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第五話 そしてエイジはついに勇気を出す(4)
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映画鑑賞は楽しかった。ハズレは無かった。
それは間違い無い。だが、
「「……」」
三本目の中盤にさしかかる頃には、部屋の空気は奇妙なものになっていた。
原因は全ての映画にあった。
あるシーンのせいだ。
その問題のシーンが、いま再び画面に映っていた。
それは男女の愛を表現をしたシーンであった。
キスなどのソフトなものでは無い。
つまりそういうことだ。
「「……」」
このシーンを見るのは三度目。
つまり、これまで見たすべてが大当たりなのだ。
一本目のヒーローアクションではヒロインとのシーンがあった。二本目はラブロマンスだったのであっても不思議ではなかったが、三本目は避けるためにミステリーを選んだのだ。
なのに大当たりだ。
「「……」」
当たり前のように気まずい。
しかもよりにもよってこの三本目のシーンが一番悩ましい。
そこまで描写しなくていい、というところまで攻めてくる。
登場人物の関係性を掘り下げてミスリードを誘うためだろうが、こんなに頑張らないでほしい。
しかも長い。早く終わってくれ!
さすがにこの空気には彼女も耐えられなかったのか、
「飲み物いれなおしてくるね。またコーヒーでいい?」
などと、親切を装った逃亡宣言を放った。
だが当然責めることは出来ない。俺も逃げ出したいのだから。
そして何より、その宣言は俺にとってもありがたかった。一人のほうが気楽だからだ。
だから俺が「うん」と答えると、彼女はカップを乗せたトレイを持って気持ち早めに部屋から出ていった。
「……」
そうして一人になった俺はシーンを淡々と眺めた。
やはり一人のほうが邪念を消しやすい。
そして予想通り、彼女はシーンが終わってから戻ってきた。
しかしその手のトレイには、コーヒー以外のものが乗っていた。
「初めて作ったものだから、あまり自信無いんだけど……」
そう言いながら出されたそれはプリンであった。
渡されたスプーンでぱくりと一口。
「どうかな?」
おいしい、俺が素直な感想を返すと、彼女は素敵な笑顔を見せてくれた。
思えば、彼女の手料理を食べたのはこの時が初めてだったはず。
なのにこの時の俺にはそれに対しての感動は薄かった。
やはりあのシーンが強烈すぎたのだ。
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