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47.俺、息を殺す
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さて、困った。
寮の一室に「ここに隠れてろ!」とばかりに放り込まれた俺は、エンとスイの頭を撫でながら、これからどうすべきなのかと模索する。
どうやら第一研究所の研究員がまた来ているようなんだが、今度は「無属性の魔晶石を作れる者がいるはずだ!」とやってきた。うん、明らかに情報が漏れてるよな。
考えられるのは、マルチアのように風属性の達者な人が第一研究所にいる可能性、そして、考えたくはないが、第一研究所に情報を漏らした者がいる可能性だ。
「こういうの、得意じゃないんだよな」
『こういうの?』
『母上?』
エンとスイが居てくれてよかった。信頼できる誰かがいるだけで、心が落ち着く。一人だったら、絶対にパニックになってたよな。第一研究所に連れて行かれたら、何されるかわからないし、そもそも人間だってバレたら……うん、これ以上は考えないようにしよう。
「それにしても……」
実は、困ったことがもう一つ発生している。ここに放り込まれてからすぐに急浮上した問題だ。
『……お母様?』
俺を呼ぶ声の主は、……そう、三人目の精霊だ。
エンとスイの隣にちょこんと立つ姿は、二人と変わりない。なんだかちっちゃくて可愛らしいフォルムは、つい撫でたくなる。身体の色が真っ黒なので、暗い中だとわかりにくいように思えるが、不思議と存在感みたいのがあって、ちゃんとそこにいることが分かる。
「うん、ごめんな。ちょっと気が動転してた」
闇の精霊だと自己申告されたので、とりあえずアンと名付けたんだが、正直、闇って何ができるんだろう、と首を傾げた。火や水と違って、身近にあるけど分かりにくいというか……
『生き物を眠らせたり、影を介して操ったり、影を通して移動ができますの』
うん、待とう。なんだかすごく暗殺者向きの「できること」を並べられて、思わず頭を抱えそうになった。
すごいでしょ、褒めて、とばかりに胸を張っているので、とりあえず頭を撫でておく。すると、エンやスイまでもが、慌てて自分のできることを自己申告し始めた。張り合っているのが可愛いので、やっぱり撫でておく。
(問題は、この闇属性がどこから来たのか……ってことだよな)
俺は頑張って考えてみることにする。俺の記憶が正しければ、次に生まれる精霊について闇属性と予想して賭けていた人はいなかったはずだ。いや、居たとしても少額だったはず。そうでなければ、記憶に残っているはずだしな。
ということは、研究員の中に闇属性を持っている者がいない、ということだ。賭けについて説明していたシャラウィの話だと、他の研究員の属性を知っている前提っぽかったからな。属性の濃さ、みたいなのは分からないと言ってはいたけど。
(いや、待てよ? 闇属性を持っていることを隠している可能性がある……か?)
その考えに至ったとき、鳥肌が立った。もしかして、第二研究所の中にスパイがいたりするんじゃないか? その研究員が闇属性持ちで――――
「いやだな」
思わず声に出してしまった。正直、そりの合わない研究員同士もいるみたいだが、基本的に研究室全体の雰囲気はいい。でなければ、あんな賭け事なんてスルーされるだろう。でも、研究室の壁に表を貼りだしても文句が出ないぐらいには、いい関係のはずだ。だからこそ、その中に裏切り者がいるだなんて考えたくもない。
そうだ。そうに決まっている。アンが生まれたのだって、きっと天井裏とかに潜んで情報を抜き取っている輩がいたに違いないんだ。アンに聞けば真実は分かるのかもしれないが、俺はあえてその道を選ばなかった。
「なぁ、アン」
『なんでしょう、お母様』
「さっき、影を通して移動できるって言ったけど、アンだけでなく皆一緒に移動できるものなのか?」
『お母様とエンとスイのことでしたら、もちろんですの』
「移動していることを、他の人――たとえば、今、研究室にいる人たちが察知することはできるのか?」
『大丈夫ですの。よほど相手がこちらに探査の糸を向けていなければ、バレることはありませんの』
