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第七話 熱く眩しい夏(5)

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 俺はありがたくその提案を受け入れることにした。
 泡まみれになったボディスポンジが俺の背中の上を上下し始める。

「……っ」

 なぜだか妙にくすぐったい。
 自分でするのとは違う感覚。
 子供の頃、親にされた時はこんな風にならなかったはずだ。
 やはり恥ずかしさなどが影響しているのだろうか、そんなことを考えてくすぐったさから気をそらしていると、

「はい終わり!」

 背中がシャワーで流される感覚と共に、むずがゆい時間は終わり、

「じゃあエイジくん、わたしの背中をお願い」

 そして攻守は交代することになった。
 スポンジを受け取り、背中をこすり始める。
 細くてきれいな背中だなあ、などの素直な感想が勝手に頭の中に浮かび上がる。

「……っ」

 ゆえに、俺は自然と興奮してしまった。
 顔が火照るのを感じた。
 赤らんだ顔を見られたくない、そう思った俺はなんとかして興奮を鎮めようとした。
 が、

「……なんかくすぐったい」

 彼女はカワイイ声で俺の興奮に追撃をかけてきた。
 あーもう! 本当にカワイイなあ、こんちくしょう!
 うしろから抱きしめたい。
 待て待て待て、それはちょっとさすがに。
 いや、もしかしてアリなのか? オッケーなのか? 水着とはいえ一緒にお風呂に入ってるんだからそれくらいいいのでは?
 いやいやいや、落ち着け。「それくらい」ってなんだ。そんな軽いことじゃ無いから!

(~~っ!)

 俺がそんな葛藤の戦いを心の中で繰り広げていると、

「どうしたのエイジくん?」

 俺の手はいつの間にか止まっていた。

「いや、なんでもない」

 俺はごまかしながら彼女の背中をシャワーで流し、立ち上がった。
 興奮を冷ますためにぬるい湯船の中に身を沈める。

(あ~……落ち着く)

 自分の心の中にある熱い何かが溶けていくのを感じた俺は、背中を浴槽の壁に預けて目を閉じた。
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