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第三話 近づき始める二人(5)

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 この質問に彼女は正直に、かつ欲しかった答えを直球で返してくれた。

「家庭教師のバイトしたり、親からの仕送りを節約して浮かせたりしてるから、それでなんとかなってるって感じかな」

 バイト、それは俺も考えたことがあった。
 しかしやはり部活との両立は厳しい。家庭教師のような拘束時間が短いものはまさにうってつけだが、俺の頭では教師の真似事は出来ない。当時はそういう短時間の仕事をよく探すこともせずにすぐにあきらめた。
 だけど今は違う。ちゃんと探してみるのはアリかもしれない。この夏休みという長い自由時間を利用することも考えるべきだろう。
 だが、衝撃だったのは次だ。
 親からの仕送りを受けている、そのことから導き出される答えは一つだけだった。
 俺はあえてそれを尋ねた。

「天野さんって、一人暮らしだったんだな」と。

 彼女は「うん」と頷きを返した。
 俺は即座に「どこに住んでるんだ?」と聞き返そうとした。
 が、俺はそれを寸でのところで堪えた。
 いきなり住所を知ろうとするなんてまるでストーカーだ、そう思ったからだ。
 だから俺は別のことを尋ねた。

「料理とか洗濯とか、大変じゃないか?」

 これに彼女は即答しなかった。
 俺に変な遠慮でもしてるのだろうか。
 それとも、「そんなことないよ」という本心を謙遜して「大変だよ」に変えようとでもしているのだろうか。
 そんなどうでもいい勘繰りを俺がやり始めた直後、彼女は答えた。

「うーん……結構大変、かな?」
「そうなのか?」

 ちょっと意外だ、という言葉を俺が飲み込むと、彼女は再び口を開いた。

「中学の時は全部お母さんがやってくれてたから……高校に入って全部一人でやり始めた時は大変だったよ。最近やっと慣れてきたけど、やっぱりめんどくさいかな」
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