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12.誤解の想い人
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ドキドキしながら進路指導室に戻ると、真剣に学校案内のパンフレットを眺めている梓ちゃんが待っていた。
「ごめん、梓ちゃん。お待たせ」
「いいよ、見つかった?」
「うん。……あと、なんか教室に残ってた宇那木さんたちから、丹田くんのこと聞かれたよ」
怖かった、と息をついた私に、梓ちゃんは「上手く切り抜けられた?」と尋ねてくる。
「うまくすっとぼけられた、と思う」
「ユズにしては上手くやったみたいね。お疲れ」
「はぁ……。もう、なにあれ。丹田くんてそんなに人気あるの?」
「まぁ、中学の頃から何気に目立つことやってたし、そういうのが好きな女子ってのもいるんじゃない?」
「マジかー……。そういえば、宇那木さんとも同中なんだよね。宇那木さんも、中学からあんな感じ?」
「そう、かな。あんまり接点ないけど、ポジションは変わってないと思うよ」
「なんか、梓ちゃんの中学って、スゴかったんだね」
「何よ、その評価。別に普通だと思うけど」
そうかなー。梓ちゃんみたいなクール女子がいて、丹田くんみたいなムードメーカーがいて、宇那木さんみたいな発火点低い爆弾みたいな人がいて、それだけですごいじゃん。
「じゃ、もう帰ろうか」
「あ、そうだね。ごめんね、梓ちゃんも付き合わせちゃって」
「いいのいいの。何ならもっと頼ってくれてもいいわよ」
「きゃー! 梓ちゃん、ステキ! 惚れる!」
「はいはい」
二人で仲良く下校しながら、ふと、思い出して疑問を口にしたのは、駅も近くなった頃だった。
「ねぇ、梓ちゃん」
「ん?」
「丹田くんてさ、下の名前覚えてる?」
「あー? 確か、時貞、だったかな。天草四郎っぽいって思ったから覚えてる」
「あ、なるほど」
ようやく私は納得した。
「何が?」
「宇那木さんたちに、『サダサダ』って呼ばれてたから」
「ぷっ」
あ、梓ちゃんが笑った。珍しい。
「重ねて言うと、ダサダサって言われてるみたいでウケる」
「おぉ、なるほど」
その発想はなかった。梓ちゃんてば、目の付け所が違う。
「それじゃ、梓ちゃん。私こっちだから」
「また例の本屋に行くの?」
「うん、なんか今日は変なことばっかりだったから、禊に」
「禊、ねぇ。会えるといいね」
「うん!」
梓ちゃんと別れた私は、軽やかな足取りで本屋に向かう。もちろん、あの色んな意味で充実した本屋だ。いつもより遅い時間だから、いない可能性は大きい。そもそも今日だって寄ったかどうか分からない。
でも、もしかしたら会えるかもしれない。そんな期待だけで、私の足は羽みたいに軽くなるんだ。七ツ役くんのこと考えただけで、空腹も吹っ飛ぶし。マジ万能だよ七ツ役くん。
そんな本屋のいつもの棚に向かう。七ツ役くんがいなかったら、こないだ七ツ役くんが手に取ってた本を開こう。確か、「天気図の散歩道」ってタイトルだったよね。ふふふ、私の視力は良いのだ。
「……今日はいないか」
まぁ、そんな日もある。
仕方がないので目当ての本を棚から引っ張り出して、ぱらぱらと見る。特殊な地形の天気や、珍しい天気図なんかをまとめてある本らしい。そうか、こういうのに興味があるのか。
残念ながらそれほど興味があるわけではない。でも、七ツ役くんとの会話のネタになるというなら話は別だ。パラパラとめくりながら、書かれていることをざっと上辺だけ理解する。
「あれ、別役さん」
「あ、七ツ役くん」
声が弾みそうになるのを、必死で押さえた。あれだよね。いるかな、と思って遭遇するのと、いないだろうな、と諦めてから出会うのとでは、喜びの幅が違うよね。
「図書室の本、ありがとう。おかげでゆっくり読めたよ」
「あぁ、いいって。どうせ、あんまり借りる人もいないような本だし、うちの部活で回し読みしてる感じもするから。――――どうだった?」
よし来た! この質問を待っていたのよ!
「面白かったよ。章の間にあったコラムとか。台風を火山が撃ち落としたっていうのがあったよね」
「あぁ、あれは俺もびっくりした」
「それに、全体的に、やっぱり天気って風と湿気なんだなって」
私の答えの何がツボだったのか分からないけど、突然、七ツ役くんが口元を手で抑えて震えた。私、そんなに変なこと言ったっけ?
「湿気……、ふふ、湿気」
「えぇと、私、そんなに面白いこと言った?」
「うん、いや、普通、だと思うんだけどね」
七ツ役くんは涙を拭う仕草をしてから、私に向き直る。やばい、そんな仕草が貴重過ぎるんですけど! 今日はなんだか心のスクショが大活躍する日だ。
「普通はさ、湿度って言わない?」
「う、でも、身近な単語だったら、湿度より湿気じゃない? 髪のまとまり方も、やっぱり湿気によるし」
「うん、意外と面白いよね、別役さんって」
「そう、かな?」
果たして「面白い」は褒め言葉か分からないけど、つまりはそれなりに七ツ役くんの心に刺さる存在になれたってことだから、これは手放しで喜んでいいのでは?
よし、今日は帰ったらジュースで祝杯をあげよう。カロリー高いからいつもは封印してる炭酸ジュースを解禁だ!
