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最終章
第五十三話 己が鏡と共に(12)
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夜――
「そっちはどうだった?」
ルイスは雲水に尋ねた。
これに雲水は、
「お前もこっちの会話を聞いていたんだから言うまでも無いだろう」
という前置きの後、答えるまでも無い答えを返した。
「特に問題は無かった。お前の調整とやらは随分深いところまでいじれるようだな」
が、直後、雲水は「だが、」と言葉を続けた。
「試しに写してみて思ったんだが……あの女、かなり弱くなっているのでは?」
これにルイスは「ああ」と頷きを返し、口を開いた。
「その通りだ。魔力だけでなく思考速度などの精神面も以前より弱い。単純に良い素体が見つからなかったからそうなってしまった」
瞬間、雲水は、
「それは半分嘘だな」
と、ルイスの言葉を看破し、真実を述べた。
「元から強く作る予定は無かった、だろう?」
これにもルイスは「ああ」と即答し、薄い笑みと共に口を開いた。
「やはり君相手に隠し事は難しいようだな」
そしてルイスは自ら真実の続きを述べた。
「その通りだ。今回の調整はかなり大掛かりなものだ。そして私は常に完璧な仕事が出来るなどと自惚れてはいない。以前のシャロンのような強者にもしも反抗されたら、対処のしようが無くなる可能性があるからな。だから『最初は』弱くつくることにした」
いまのシャロンは『試作品のようなもの』であった。
そしてルイスは「それだけではない」と言葉を続けた。
「一騎当千、そんなものを私は求めていない。そういう時代を終わらせようと思っているのだからな」
まるでシャロンが自分の私物であるかのような言い方だな、雲水はそう思ったがそれは言葉にはしなかった。
だから雲水はもう一つの不安要素について尋ねることにした。
「……サイラスはどうする? シャロンに悪影響が出る可能性があることは否定できまい」
そして雲水はその前提の上でもっとも重要なことをルイスに尋ねた。
「そんな彼女を今のまま『代表』にすえて大丈夫なのか?」
これにルイスは「問題無い」と答え、その理由を述べた。
「不安要素は確かにある。だがそれは誰でも同じことだろう。私を含めて、完璧なやつはいない。ならば矢面に立たせるのはやはりシャロンが適任だ。彼女にはこの地域の求心力があるだけで無く、同時に恐怖の象徴でもあるのだからな」
しかし直後、ルイスは一つ付け加えた。
「あくまでも、『今は』問題無いというだけだがね」
それを聞いた雲水は「やはりな」というような表情で口を開いた。
「ならばこっちの独断で監視をつけてもかまわないな?」
これにルイスは頷きと共に即答した。
「ああ、もちろんだ。もとから君にそれを頼むつもりだったからね」
だからルイスは頼りになる雲水の到着を待ったのだ。
しかし、ルイスは念のため釘を刺すことにした。
「……言うまでも無いことだが、彼女にばれないようにやってくれよ?」
雲水は小さな笑みと共に答えた。
「安心しろ。近くでの監視は俺だけが担当するつもりだ」
それを聞いたルイスは「それは頼もしいことだ」と、同じ笑みを返した。
ルイスは一つ話していないことがあった。
例えこの計画が、シャロンが失敗したとしても問題無い、ルイスはそう考えていた。
なぜならば重要なのは人では無く、武器だからだ。
既に賽は投げられた。ルイスはそう思っていた。
既に設計図は和の国にあり、生産も始まっている。世界を変える武器が各地にばらまかれ始めている。
だから我々が失敗したとしても問題無い。どこかの誰かがその武器を手に我等の仕事を引き継いでくれるのだから。ルイスはそう考えていた。
そして「賽を投げた」とあるように、これからの戦いの結末までルイスは描いていない。
最後に立っているものが、勝者がなにものであろうとも問題無い。ルイスはそう考えていた。
第五十四話 魔王上陸 に続く
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