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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十六話 選択と結末(1)
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◆◆◆
選択と結末
◆◆◆
サイラスとラルフが移動を開始してから一ヶ月半後――
クラウスは収容所を遠目に眺めていた。
ここにアランが運び込まれたことをクラウスはその目で見ていた。
そして奇しくも、この収容所はクラウスにとっての思い出の場所である。
ここを出てから長いが、未だに感情は風化していない。ここには辛い記憶が多すぎる。
クラウスはその思い出の場所を眺めながら、どうやってアランを救うかを考えていた。
自分が単身で乗り込んでどうにかなることではないことは分かっていた。
それでもアラン様のところにまではたどり着けるかもしれない。しかし問題はその後だ。
(同じ処置がされているとしたら、アラン様は自力で歩けなくなっているはずだ)
クラウスは知っていた。ここに運び込まれた捕虜がどうなるのかを。アランが両足を失っている可能性が高いことを。
となれば、救出時はアランを担ぎながら脱出するということになる。
それは困難の一言に尽きる。
だからクラウスは機会を待っていた。
そしてその好機が訪れつつある気配を、クラウスは感じ取っていた。
クラウスが視線を別の場所に移す。
そこには、ちょっとした陣があった。
町から離れた場所に軍が駐留しているのだ。
どこかの貴族がアラン様を受け取りに来たのだろうか、と思った。最初は。
しかしどうやらそうでは無いようであった。
何をするわけでもなく、場に留まっているだけだ。
まるで誰かを待っているかのようだ。
(町から兵を集めているのだろうか?)
徴兵のために留まっている、クラウスはそう考えた。
それが正解だとすれば、収容所から兵士が減る可能性が高い。狙うとすればその時。
(……)
クラウスは藪の中に身を潜めながら、訪れるかもしれないその時をじっと待った。
◆◆◆
一方、クラウスが目で見つけたそれを、アランは自身の神秘で感じ取っていた。
しかしそれに対する判断はクラウスとは違っていた。
(……何かを待っていることは間違い無い。合図か、それとも誰かか――)
思考を重ねていたその時、アランの神秘はさらに別のものを感知した。
(南から何かが近づいて来ている? 数が多い。ということはこれも軍隊か……?!)
瞬間、アランの心は驚きを浮かべた。
(なんだ?! この魔力は!?)
感じ取ったのだ。ラルフの存在を。彼が有する魔力を。
(……こんな魔力を一人の人間が持っているというのか?!)
あまりのことに、アランは自身の神秘の方を疑った。
少なく見積もってもアンナの倍は強い。そして間違いなく父も凌駕している。
現実感が薄れるほどの魔力に、驚きが薄れ始める。
そして別の感情が表に出てきた。
それは疑問。
(南から来ているということは、この者は戦場で戦っていた? そして負傷して離脱した? こんな強力な魔力を持つ者が、負けるとは思えないが……)
瞬間、アランの心に再び父の姿が浮かんだ。
(……父と戦ったのだろうか? そして父が勝った?)
アランの思考は希望ある予測を描いた。それが間違いであることは今は知りえないし、知らなくていい。
そして直後、南から迫るその部隊は奇妙な行動を取った。
(……? 何人かが離脱し、駐留している部隊のほうに向かった?)
挨拶でもするつもりだろうか、とアランは考えたが、アランが持つ神秘はそれが間違いであることを示した。
少数が接触して暫くした後、ひりひりと焼け付くような感覚が、その部隊から放たれ始めたのだ。
それが敵意によるものであることを、アランは部隊の行動から察した。
駐留していた部隊が町に向かって前進を開始したのだ。きちんとした隊列を組んで。
その行動が意味するもの、それは一つしか思い浮かばなかった。
(まさか、この町を攻撃するつもりなのか!?)
