして遠い。それだけの情報からだけでも、敵がまだ本気で攻めてくるつもりは無いことは明らかであった。
この玉座の間は位置的には三階に存在する。
天井は高く、四階のそれに相当し、幅もそれに合わせて広い。
しかし四階から繋がる入り口は無く、扉は三階にしか無い。逆に窓は四階部分にあたる上階にしか無いため、昼間でも薄暗い。
そしてその上階には壁に添った狭い通路しか無く、玉座の間を上から広く見渡せるようになっている。狙撃主を配置するための構造だ。
扉から侵入されても即座に蜂の巣に出来るようになっている。また、この部屋には燃えるものが少なく、炎使いが存分に力を振るえるようにもなっている。
正面からの攻撃に対しての防御が最も強固になるような作りになっているのだ。
ならば窓から、と考えるのが普通だが、これも現実的では無い。
この窓の外に足場は無い。三階の床にあたる高さまで厚く掴みどころの無い壁がそそり立っているだけだ。
玉座の間の周囲には土が盛られ、ちょっとした中庭のようになっている。
別の屋根からは少し距離がある。ゆえに、窓から直接玉座を狙える射線は存在せず、侵入しようとするならば梯子などの道具を使うしか無い。
しかしそれはあくまで、「普通の人間」相手の話である。
人間離れした跳躍力を持つ者を考慮した設計では無い。今のリックやクレアでも、壁を蹴って足場とすることで届くだろう。
それが分かっているゆえに、場にいる全員が窓に対して注意を払っていた。
しかし直後、
(ん? 今のは……)
アランが窓から意識の線を逸らした。
少し離れたところに、妙な気配を感じたからだ。
「……」
が、アランがその場所に意識を集中させる頃には、その気配は消えていた。
それは人間味が薄く、まるで虫の集合のようであった。
ゆえに、
「……」
気にはなったが、アランは意識の線を元に場所に戻すことにした。
◆◆◆
「危ない、危ない」
直後、女は思わずそう声を漏らした。
以前よりもアランの感知が強力に、魂が発する波をより広範囲で感知出来るようになっている。
念のために複眼だけで動いていて正解だった。
しかし言い換えれば、複眼であればまだ認識され難いということ。
幸運に安堵しながら距離を取り直す。
「……さて、」
そして女は思考を巡らせるために本体である脳内の魂の活動を再開させた。
味方が玉座の間を攻撃しているのを感じる。
その様子に、女は、
「……思ったよりも頼りにならないわね」
率直な感想を漏らした。
女の味方である影達の狙い、それは窓枠の破壊であった。
侵入口そのものを広げ、増やそうとしているのだ。
これは女が提案したことであった。
強固なところに篭られるのであれば、その篭り場所そのものを破壊してしまえばいい。
しかし経過は芳しくない。
威力が足りない。遠すぎるのだ。影達は警戒しすぎている。
これではいつになったら破壊出来るのか。とても待てるものでは無い。
だが幸いなことに今回は『これ』がある。
『これ』ならば、炎使いが狭いところにいようとも関係無い。
この手を前回の時に思いついていれば良かったのだが。『これ』ほど高性能なもので無くてもいい。あの場で手に入ったものでも代用出来ただろう。
存外、自分は機転が利かないようだ。
「……ふふ」
女はそんな自分を自虐的に笑った後、
「じゃあ……準備を始めることにするか」
行動を開始した。
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