「……だから丹田が好きなわけだ。あ、ごめん、今のなし!」
「ん? なんか言った? ごめん、よく聞こえなくて、もう一回いい?」
「いや、大したことじゃないんだ。ごめん、もう俺帰るから」
「あ、うん、また明日学校で」
「ごめん、梓ちゃん。お待たせ」
「いいよ、見つかった?」
「うん。……あと、なんか教室に残ってた宇那木さんたちから、丹田くんのこと聞かれたよ」
怖かった、と息をついた私に、梓ちゃんは「上手く切り抜けられた?」と尋ねてくる。
「うまくすっとぼけられた、と思う」
「ユズにしては上手くやったみたいね。お疲れ」
「はぁ……。もう、なにあれ。丹田くんてそんなに人気あるの?」
「まぁ、中学の頃から何気に目立つことやってたし、そういうのが好きな女子ってのもいるんじゃない?」
「マジかー……。そういえば、宇那木さんとも同中なんだよね。宇那木さんも、中学からあんな感じ?」
「そう、かな。あんまり接点ないけど、ポジションは変わってないと思うよ」
「なんか、梓ちゃんの中学って、スゴかったんだね」
「何よ、その評価。別に普通だと思うけど」
そうかなー。梓ちゃんみたいなクール女子がいて、丹田くんみたいなムードメーカーがいて、宇那木さんみたいな発火点低い爆弾みたいな人がいて、それだけですごいじゃん。
「じゃ、もう帰ろうか」
「あ、そうだね。ごめんね、梓ちゃんも付き合わせちゃって」
「いいのいいの。何ならもっと頼ってくれてもいいわよ」
「きゃー! 梓ちゃん、ステキ! 惚れる!」
「はいはい」
二人で仲良く下校しながら、ふと、思い出して疑問を口にしたのは、駅も近くなった頃だった。
「ねぇ、梓ちゃん」
「ん?」
「丹田くんてさ、下の名前覚えてる?」
「あー? 確か、時貞、だったかな。天草四郎っぽいって思ったから覚えてる」
「あ、なるほど」
ようやく私は納得した。
「何が?」
「宇那木さんたちに、『サダサダ』って呼ばれてたから」
「ぷっ」
あ、梓ちゃんが笑った。珍しい。
「重ねて言うと、ダサダサって言われてるみたいでウケる」
「おぉ、なるほど」
その発想はなかった。梓ちゃんてば、目の付け所が違う。
「それじゃ、梓ちゃん。私こっちだから」
「また例の本屋に行くの?」
「うん、なんか今日は変なことばっかりだったから、禊に」
「禊、ねぇ。会えるといいね」
「うん!」
梓ちゃんと別れた私は、軽やかな足取りで本屋に向かう。もちろん、あの色んな意味で充実した本屋だ。いつもより遅い時間だから、いない可能性は大きい。そもそも今日だって寄ったかどうか分からない。
でも、もしかしたら会えるかもしれない。そんな期待だけで、私の足は羽みたいに軽くなるんだ。七ツ役くんのこと考えただけで、空腹も吹っ飛ぶし。マジ万能だよ七ツ役くん。
そんな本屋のいつもの棚に向かう。七ツ役くんがいなかったら、こないだ七ツ役くんが手に取ってた本を開こう。確か、「天気図の散歩道」ってタイトルだったよね。ふふふ、私の視力は良いのだ。
「……今日はいないか」
まぁ、そんな日もある。
仕方がないので目当ての本を棚から引っ張り出して、ぱらぱらと見る。特殊な地形の天気や、珍しい天気図なんかをまとめてある本らしい。そうか、こういうのに興味があるのか。
残念ながらそれほど興味があるわけではない。でも、七ツ役くんとの会話のネタになるというなら話は別だ。パラパラとめくりながら、書かれていることをざっと上辺だけ理解する。
「あれ、別役さん」
「あ、七ツ役くん」
声が弾みそうになるのを、必死で押さえた。あれだよね。いるかな、と思って遭遇するのと、いないだろうな、と諦めてから出会うのとでは、喜びの幅が違うよね。
「図書室の本、ありがとう。おかげでゆっくり読めたよ」
「あぁ、いいって。どうせ、あんまり借りる人もいないような本だし、うちの部活で回し読みしてる感じもするから。――――どうだった?」
よし来た! この質問を待っていたのよ!
「面白かったよ。章の間にあったコラムとか。台風を火山が撃ち落としたっていうのがあったよね」
「あぁ、あれは俺もびっくりした」
「それに、全体的に、やっぱり天気って風と湿気なんだなって」
私の答えの何がツボだったのか分からないけど、突然、七ツ役くんが口元を手で抑えて震えた。私、そんなに変なこと言ったっけ?
「湿気……、ふふ、湿気」
「えぇと、私、そんなに面白いこと言った?」
「うん、いや、普通、だと思うんだけどね」
七ツ役くんは涙を拭う仕草をしてから、私に向き直る。やばい、そんな仕草が貴重過ぎるんですけど! 今日はなんだか心のスクショが大活躍する日だ。
「普通はさ、湿度って言わない?」
「う、でも、身近な単語だったら、湿度より湿気じゃない? 髪のまとまり方も、やっぱり湿気によるし」
「うん、意外と面白いよね、別役さんって」
「そう、かな?」
果たして「面白い」は褒め言葉か分からないけど、つまりはそれなりに七ツ役くんの心に刺さる存在になれたってことだから、これは手放しで喜んでいいのでは?
よし、今日は帰ったらジュースで祝杯をあげよう。カロリー高いからいつもは封印してる炭酸ジュースを解禁だ!
「……だから丹田が好きなわけだ。あ、ごめん、今のなし!」
「ん? なんか言った? ごめん、よく聞こえなくて、もう一回いい?」
「いや、大したことじゃないんだ。ごめん、もう俺帰るから」
「あ、うん、また明日学校で」
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