一体何が始まろうとしているのか。動けない今のアランにはそれを予想することしか出来なかった。
◆◆◆
一方、サイラスは相変わらずラルフと同じ馬車の中にいた。
しかし今の二人の間に会話は無い。
もう話すことが無くなったからだ。
そして、サイラスは時が訪れるのを待っていた。
(……そろそろか)
時が間近に迫っている、サイラスがそう思った瞬間、
「……何の音でしょうか?」
それが訪れたことを、ラルフが疑問という形で声に出した。
その音は町の方から響いていた。
もっと正確に言えば収容所の方からだ。
そしてそれが軍隊の進軍音であることを理解するのに時間はさほどかからなかった。
ラルフは声を上げようとしたが、それよりも先にサイラスが馬車を操縦する御者に向かって口を開いた。
「馬車を走らせろ! 全速力でだ! マズいことが起きようとしているぞ!」
サイラスはそう叫んだ。そのマズいことがなんなのかを知っていながら。
選択と結末
◆◆◆
サイラスとラルフが移動を開始してから一ヶ月半後――
クラウスは収容所を遠目に眺めていた。
ここにアランが運び込まれたことをクラウスはその目で見ていた。
そして奇しくも、この収容所はクラウスにとっての思い出の場所である。
ここを出てから長いが、未だに感情は風化していない。ここには辛い記憶が多すぎる。
クラウスはその思い出の場所を眺めながら、どうやってアランを救うかを考えていた。
自分が単身で乗り込んでどうにかなることではないことは分かっていた。
それでもアラン様のところにまではたどり着けるかもしれない。しかし問題はその後だ。
(同じ処置がされているとしたら、アラン様は自力で歩けなくなっているはずだ)
クラウスは知っていた。ここに運び込まれた捕虜がどうなるのかを。アランが両足を失っている可能性が高いことを。
となれば、救出時はアランを担ぎながら脱出するということになる。
それは困難の一言に尽きる。
だからクラウスは機会を待っていた。
そしてその好機が訪れつつある気配を、クラウスは感じ取っていた。
クラウスが視線を別の場所に移す。
そこには、ちょっとした陣があった。
町から離れた場所に軍が駐留しているのだ。
どこかの貴族がアラン様を受け取りに来たのだろうか、と思った。最初は。
しかしどうやらそうでは無いようであった。
何をするわけでもなく、場に留まっているだけだ。
まるで誰かを待っているかのようだ。
(町から兵を集めているのだろうか?)
徴兵のために留まっている、クラウスはそう考えた。
それが正解だとすれば、収容所から兵士が減る可能性が高い。狙うとすればその時。
(……)
クラウスは藪の中に身を潜めながら、訪れるかもしれないその時をじっと待った。
◆◆◆
一方、クラウスが目で見つけたそれを、アランは自身の神秘で感じ取っていた。
しかしそれに対する判断はクラウスとは違っていた。
(……何かを待っていることは間違い無い。合図か、それとも誰かか――)
思考を重ねていたその時、アランの神秘はさらに別のものを感知した。
(南から何かが近づいて来ている? 数が多い。ということはこれも軍隊か……?!)
瞬間、アランの心は驚きを浮かべた。
(なんだ?! この魔力は!?)
感じ取ったのだ。ラルフの存在を。彼が有する魔力を。
(……こんな魔力を一人の人間が持っているというのか?!)
あまりのことに、アランは自身の神秘の方を疑った。
少なく見積もってもアンナの倍は強い。そして間違いなく父も凌駕している。
現実感が薄れるほどの魔力に、驚きが薄れ始める。
そして別の感情が表に出てきた。
それは疑問。
(南から来ているということは、この者は戦場で戦っていた? そして負傷して離脱した? こんな強力な魔力を持つ者が、負けるとは思えないが……)
瞬間、アランの心に再び父の姿が浮かんだ。
(……父と戦ったのだろうか? そして父が勝った?)
アランの思考は希望ある予測を描いた。それが間違いであることは今は知りえないし、知らなくていい。
そして直後、南から迫るその部隊は奇妙な行動を取った。
(……? 何人かが離脱し、駐留している部隊のほうに向かった?)
挨拶でもするつもりだろうか、とアランは考えたが、アランが持つ神秘はそれが間違いであることを示した。
少数が接触して暫くした後、ひりひりと焼け付くような感覚が、その部隊から放たれ始めたのだ。
それが敵意によるものであることを、アランは部隊の行動から察した。
駐留していた部隊が町に向かって前進を開始したのだ。きちんとした隊列を組んで。
その行動が意味するもの、それは一つしか思い浮かばなかった。
(まさか、この町を攻撃するつもりなのか!?)
一体何が始まろうとしているのか。動けない今のアランにはそれを予想することしか出来なかった。
◆◆◆
一方、サイラスは相変わらずラルフと同じ馬車の中にいた。
しかし今の二人の間に会話は無い。
もう話すことが無くなったからだ。
そして、サイラスは時が訪れるのを待っていた。
(……そろそろか)
時が間近に迫っている、サイラスがそう思った瞬間、
「……何の音でしょうか?」
それが訪れたことを、ラルフが疑問という形で声に出した。
その音は町の方から響いていた。
もっと正確に言えば収容所の方からだ。
そしてそれが軍隊の進軍音であることを理解するのに時間はさほどかからなかった。
ラルフは声を上げようとしたが、それよりも先にサイラスが馬車を操縦する御者に向かって口を開いた。
「馬車を走らせろ! 全速力でだ! マズいことが起きようとしているぞ!」
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