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最終章
第五十九話 あの男(7)
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ヴィクトルが軍隊を連れて移動し始めたという話は、すぐにシャロン達の耳に届いた。
「待ち望んでいた好機ね」
応接間を兼ねた会議室でシャロンがそう確認するように声を響かせると、対面にいるサイラスが頷きながら口を開いた。
「麻薬組織にちょっかいを出しながら、船を置いている南の港を目指して移動しているようだ」
そしてサイラスは届いたばかりの情報を続けて報告した。
「兵数は前回よりも少ないが、それでも三万ほど集めたようだ。しかしこれは――」
その言葉の続きは既に頭の中にあったがゆえに、シャロンは割り込むように声を響かせた。
「それは国内に配備されている守備兵をかき集めて構成されている、でしょう?」
これにサイラスは再び頷きを返した。
ゆえにシャロンは言葉を続けた。
「魔王の周辺は手薄になっている。事を起こすなら今をおいて他に無い、ということね」
言いながら、シャロンの脳裏に一つの懸念がよぎった。
(オレグとキーラの姿が見当たらない、行方不明のままというのが少し気になるけど――)
これ以上の好機は二度と巡ってこないかもしれない、その思いのほうが強かったがゆえに、シャロンはそれを声に出した。
「遂に動く時が来たわ! 積もりに積もったこの恨みをまとめてお返しする時よ!」
この日、この時、シャロンの新たな戦いの火蓋が切って落とされた。
が、それはあくまで彼女の物語。これはあくまでアランの物語。このお話には描かれることの無い別の物語である。
◆◆◆
そしてその物語を知りえぬ者は他にもいた。
その一人であるヴィクトルは港にある宿場の一室で後続の部隊の到着を待っていた。
「……」
特にやることが無いため、ヴィクトルは茶を飲みながら物思いにふけっていた。
麻薬組織の対処は参謀に任せてある。
しかし一つ不安な事はその兵数だ。
はっきり言って不十分。麻薬組織も必死に抵抗するだろう。ただの力押しでは膠着状態になる可能性がある。
だが、これ以上そちらに兵を割く事は出来ない。
警備兵も同じだ。一部地域では暴動がまだ続いている。彼らの数をこれ以上動かすのも得策では無い。
だがそれよりも――
(そうだ、それよりも我々のほうが問題だ)
兵数でいえばこっちもまったく足りていない。
恐らく相手は前回と同じ規模、またはそれ以上で迎え撃ってくるはずだ。
つまり、最低でも倍近い兵数差があることになる。防衛線もさらに長くなっているはずだ。
それだけでは無い。我々には兵糧という制限時間がある。戦果を挙げなければ帰ることすら出来ない。
幸いなことにそれはまだ兵士達には漏れていない。今のところ知っているのは心を隠す技術を持つ参謀と自分だけのはずだ。漏れていたらとっくに混乱が起きているだろう。
すなわち、我々に許される戦術は速攻のみであり、しかもそれはただの正面衝突であってはならないということ。
そういうことはあまり得意では無い。しかも相手にはアランという魔王を凌駕する感知能力者がいるという。
だが、それでも――
(……やるしかない)
と、ヴィクトルは己の中の覚悟を再確認した後、目を閉じて意識を沈めた。
かつて、ある詩人は思った。
この世はきっと強い魔法使いが支配する世界になるだろうと。
だから詩人は神を呪った。なぜ我々にこんな力を持たせたのかと。なぜ我々をこのように御作りになったのか、と。
だが、そんなある日、詩人は知った。
ディーノやヴィクトルのような存在と出会ったのだ。魔法使いと戦うために生まれてきたような存在がいることを知ったのだ。
きっと、彼らのうちの勇敢なる者が、悪い魔法使いに立ち向かってくれるだろう。そんな未来がいつか来る、そう思った詩人はおとぎ話としてその思いを残した。
だが、そんな詩人にも予想出来なかった未来があった。
その勇者同士がぶつかり合う時が来てしまったことだ。
最終話 おとぎ話の続き に続く
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