聞けば聞く程、なんだか裏稼業向けの能力だな。俺はそんなことしないけど。
寮の一室に「ここに隠れてろ!」とばかりに放り込まれた俺は、エンとスイの頭を撫でながら、これからどうすべきなのかと模索する。
どうやら第一研究所の研究員がまた来ているようなんだが、今度は「無属性の魔晶石を作れる者がいるはずだ!」とやってきた。うん、明らかに情報が漏れてるよな。
考えられるのは、マルチアのように風属性の達者な人が第一研究所にいる可能性、そして、考えたくはないが、第一研究所に情報を漏らした者がいる可能性だ。
「こういうの、得意じゃないんだよな」
『こういうの?』
『母上?』
エンとスイが居てくれてよかった。信頼できる誰かがいるだけで、心が落ち着く。一人だったら、絶対にパニックになってたよな。第一研究所に連れて行かれたら、何されるかわからないし、そもそも人間だってバレたら……うん、これ以上は考えないようにしよう。
「それにしても……」
実は、困ったことがもう一つ発生している。ここに放り込まれてからすぐに急浮上した問題だ。
『……お母様?』
俺を呼ぶ声の主は、……そう、三人目の精霊だ。
エンとスイの隣にちょこんと立つ姿は、二人と変わりない。なんだかちっちゃくて可愛らしいフォルムは、つい撫でたくなる。身体の色が真っ黒なので、暗い中だとわかりにくいように思えるが、不思議と存在感みたいのがあって、ちゃんとそこにいることが分かる。
「うん、ごめんな。ちょっと気が動転してた」
闇の精霊だと自己申告されたので、とりあえずアンと名付けたんだが、正直、闇って何ができるんだろう、と首を傾げた。火や水と違って、身近にあるけど分かりにくいというか……
『生き物を眠らせたり、影を介して操ったり、影を通して移動ができますの』
うん、待とう。なんだかすごく暗殺者向きの「できること」を並べられて、思わず頭を抱えそうになった。
すごいでしょ、褒めて、とばかりに胸を張っているので、とりあえず頭を撫でておく。すると、エンやスイまでもが、慌てて自分のできることを自己申告し始めた。張り合っているのが可愛いので、やっぱり撫でておく。
(問題は、この闇属性がどこから来たのか……ってことだよな)
俺は頑張って考えてみることにする。俺の記憶が正しければ、次に生まれる精霊について闇属性と予想して賭けていた人はいなかったはずだ。いや、居たとしても少額だったはず。そうでなければ、記憶に残っているはずだしな。
ということは、研究員の中に闇属性を持っている者がいない、ということだ。賭けについて説明していたシャラウィの話だと、他の研究員の属性を知っている前提っぽかったからな。属性の濃さ、みたいなのは分からないと言ってはいたけど。
(いや、待てよ? 闇属性を持っていることを隠している可能性がある……か?)
その考えに至ったとき、鳥肌が立った。もしかして、第二研究所の中にスパイがいたりするんじゃないか? その研究員が闇属性持ちで――――
「いやだな」
思わず声に出してしまった。正直、そりの合わない研究員同士もいるみたいだが、基本的に研究室全体の雰囲気はいい。でなければ、あんな賭け事なんてスルーされるだろう。でも、研究室の壁に表を貼りだしても文句が出ないぐらいには、いい関係のはずだ。だからこそ、その中に裏切り者がいるだなんて考えたくもない。
そうだ。そうに決まっている。アンが生まれたのだって、きっと天井裏とかに潜んで情報を抜き取っている輩がいたに違いないんだ。アンに聞けば真実は分かるのかもしれないが、俺はあえてその道を選ばなかった。
「なぁ、アン」
『なんでしょう、お母様』
「さっき、影を通して移動できるって言ったけど、アンだけでなく皆一緒に移動できるものなのか?」
『お母様とエンとスイのことでしたら、もちろんですの』
「移動していることを、他の人――たとえば、今、研究室にいる人たちが察知することはできるのか?」
『大丈夫ですの。よほど相手がこちらに探査の糸を向けていなければ、バレることはありませんの』
聞けば聞く程、なんだか裏稼業向けの能力だな。俺はそんなことしないけど。
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