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第三話 近づき始める二人(9)

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 そしてこの一つの趣味の共有は次の変化をもたらした。
 休憩と称して一緒に喫茶店に入るようになったり、食事をするようになったのだ。
 罪の意識のようなものがあったゆえに、代金は全て俺が支払った。
 その金はどこから調達したのか疑問に思う人は多いだろう。
 単純である。親だ。
 俺は親に事情を説明して小遣いの前借りを要求した。
 これに両親は快く了承してくれた。
 理由の説明のために彼女の話をした時、両親は俺の変化を喜んでくれた。
 お前は異性とは一生縁が無い人生を送ると思っていた、などととんでもないことを言われもした。
 本当に酷い言われようだが、一年の頃の自分を思い返してみると、あながち間違ってもいないような気がした。
 そうだ。俺は彼女のおかげで良い方向に変化している。本当にそう思う。
 そして恩人のような彼女と一緒に食事に行くようになった。
 いや、恩人というのは少し間違いだ。そういう思いもあったのは間違い無いが、別の感情のほうがはるかに強かった。
 俺は彼女を異性としてはっきりと意識していたのだから。
 だから本当は一緒にプールや海などに行きたかった。
 しかし残念ながら、俺達の間柄はまだそこまで深いものでは無かった。
 勉強の合間の休息、という口実を使ってようやく、一緒に食事したり喫茶店に入るのが関の山だった。
 されど、プールについては一度だけ話題にあがった。
 しかし、それは俺が望んでいたものでは無かった。
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